#321

 目を開ける。

 ちょうど、帰り学活が終わったところだった。

 携帯を開いて確認すると、既になぎさには「今日は掃除当番だから先に帰ってて」とメッセージが送ってあった。

 失敗したと思いながら、顔を上げて廊下を見る。

 そこには、人混みに阻まれながらも階段の方へ進もうと苦戦する小柄な背中が見えた。

「なぎさ……!」

 慌ててカバンを手に取り、追いかけようとする。

 しかし。

「そら、掃除当番!」

 そう後ろから声が掛かった。

「ごめん用事!」

「半分でいいから手伝って!」

 振り切る前に、クラスの女子に言われてしまう。

「今日は二人も休みなんだから、そらにまでいなくなられると終わらないの」

 彼女はそう言って、無理やりほうきを押し付けてくる。

 確かに、今日は五人班のうち男子二人が休みで、自分以外には女子二人しかいない。そう言われてしまうと、断れなかった。

「……わかった」

 約束通り教室を半分掃除し、机を前から後ろに移動させたところで抜けさせてもらう。

 間に合いますように、と心の中で繰り返しながら、走って学校を出た。

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