快晴の魔法使い
朝。
太陽の光が窓から入り込み、小屋の中を照らしている。
その眩しさで、少年は目を覚ました。起き上がり、魔法使いの姿を探す。
窓の外に、魔法使いの姿が見えた。川で洗い物をしているようだ。
少年はソファを立って、小屋の外に出る。
日差しがあるとはいえ、冬の朝は寒かった。
「寒……」
少年は、思わず呟く。
少年に上着を貸したままの魔法使いは、さらに寒そうに見えた。
「あの、これ、上着……」
魔法使いに近づき、上着を差し出す。
魔法使いは少年の方を振り向くと、笑顔でそれを受け取った。
「おはよう。よく眠れた?」
「うん。……すごく、暖かかった」
少年がそう言うと、魔法使いは嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「よかった。……そうだ、これ、使ってみない?」
ふと思い出したように、魔法使いは小瓶を取り出した。小瓶の中には、とろりとした半透明の液体が入っている。
「……これ、なに?」
「これで洗うと髪の毛がさらさらになる、魔法の石鹸だよ。きみ、ずっと外にいたみたいだし、あんまり髪とか洗えていないでしょ?」
「……うん」
少年が頷くのを見ると、魔法使いはそそくさと川岸に少年を座らせ、桶にたっぷりと水を汲む。そして、小瓶の中身を水に入れ、ばしゃばしゃとかき混ぜた。その様子は、どこか楽しそうだ。
「さあ、始めるよ。目は閉じていてね」
「うん」
少年が目を瞑ったのを確認すると、魔法使いは手ぬぐいにたっぷりと水を染み込ませ、少年の頭の上で絞った。
少年は冷たい水に驚いたように、肩をはねさせる。
「冷たっ」
「ごめんね、すぐ終わるから我慢して」
少年の髪の毛をわしゃわしゃと掻き回すと、だんだんと石鹸が泡立ってくる。
魔法使いは少年の頭に泡を積み上げて言った。
「ねえ見て。舞踏会に行く貴族みたい」
「……目、瞑ってるから、見えない」
「そうだった。……水、掛けるね」
魔法使いは少年の頭に積み上がった泡を流しては石鹸を溶いた水を掛け、再び洗い始める。
そうしてしばらく、魔法使いは黙々と少年の髪を洗っていた。
「……まだ?」
「あ、楽しくてつい……。そろそろ、いいかな」
少年が魔法使いに声をかけると、魔法使いははっと我に返って言った。
最後に髪に残った泡をきれいにすすぎ、手ぬぐいで水気を取る。
そして、きれいになった少年の髪を見て、魔法使いは感嘆の声を上げた。
「わあ、きれいな金髪」
「……そう?」
「うん、まるでお城にある金細工みたい」
魔法使いがそう言うと、少年ははにかんだ笑顔を浮かべ、嬉しそうにしている。
少年の様子を見て魔法使いも笑顔を浮かべた。
「そうだ、今度は街の方に行ってみない?」
桶や手ぬぐいを片付けていた手を止めて、魔法使いは提案する。
「起きてからまだ何も食べていないから、お腹が空いたでしょ? それに、きみの服も新しくしたいし」
「……いいの?」
「もちろん。どちらかと言えば、私が君のことを連れ回したいと思っているんだよ。……じゃあ、行こうか」
手早く片付けを終えた魔法使いは、少年を連れて歩き出した。
その様子は、知らない人からすると、まるで姉弟のように見えるだろう。前日の夜に初めて出会ったという事実が嘘であるかのように、二人は手を繋いで仲良く歩いていた。
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