第23話 スタンピード⑥ ー3日目・4日目
アラサーの冒険者を治した後、ポーションの空き瓶を片付けて、汚れた布やタオルを洗っていると、
……返り血を浴びているのかも知れないけど鎧が血だらけで、衝立の奥へと運ばれて行く。
少しすると騎士様の呻き声が治まって、衝立の奥から司祭様が顔を出してキョロキョロと誰かを探している。
「……!」
司祭様と目が合って、こっちに来た。
「先程はありがとうございました。私は司祭のフランと言います。
さっき、ラウルさんには名前を言ったけど、司祭様とはちゃんと挨拶をしてなかったね。
金髪碧眼の司祭様は、綺麗な顔で貴族にしか見えないから、あまり近づきたくないんだけど……ビーさん、司祭様なら貴族でも大丈夫なのかな?
【はい、大丈夫です】
――そっか。
「はい……アスカと言います」
「アスカさんとおっしゃるのですね。アスカさん、まだMPがあるようでしたら治療してもらえませんか? 怪我はポーションで治したのですが……」
フラン司祭様が、さっき運ばれた騎士様も骨折していると言う。
MPはまだあるけど、騎士様ってことは貴族なのよね……。
「あの……フラン司祭様、私の顔が見えないように、怪我をされている騎士様の顔をタオルか何かで隠してもらえますか? 目元だけでいいので……」
フラン司祭は少し考えるように腕を組んで、左手の指を
「フム。アスカさんは『回復魔法』……を使えることを知られたくないのですね? 私が治療したことにすればいいですか?」
あっ、それがいい!
「はい! お願いします」
「……分かりました。では、患者に目隠しをしたら呼びますので」
フラン司祭様が衝立の奥に行ったと思ったら、直ぐに呼びに来た。
「アスカさん、騎士様は既に薬で寝ていましたが、目元をタオルで隠しましたよ」
「フラン司祭様、ありがとうございます」
司祭様は、運ばれて来た時点でMPがなくて治せないから、即効性のある睡眠薬を飲んでもらったと言う――そうね、私も痛いままで放置されるなら寝かせて欲しい。
衝立の中に入ると、ベッドにはプレートアーマーを外した騎士様が、目元をタオルで隠されて横になっている。
「うぅ……」
……寝ていても痛いみたいね。
フラン司祭が無言で騎士様の右腕を指した。
――あぁ、腕を骨折したのね。向きが少し……うぅ、痛そう。
まともに見られなくて目を
スラ君を撫でてから、騎士様の右腕に手を向ける――『回復魔法C』。
――騎士様は寝ているから、これなら誰が治療したのか分からないよね?
【はい。寝ている間に、司祭のMPが回復して『聖魔法』を掛けたと思うでしょう】
ふと、机に置かれたプレートアーマーを見ると……綺麗になっている。フラン司祭様も『ウオッシュ』が使えるのね。ビーさん、『ウオッシュ』を使える人は多いの?
【はい。生活魔法の上位魔法になるので、『ウオッシュ』を使える庶民は10%、貴族では30%ほどが使えます。ですが、アスカのように『聖魔法』の消毒効果を合わせた『ウオッシュ』を使えるのは、一部の司祭だけです】
――へえ~、『ウオッシュ』を使える人は結構いるのね。
更にビーさんが、庶民の間で『ウオッシュ』を掛けてもらう相場は100ルギだと言う……お金を取るのね。まあ、服も綺麗になるから、クリーニング代と思えば安いか。
この後も重傷者は衝立の奥へと運ばれて行き、その中に骨折している患者さんがいたら、フラン司祭様は睡眠薬で寝かしてから私を呼びに来るの。
衝立の奥に行くと、寝ている患者さんの顔にはちゃんとタオルが掛けられているから、気兼ねなく『回復魔法C』が使えた。
◇◇
3日目も、ポーション運びをしながら救護テントで手伝いをしていて、午後になるとフラン司祭が衝立の奥から声を掛けて来た。
――フラン司祭様のMPがなくなったのね。
「アスカさん、ポーションを持って来てください」とか「アスカさん、タオルをお願いします」って名前を呼ばれるから分かりやすい。
で、衝立の奥に行くと、ベッドで患者さんが顔にタオルを掛けられ寝かされているの。
治療が終わってそのまま寝かせてあげるのかと思ったら、ベッドの空き具合で2~3時間で起こされている。
「治療は終わりました。まだ眠いでしょうが、ベッドが足りなくなりますので起きてください。教会を解放していますので、どうぞそちらで寝てください」
フラン司祭様がそう言って、治療が終わった冒険者を順番に救護テントから追い出している。
その冒険者は、まだ睡眠薬が効いているみたいで目がうとうとしている……ちょっと可哀想だけど、ここで何時間も寝られたらベッドが足りなくなってしまうからね。
空のポーションを商業ギルドに持って行く時、テントの横でさっきの冒険者が寝ていたから、声を掛けて教会まで連れて行くと、教会の入り口でシスターが引き取ってくれた。
睡眠薬で眠いのは『回復魔法』を掛けたら起こせるんだけど、MPは……治療用に取っておきたいからね。
その後も、ポーションや空箱を運ぶ時に寝ている人を見かけたら、教会に連れて行った。
◇◇
スタンピードが始まって4日目の夕方、街中から声が上がった。
「見ろ! 狼煙が白になったぞー!」「「何!?」」「白だ!」「終わったー!」
声に釣られて冒険者ギルドの屋根を見ると、狼煙が赤じゃなく白になっている……ビーさん、スタンピードが終わったの?
【はい、白い狼煙はスタンピードが終息し、後処理の段階に入ったことを意味します】
――そっか、やっと終わるのね。
◇
冒険者ギルドに行くと、ベールズさんが、明日からアイアン(鉄)とブロンズ(銅)の冒険者を対象に、スタンピードの後処理の依頼が出るって言われた。
「後処理の依頼はギルドに対する冒険者の貢献度が上がるんだが、アスカは解体が出来んからなー」
そうなのよ、いつもギルドで解体してもらっているからね。
「はい……そうですね」
後処理の依頼は1人20,000ルギも出ると言う……狩りに行くよりも稼げるけど、解体はやったことないからね。
キラーラビットはそのまま買取りカウンターに出しているし、魔核の取り出しはスラ君にお願いしている。スラ君は一滴の血も付けないで魔核を取り出してくれるのよ。凄いでしょ。
「ベールズさん、解体の手伝いは出来ないので、明日から普通に狩りに行ってもいいですか?」
「ああ、西門から出た草原と森でなければ構わんぞ。あっちは魔物の後処理でバタバタしているからな。そうだ、アスカ、忘れんうちに4日間の手伝い、雑用代金を渡しておく」
「え……お金もらえるんですか?」
スタンピードの手伝いは、奉仕活動だと思っていた。
「当たり前だ! 日当は安いが、タダ働きはさせんぞ!」
「……ありがとうございます」
冒険者ギルドから、4日間のお手伝いで20,000ルギももらえた。1日5,000ルギ……十分ね。もらえないと思っていたから嬉しい。
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