第13話
「どう? 旨い?」
「うん、旨い」
「でしょ? 君の口には絶対合うって思ったんだ。俺たち好み、似てるみたいだし」
「そう言えばそうだったな」
「もう一度、君とはこんな風に話してみたいって思ってた。実はね、あの日、あのボードゲーム大会で顔を合わせた日から、君のことはずっと気になってたんだ。でもまさか本当に再会できるとは思ってなかった。
「同感だ」
「ん? 同感? ってことは、君もあの少年の頃からずっと俺のこと気にしてくれて」
「そこじゃない」
「……だろうね」
オリバーの冷たい返しも全く意に介することなく、ジャックは楽しそうな笑みを浮かべてグラスに入ったワインをくゆらせている。
「ここで再会した日、色々話したでしょ? ボードゲーム大会の時にも少しは話したけど、あれ以来話したのなんて初めてだったのに、なんか妙に話しやすいなって思ったんだ。色々なツボも似てるみたいだし。ねぇ、君はそうは思わなかった?」
「……そうだな」
「やっぱり」
ワインの心地よい酔いのせいか、目の前のジャックの表情がシリウス邸で見せるルークの表情と同じように穏やかだったせいか。
オリバーの警戒心も次第に薄れていった。
そうして他愛のない雑談を交わし続け、すっかりオリバーが警戒心を解いた時。
ジャックがベッドから立ち上がり、空になったグラスをテーブルに置いて、オリバーの隣に並んで腰を降ろした。
「で、本題だけど」
「ん?」
「君は今日、ここに何をしに来たの?」
スッと、一瞬で酔いが醒めたような気がし、オリバーの視線は宙を泳いだ。
だが、ジャックは更に問いを重ねる。
「前に忠告したよね? キス以上を求めてないんだったら、もうここへは来るなって。それでもここへ来たって事は」
「誤解をするな、俺はただ」
「ただ、なに?」
「……っ」
ジャックという男を、確かめるため。
自分用に用意してきた言い訳は、とっさに口からは出てこなかった。
答えに詰まり、オリバーはジャックから逃れようと、ソファから立ち上がった。
けれども。
「なんっ、だ……?」
フワリと重心が傾き、体は再びソファへと沈みこむ。
「無駄だよ。今は無理に動かない方がいい」
「貴……様っ! 俺に何を飲ませたっ!」
ギリっと奥歯を噛みしめ、オリバーはジャックを睨む。だがその視線さえ楽しんでいるかのように、ジャックは顔を近づけてオリバーの瞳を覗き込む。
「さっきのワインに、ちょっとクスリを、ね? あぁ、心配はいらないよ? 副作用は全く無いし、体への悪影響も無いし」
「何の、クスリだ」
「ん~、そうだなぁ……素直になれるクスリ、とでも言っておこうかな」
ジャックの声を聞きながらも、オリバーの体からは次第に力が抜けていく。
「き、さま……」
「ほんと、相変わらず真っ直ぐな人だね。その真っ直ぐさは嫌いじゃないけど……ここまで真っ直ぐ過ぎると逆に心配になるなぁ」
「なんっ」
「君は一ミリも疑わなかったの? 俺のこと。自分で言うのもなんだけど、見るからにこんなに怪しいのに」
苦笑を浮かべていたジャックが、グッタリとしたオリバーの脇に腕を差し込み、体を抱き起す。
「ここ、俺のホームグラウンドだよ? 忠告を無視して自ら巣に飛び込んできたこんなにキレイな蝶を、ただもてなすだけですんなり返す阿保な蜘蛛がどこにいるって言うんだよ」
「はな、せっ!」
「まぁまぁ、そんなに力入れないで、ラクにしときなって。別に俺、君におかしな事をするつもりは無いから」
「くっ」
「君が望まない限りは、ね?」
(なん、だと……?)
薄れてゆく意識下でオリバーが最後に見たのは、自分を見下ろすジャックの、あの、感情のない冷めた飴色の瞳だった。
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