#212

 放課後。

 いつもの通学路を、何気ない会話で埋めていく。

 しかし、その裏では、なぎさにも気付かれかけた『悩んでいること』が、相も変わらずぐるぐると渦巻いていた。

 なぎさに『あの力』のことを言ってしまおうか、それともずっと秘密にしておこうか……。

 決心がついたのは、なぎさと別れる曲がり角まで来たときだった。

「あのさ、なぎさ。話したいことがあるんだけど……。今日、まだ大丈夫?」

「大丈夫。それで、どうしたの?」

 なぎさに促され、たどたどしく話し始める。

「昨日のことなんだけどさ……」

「そらが聞いてきた『Ifの世界』の話?」

「そう。だけど、信じてるかどうかじゃなくて……。実は、さ……」

 昨日の夜から考え続けた内容を、そのままなぎさに伝えていく。

 なぎさは特に口を挟むこともなく、言葉に詰まったときは相槌を打ちながら、その長い話を聞いてくれた。

「……そっか、だから昨日あんな話をしてきたんだね。普段そらからああいう話をしてくることなんてないから、不思議に思っていたんだ」

 話し終わると、なぎさは納得したというかのような表情を作り、そう言った。

 ……やっぱり、どこまでかはわからないけれど、なぎさはなんとなくわかっていたのかもしれない。

「それで、なぎさはどう思う? この力のこと」

「どう思うって……。それを聞いて、どうするの?」

「……友達やめるとか、言わない?」

「そんなこと言わないよ。昨日『「Ifの世界」に行けたとしても行かない』って言ったのは、あくまで個人的な意見だし」

 なぎさは、笑って続ける。

「それに、たとえ『Ifの世界』に行ったとしても、そらがそらであることは変わらないでしょ?」

 そらが違う選択肢を選んでも、自分は『Ifの世界』でも同じ選択をするはずだから、となぎさは言った。

 その言葉で、初めて気付く。

 確かに、何度『Ifの世界』でやり直しても、なぎさはずっと同じ動きをしていたのだ。

「じゃあ……」

「うん、その力を使うかどうかはそらの自由だよ。必要なときには使えばいいし、使いたくなければ使わなくていい」

「そっか、ありがとう。なんだかすっきりした」

「ならよかった。……そろそろ日も暮れそうだし、今日はもう帰ろう」

「そうだね。また明日」

「……うん、また明日」

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