#211
次の日の、昼休み。
家に弁当を忘れてきたことに気づき、少し落ち込みながら図書室に行った。
特に小テストや予習しなければいけない内容がなければ昼休みは図書室で本を読むことにしているが、いつもは教室でお昼を食べてから行くため、今日はだいぶ時間があった。
昼休みが始まったばかりだからか、まだ人は少ない。カウンター当番の図書委員と、自習に勤しむ三年生、人気作を誰かに取られる前にと借りに来た数人の生徒。図書室の中にいるのはそれくらいだった。
自分も最近読んでいる小説の続きを読もうと、背の高い棚の裏側に回る。
そこで、今まで図書室では見かけたことのなかった、けれど見慣れた小柄な背中を見つけた。
「……うわっ、びっくりした!」
突然後ろから掛かった声に驚いたのか、びくっと肩を跳ねさせてこちらを振り向く。
そして、再び驚いたように目を丸くした。
「なんだ、そらか。驚かせないでよ」
「なんだ、って、なぎさ……。ちょっとひどくない?」
「そらだっていつもそういう言い方してるでしょ」
「……うん、まあ確かに?」
なぎさの言うことはもっともだ。返す言葉もない。
すぐに開き直ったのが面白かったのか、なぎさは「冗談冗談、別に根に持ってるとかじゃないから」と笑いながら言った。
「ところで、なぎさもよく図書室に来てるの? それって『もしもしも』シリーズの最新刊だよね?」
「あー、うん。図書室には、今年の春くらいから時々来るようになったんだ。ちょうどそらとはすれ違っていたみたいだけど」
「そうだね。いつもはお昼の後に来てるけど、今日はお弁当を家に置いてきちゃったから早く来たんだ」
「珍しいね、意外と心配性なそらが忘れ物をするなんて。何か悩んでる?」
そう指摘されて、少しびくっと肩が跳ねる。なぎさは勘がいいから、もしかしたら昨日の帰り道からのことで既に何かを察しているのかもしれない。
そう、今、悩んでいることは……。
「……特に悩んでるってことはないかな。昨日遅くまで起きてたから、ぼーっとしていただけだよ。それより、なぎさもラノベを読むなんて、意外。小学生の頃からずっと、難しそうな本ばっかり読んでいたでしょ?」
「うん、普段はあまりラノベを読まないね。だけど、このシリーズは全巻読んでるよ」
話を変えると、なぎさもすぐに乗ってきた。
ほっとして、さらに話を振ってみる。なぎさが今手に持っている「もしもしも」シリーズの本は、自分も読んでいたことがあるのだ。
「誰かに勧められたの?」
「そんな感じ。まあ、これで最終巻なんだけど……」
「え、本当?」
「うん。半分打ち切りみたいな感じらしくて、読んでいてもちょっと急ぎ足だとは感じたかな」
「そうなんだ。それなりに人気だったからもっと続くと思ってたんだけどなぁ……」
「なにがいつ終わるかわからないからね」
「そうだよね……」
なぎさは少し寂しそうに言った。この本にだいぶ思い入れがあったようだ。
二人の間に、しんみりした空気が漂う。
それを振り払うように、なぎさは口を開いた。
「あ、お昼のこと忘れてた。そろそろ戻らないと、次の授業までに食べ終わらないや」
「そっか、じゃあまた帰りのときに!」
小走りで教室へと戻るなぎさを、手を振って見送る。
そして、久しぶりに続きを読んでみようと、いつもの小説ではなく「もしもしも」シリーズの新刊を手に取った。
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