第2話
オリバーはアクタル辺境地の出身だが、14歳から20歳までを王都フィアナで過ごした。
王都には王家全面出資の王立学院ソラリスがある。
ソラリスは、アズール王国の民であれば身分に関係なく、望めば誰でも無償で平等に学問や技術を習得することができる。
ソラリスで学べる事は、学問全般、剣術、体術、マナー、作法、所作、転移術。
その代わり、国の有事の際には必ず王命に従い、何をおいても国のために全てを捧げる義務を負う。
全寮制で、3年制と6年制があり、オリバーは6年制を選択した。ラオホ家のマリアンナは3年制を選択。
今の所アズール王国に有事は発生していないため、卒院生は卒院後はそれぞれ、自由に道を選択し、それぞれの場所で生活を送っている。
ちなみに転移術とは、遠く離れた場所への移動を、転移の紋章を使用して瞬時に行う術式のことだ。オリバーももちろん、この転移術を習得済みだ。
転移術以外の法術(火術、水術、風術、雷術、呪術等)は、戦争の惨禍を二度と繰り返さないために、王命でご法度となっているため、今ではごく限られた研究機関以外では使用禁止。術式について記載された書物も、王族のみが足を踏み入れる事ができるという王家の書庫で厳重に保管されている。
「
全寮制の王立学院ソラリスでは、門限があるためそう夜遊びすることはできなかった。
加えて、繁華街への外出は認められていたものの、盛り場への外出は認められていなかったのだ。
理由はひとつ。
繁華街とは違い、王家管轄外の盛り場でもし生徒が事件に巻き込まれた場合に、王家としては責任を取ることができない、つまり全て自己責任となるためだ。
「別にそう危なそうな感じはしないけどな。……ん?」
活気のある通りの一角。
そこだけなぜか、他の店のように煌びやかなネオンがあるわけでもなくひっそりと目立たたず呼び込みの店員の姿も無い、まるで「このまま通り過ぎてください」とでも言っているかのような店に、オリバーは目を止めた。
(何の店だ?)
その、ある種異様な雰囲気が何故だかオリバーは気になった。
店に近づき、覗くだけならいいだろうと、扉に手を掛けて足を踏み入れる。
扉を開けてまず目に飛び込んできたのは、分厚いカーテン。薄暗く、カーテンの色も判別できない程の場所。カーテンの手前には店の者と思しき男がひとり立っており、オリバーの全身にさっと視線を通すと小さく頷いてカーテンを開く。
(なんだ?)
中から差し込んできた眩しい光に眉をしかめつつ、そのカーテンの色が濃い紫色であることを確認しながら、オリバーはカーテンの奥へと進み、そこで思わず足を止めた。
目立たない入り口とは不釣り合いな程の、煌びやかなホール。寂れた場末のバーを想像していたオリバーは、あっけにとられて暫し呆然とあたりを見回す事しかできなかった。
高い天井の中央からは大きなシャンデリアが吊り下げられ、その周りを小さなシャンデリアがいくつも囲んでいる。
(なんだここは……)
中央には広いステージ。
ステージを囲むようにして広がる、いくつもの座り心地の良さそうなソファに高級そうなガラス製のテーブル。
ステージ上で美しくも艶めかしいダンスを見せるダンサーたち。
ソファに身を預けて寛ぎ、酒を飲みながら語り合う人、人、人……
一見すると、そこは繁華街にもよくある、高級なクラブ。
だが、そこにいる人達はみな――
(……男?)
接待する側もされる側も、語らう人達もみな、全て男。
(あぁ、そういう店か、ここは)
この世には、男性と女性の異性間の恋愛だけではなく、男性同士、女性同士の同性間の恋愛が存在することは、オリバーも王立学院ソラリスで学んでいた。
寮生活の間、実際に寮内で恋愛関係になる院生も数多く見て来たし、オリバー自身も何度か女性との恋愛を経験している。そして、そう多くは無かったものの同性カップルも何組か見かけた。彼らは異性カップルと何ら変わることなく、自由に恋愛を謳歌してるようにオリバーの目には映っていた。
ここ王都では、概ね同性間の恋愛も異性間の恋愛同様に受け入れられているように見えた。
けれども、王都の中心部を少し離れた場所や王都以外の都市では、まだまだ同性間の恋愛に関する理解度は低い。オリバーが住むアクタル辺境地でも否定的な考えが未だ根強く、多くの人々にほぼ理解されていないし受け入れられてもいない。むしろ拒絶されているというのが現状。
オリバー自身も、頭では同性間の恋愛を受け入れていたつもりではあるが、幼い頃からの周りの環境もあり、感覚的にはどうしても受け入れる事ができずにいた。
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