「奴隷で一生終えた物語」

@nyantan1988

「奴隷で一生を終えた物語」

俺は死んだ。ダンジョンで魔物にやられてしまった。仲間が必死に俺を引きずり出してくれたが、蘇生には金貨10枚が必要だと言われた。農家が一月働いてやっと手に入る金額だ。それがたった一度の命を取り戻すために消えてしまう。

蘇生してもらったはいいが、手元に金はなかった。仲間に借りることもできず、俺は奴隷になった。自由を失い、食べるものは一日パン一つと水。それ以上は望むなと言われた。牢屋の中で、俺は常に鉄の鎖に繋がれている。光も少ない狭い部屋で、日が昇るのか沈むのかも分からない。自由だった頃の俺が、遠い昔の夢のように感じる。

誰かが俺を買ってくれれば、少なくとも牢屋から出られる。労働は辛いかもしれないが、少なくとも今の生活よりはマシだ。購入者は俺に仕事を与え、住む場所や食事も提供してくれる。一月に1金貨を稼ぐことができる。それは俺にとって、もう一度自由になるための小さな一歩だ。

でも、まずは誰かに買ってもらわないと話にならない。奴隷としての俺の価値を、誰かに見出してもらわなければならない。だから俺は毎日、自分を売るための策を考える。どんな仕事でも、どんな命令でも従う覚悟でいる。ただ、自由を取り戻すために。

奴隷としての一番の用途は肉体労働だ。俺もその一人で、毎日筋トレを欠かさない。荷運びや力仕事に耐えられるよう、体を鍛えるのは自分に課された唯一の準備だ。

ダンジョンで使われることはほとんどない。もし俺がまた死んでしまったら、購入者が蘇生料を支払わなければならないからだ。金貨10枚はとても高い。それだけのリスクを背負ってまで、奴隷をダンジョンに連れて行く者は少ない。それならば、地上での肉体労働の方がまだ安全で価値があるとされる。

俺の希望は、力仕事で評価されて、どこかの商人か地主に買われることだ。そのために毎日、自分を鍛え続ける。

筋トレの日々は単調で、肉体的には厳しいが、それでも希望がある限り続けなければならない。購入者が現れることを夢見て、自分の体を鍛え上げる。それが俺にとって唯一の生きる道だからだ。

奴隷仲間たちも同じように過ごしている。皆、各々の希望を胸に秘め、黙々と鍛錬を積む者もいれば、諦めてしまっている者もいる。しかし、俺は諦めない。ここで終わるつもりはない。力をつければ、きっと誰かに見出されるはずだ。

それでも、頭の片隅には不安が残る。俺が本当に売れるのか、そして売られた先で自由になる日は来るのか。だが、そんな不安に負けてはいられない。今はとにかく、体を動かして力をつけることに集中するしかない。生きるために、そしていつか再び自由になるために。

筋トレと肉体労働に専念する毎日が続く中で、牢屋の中から外の世界を見ることはできないが、少しずつ体力がついていくのを感じる。荷物の運搬や重い物を持ち上げる力がついてきて、少しは役立つ人間になれると信じている。

そんな中、奴隷の仲間たちとの会話も増えてきた。彼らも皆、それぞれの夢や希望を持っているが、同時に現実の厳しさに直面している。俺たちは共に困難を乗り越えようとする仲間であり、お互いに励まし合いながら日々を過ごしている。

夜になると、薄暗い牢屋の中で、仲間たちと交わす言葉が心の支えになる。皆、自由を取り戻すために努力しているのだ。そのためには、まず自分が価値ある存在にならなければならない。筋トレや力仕事がその一歩になると信じている。

それにしても、心のどこかでいつか自由になれるという希望を持ち続けることが、最も大切だ。毎日の苦しい訓練も、その希望を胸に乗り越えるしかない。やがて、誰かに俺の力が認められ、自由を手に入れる日が来ると信じて、今日もまた力を込めて鍛え続ける。

昨日、いくつかの奴隷が売れていった。特に力のある奴隷たちは、すぐにでも需要があると見なされた。彼らの姿は、ついに自由を得る一歩を踏み出すことができたという希望で満ちていたが、その一方で俺たち残された者たちは、ただ静かに見守るしかなかった。

女性の奴隷たちはなかなか売れない。市場での需要が少ないのか、それとも何か別の理由があるのかは分からないが、その姿を見ていると心が痛む。特に、彼女たちの絶望的な目を見ると、自分の心まで沈んでしまう。彼女たちの目には、希望も未来も見えないように映る。そんな目を見続けるのは辛い。心が押しつぶされそうになる。

だから、あまり見ないようにしている。目を背けたくなるほど、あの眼差しはつらい。自分がその目に映る未来を持たないことを知っているから、なおさらだ。少しでも希望を持ち続けるためには、辛い現実を直視せず、自分の努力だけに集中するしかない。そうして、自分もいつかはこの牢屋から出られる日が来ると信じるしかない。

新しい女性の奴隷が現れた。彼女はりんとした顔立ちで、どこか清楚な印象を与えていた。その姿を見て、少し心が和んだ。しかし、今日はその彼女が売れたという知らせがあった。女性が売れるのは珍しいことなので、少し驚いた。

買い手は貴族の人だった。彼女がどのような用途で買われたのかは分からないが、労働力としての使い方ではないようだ。むしろ、彼女の身分や立ち振る舞いから、別の目的があるのかもしれない。そんな彼女が売れたことに、少し羨ましさを感じた。

もうすぐここに入って1週間が経とうとしている。毎日が同じように過ぎていく中で、未来に対する不安が募る。これからもずっとこの牢屋で過ごさなければならないのだろうか。自由を取り戻す希望が薄れていく中で、心の中に不安がよぎる。どれだけ努力しても、このまま終わってしまうのではないかという恐れがある。希望を持ち続けることが難しくなってきている。

次の日、驚いたことに、昨日買われたはずの女性が再びこの牢屋に戻ってきていた。どうしてこんなことになったのか、気になって仕方がなかった。彼女に尋ねてみることにした。

「どうしてまたここにいるんだ?」

女性は黙っていた。再度呼びかけると、無反応のままだ。彼女の表情にはどこか曇りが見え、絶望的な目をしている。そんな彼女がようやく口を開いた。

「彼女は恐らく襲われたんだと思います。」

「襲われた?」と、俺は違和感を覚えた。買い手は貴族で、蘇生料を負担する立場にあるのに、危険な場所に連れていかれることはないだろう。ダンジョンなんてもってのほかだ。彼女がそんな目に遭う理由が見当たらない。

「それにしても、どうして?」と問いただしたが、女性は再び黙り込んでしまった。彼女の言葉からは、状況の深刻さが伝わってくる。何があったのか、理解することが難しいが、彼女の絶望的な表情がその答えの一端を示しているように思える。

俺はその女性が恐らく犯されたのだと察した。彼女は確かに美しい顔立ちをしていたし、そういった事態が起こることもあるのだろう。しかし、それでもなお違和感を感じる。

「もしそうなら、どうしてまだ牢屋にいるんだ?」と思う。彼女の購入者が一月分の金を支払っているはずだ。それならば、自由に逃げることができるはずなのに、どうしてまたここに戻されているのか。その状況が非常に奇妙に感じる。

それに加えて、彼女が再び牢屋に戻されているのは、ただの事故や不幸だけでは説明がつかないような気がする。彼女が戻された理由や背景には、もっと深い問題があるのかもしれない。その真相を知りたいが、今はただ、彼女の絶望的な目と状況の不自然さに疑問を抱くしかない。

次の日、また新しい動きがあった。今度は男性の奴隷が売れていった。やはり、男性の奴隷は比較的早く売れる傾向があるようだ。

男性が売れるのは、体力仕事の需要が高いためだろう。力仕事が必要とされる場面では、男性の方が優先的に選ばれることが多いのかもしれない。見ていると、売られていく男性たちの姿は希望に満ちているが、残された者たちには変わらない現実が続く。

この状況を見て、自分の未来がどうなるのかがますます不安になる。俺も少しでも早く売れるように、今は力をつけることに集中するしかない。希望を持ち続けるためにも、他の奴隷たちと共に前向きな気持ちで日々を過ごすようにしている。

それから1週間が経過した。あのりんとした顔立ちで、目が少し曇った女性が再び売られた。しかし、彼女が絶望的な目をしていないのは、他の女性たちと違って、少し希望を持っているように見える。

ところが、次の日になって再び彼女が帰ってきた。どうしてまた戻ってきたのか、その理由は不明だが、状況が一層謎めいて感じる。彼女が一度売られた後、なぜまたこの牢屋に戻されたのか、その背後に何か重大な問題があるのかもしれない。

彼女の目には再び絶望的な色はなく、どこか冷めた表情が浮かんでいる。こうなると、ますます彼女の運命が気になる。自分が抱えている不安と同じように、彼女にも複雑な事情があるのだろう。どんな理由があって戻されてきたのかを知りたいが、現状ではそれを確かめる手立てがない。

気になって声をかけた。

「おい、お前、どうして帰って来ているんだ?」

彼女は、少し不機嫌そうに顔をしかめながらも、ついに理由を話してくれた。

「犯されそうになったから、舌を噛んで死んでやった」と言ったのだ。

その言葉を聞いて、俺は驚きのあまり言葉を失った。「は?」としか言いようがなかった。彼女は死を恐れることなく、自分の尊厳を守るためにそのような選択をしたのだ。女性としての尊厳が、死の恐怖を上回っているというのは、ある種の強さを感じさせる。

その決断力と自分を貫く姿勢に、正直なところ、少し尊敬の念を抱いた。自分がこの牢屋で悩んでいる一方で、彼女は自分の信念を貫き通すために、命をかけて戦ったのだ。彼女の強さと覚悟には、深い感銘を受けざるを得なかった。

この話が奴隷たちに広まると、状況は大きく変わった。絶望的な顔をしていた女性たちの中には、犯されることで生きる希望を失った者も多く、買われることを恐れて牢屋から出るのを諦める者もいた。そんな中で、舌を噛んで死ぬという選択が広まった。

この動きは、奴隷たちにとって一種の抵抗となり、労働環境や尊厳を踏みにじる行為が減少する結果となった。奴隷たちは、自分たちの権力を勝ち取る一歩を踏み出したのだ。こうして、彼らの間に新たな価値観や希望が生まれ、少しずつでも状況が変わり始めた。

しかし、この状況が逆に影響を及ぼすこととなった。奴隷売買が縮小し、前は2日ごとに1人が売れていたのに対し、今では1週間に1人程度しか売れなくなった。奴隷市場における需要が減少しているのだ。

その中で、俺はまだ売れないままでいる。恐らく、俺がダンジョンの1階で死んだという情報が漏れてしまったのだろう。買い手は、そんなに弱い奴隷は買わないだろうと考えているのかもしれない。自分がその程度で終わるような存在だと見なされるのは、非常に辛い現実だ。

このままでは、さらに時間がかかるかもしれないという不安が募る。売買が縮小している上に、自分の弱さが顕著になっているのだから、状況はますます厳しくなるばかりだ。日々の筋トレや力仕事がどれだけ効果を上げているのかも不明で、努力が報われるかどうかに疑念を抱くことが多くなってきた。

残された時間が長くなり、希望が遠のいていくのを感じる。仲間たちの中でも、売れない者たちが増えれば、ますます焦りが募るだろう。そんな中で、少しでも自分の価値を高めるためには、引き続き努力を続けるしかない。しかし、努力だけではどうにもならないこともあると感じ始めている。

状況が好転することを願いながらも、現実の厳しさに直面し続ける日々。希望を持ち続けるためには、どれだけの忍耐が必要なのか、自分自身に問いかけながら、日々を過ごしている。

1年ほど経ったころ、状況が一変した。急に奴隷の数が増え始めたのだ。これまでの人族だけでなく、エルフやドワーフ、さらには獣人族といった異なる種族が新たに加わってきた。

どうやら、ダンジョンに挑戦した結果、失敗したために彼らが奴隷となったらしい。国全体としてはかなり盛り上がりを見せており、かつての状況とは大きく異なっている。ダンジョンの挑戦や冒険が盛んになり、その影響で冒険者が不足する事態が発生しているようだ。これに伴い、他国からも人材を集めているという話が広まっている。

こうした状況の変化は、奴隷市場にも大きな影響を与えている。新たに加わった異なる種族の奴隷たちが、どのような需要に応じて使われるのか、そして自分の状況がどう変わるのかが気になる。希望の光が見え始めたものの、その影響をどのように受け入れるべきかは、まだ見定められない。

新たな奴隷たちの増加は、またしても奴隷市場に変化をもたらしている。異なる種族の奴隷たちが加わることで、選択肢が増える一方で、売買の競争も激化しているようだ。その中で、自分がどう扱われるのか、どのように状況が変わるのかは、いまだに見通せない。

市場の変化とともに、他国からの人材集めが進む中で、冒険者不足が深刻化している。そのため、より多くの冒険者が必要とされ、その中には奴隷としての自分も含まれるかもしれないという希望も湧いてくる。一方で、これまでのように簡単には売れないかもしれないという不安も抱えている。

国の盛り上がりと、異なる種族の奴隷たちが増えることで、奴隷としての自分の立場や価値がどのように変化するのか、その動向を見守るしかない。新たな局面を迎えた奴隷市場で、どれだけ早く自分が売れるか、それによって未来が大きく変わる可能性があるため、気持ちを切らさずに希望を持ち続ける必要がある。

最近の奴隷市場では、冒険者に売れる奴隷が増えている。特に亜人種の奴隷がよく売れており、人族の奴隷はなかなか売れない。エルフの魔力、ドワーフの鍛冶技術、獣人族の戦闘力といった特性が評価されているためだ。

そのため、人族の自分はますます厳しい立場に置かれている。亜人種の奴隷たちは特定の技能や能力を持っているため、冒険者たちにとっては非常に魅力的であり、その結果、人族の奴隷は相対的に価値が下がってしまっている。これから先、さらに暗い未来が待っているような気がしてならない。

市場の変化により、自分の立場がどんどん厳しくなり、希望を持ち続けるのが難しくなってきた。亜人種の奴隷たちが注目される中で、自分がどう立ち回るべきか、どのように未来を切り開いていくべきかを考えながら、少しでも有利な状況を作り出すために努力し続けるしかない。

結局、その後の状況は思わしくなく、多くの奴隷が売れずに厳しい生活を余儀なくされていた。しかし、運命が一転する出来事が起こった。王様が、20年間牢屋に捕まっていた奴隷を解放する法案を通したのだ。この法案により、長い間拘束されていた奴隷たちは解放されることとなった。

この出来事は、たとえ一度の失敗が人生を棒に振ることがあっても、希望が残されているという教訓を与えてくれた。長い期間牢屋に閉じ込められていた奴隷たちが解放されることで、可能性や新たな人生が開けることを示している。自分自身もこの教訓を心に刻み、どんな困難な状況でも希望を持ち続けることが大切だと再認識した。

この法案がもたらした変化は、未来に対する新たな希望となり、人生がどれほど厳しいものであっても、諦めずに前を向くことが重要だと教えてくれた。

「奴隷で一生を終えた物語」

これまでの経験を基に、本を執筆することに決めた。タイトルは「奴隷で一生を終えた物語」。まだ私は死んでいないが、それもまた一つの意義があるだろう。この本では、20年間の奴隷生活をできるだけ細かく記録し、後世に伝えることを目指した。

この本の中では、奴隷としての経験や失敗を詳細に描きながら、読者に現実を伝えることが目的だ。特に、死んだ際に払える資金を貯めることがいかに重要であるかを強調し、過去の教訓を後の者たちに伝えるつもりだ。

本書では、奴隷としての生活、環境、そして希望の持ち方について、自分の視点から赤裸々に書き込んだ。成功と失敗の間にあったさまざまな出来事や感情、そして希望を持ち続けることの大切さを、少しでも多くの人に伝えたいと思っている。

この本が、私の経験を元にして、他の人たちが同じような困難に直面したときに役立ち、希望を持ち続ける助けになればと願っている。どんなに厳しい状況であっても、前に進む力を見つけるための一助となることを願ってやまない。


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