第25話 キラーアント

 最近のスタンピードで、スラ君の食べる量が私と同じ惣菜パンだけだったので、足りているのか気になってビーさんに聞いてみた。


【スラ君の食べる量は、基本アスカと同じ量で問題ありません。ですが、スラ君のステータスアップを考えると――ここではリザードを食べさせるとステータスが上がりやすくなります】


 ――スラ君は私と同じ量で足りるのなら安心ね。じゃあ、次にリザードを狩ったら、魔核だけ取り出してもらって食べてもらおう。スラ君が強くなるなら、リザード1体なんて安いものよ。


 ◇

 食事をした後、最初に出てきたリザードを倒して、スラ君に魔核を取り出してもらって食べてもらった。


 その後も、広い丘の南側でリザードを探しながらウロウロするんだけど、他の冒険者パーティーを殆ど見かけない。


 みんな、スタンピードの後処理に参加しているのかもね。日当2万ルギは美味しいよね。


 ――ビーさん、何時頃かな?


【午後の2時過ぎです】


 ――ありがとう。少し早いけど帰ろう。丘から出ても街まで2時間は掛かるからね。


「スラ君、そろそろ帰ろうか」


 スラ君が私の横をスルスルと進みながら、プルルンと返事をしてくれる。ふふ。


 <フォス>の街に向かって歩いていたら、スラ君が急に私の前に出て、2~3回飛び跳ねたと思ったら、肩まで登って来て頬に頭突きをする。スリスリじゃない……。


「スラ君? どうしたの?」


【スラ君が、後ろからキラーアントが1体――せまって来ていることを伝えたいようです】


「えっ……ええー! キラーアントって、丘の北側にいるんじゃないの? この丘で1番強い魔物じゃない!」


 スラ君が肩でプルルンと返事をする。


【アスカ、正確に言うと、キラーアントがいるならクイーンアントもいます。ですので、丘で1番強い魔物はクイーンアントになります】


 ……クイーンアント。ビーさん、普通、女王蟻は巣穴から出て来ないからね。でも、なんでこっち側にキラーアントがいるの!?


【冒険者が少ないので、キラーアントは狩られることなく、こちらまでえさを探しに来たのでしょう】


 ――あっ、みんな後処理に参加しているから、丘の北側でキラーアントを狩る人がいないのか。餌って……私のことよね?


【魔物にとって人間だけが餌ではなく、他の魔物も餌になります】


 ……魔物の世界も弱肉強食なのね。


 後ろを振り返らないで、少し速足で歩きながらビーさんに聞いてみた。


 ――ビーさん、走ったら逃げられるかな?


【アスカの敏捷だとギリギリ追いつかれませんが、この先100m程でアスカの体力が限界になり追いつかれるでしょう】


 ……体力。


 確かに……普段、走らないから50メートルも怪しい。転ぶかも……そうなると、迎え撃つしかないのね。


 ――ビーさん、キラーアントは『風魔法C』だと2~3発、『風魔法B』だと1発で倒せるって言ってたよね?


【はい、『風魔法B』でしたら1発で倒せます。HPが多い個体でも倒せるでしょう】


 "HPが多い個体でも"――ビーさんの言葉を聞いて、立ち止まって振り返った。


 あれね……。まだ遠いけど、大きな真っ黒いアリが音も立てずにこっちに向かって来る……あれはアリなの? アリの頭が私の顔より大きいんだけど……。


 ステータスを見たらMPの残りは半分以上ある……1発で倒せる『風魔法B』を撃とう。


「スラ君、あのキラーアントを倒せるぐらい大きな魔法を撃つね。もし、倒しきれなかったら、スラ君が止めを刺してね」


 スラ君が、肩の上でプルルンと返事をして地面に飛び降り、スルスルとキラーアントの方に進んで草の陰に隠れる。


 あっ、キラーアントがスピードを上げて向かって来た。


 ふう~。キラーアントに手を向けて、射程距離を見極めて言葉にする――。


「行け『風魔法B』!」


 即座に大きなつむじ風が現れて、渦を巻きながらキラーアントを包み込む。


 ヒューー、シュルルルッー! ボワァァーー!!


 ――えっ、ちょっとこれは……思っていた魔法と違う。凄い……竜巻みたい!


『ギギー!!』


 竜巻から、無数の風の刃がキラーアントに突き刺さり――竜巻がほどけるように霧散むさんしていく――そこには傷だらけのキラーアントの死骸が……軽トラくらい大きい。マジですか……。


 スラ君がススーっとキラーアントに近寄って、背伸びして左右に揺れながら傷だらけのキラーアントをツンツンとつついている。


 これは……あの時、フォレストウルフに『風魔法B』を撃っていたら、ビーさんの言う通り毛皮がボロボロになって売れなかったね。もしかして、このキラーアントの殻も売れない?


【普通、冒険者ギルドでは、キラーアントの魔核は1,000ルギ、殻は2,000ルギの買取り価格ですが、この殻だと半値以下の買取りになるでしょう】


 ――じゃあ、魔核だけ取り出して、スラ君に食べてもらおうかな? ビーさん、スラ君のステータスは上がるかな?


【キラーアントはスラ君より格上の魔物になります。先程、リザードも吸収したので、何かしらのステータス値は上がるでしょう】


 ――それは楽しみね。


「スラ君、キラーアントの魔核を取ったら、あとは食べてね。スラ君が強くなるんだって」


 スラ君がプルルンと返事をした後、キラーアントの胸部分をおおって魔核を取り出してくれた。


 ――キラーアントの魔核は黄色のガラス玉みたいで、大きさはゴルフボール位かな。体の割に小さいのね。


 スラ君がキラーアントを食べ終わるのに少し時間が掛かった。


 それは分かるんだけど、あの軽トラくらい大きなアリが、スラ君の中に消えたのよ……魔素や魔力になって凝縮しているって聞いたけど、やっぱり不思議ね。


「スラ君、街に戻るよ」


 プルルン!


 ◇

 いつものように冒険者ギルドの買取りカウンターでアイテムを並べたら、ベールズさんにキラーアントの魔核があるのに何で殻がないんだと聞かれた。


「……殻に傷が付き過ぎて、売れないだろうからスラ君に食べてもらいました」


「はあー? スライムのステータスは上がるだろうが、そんな良いもんを食わせんでも上がるだろう。アスカ……次からは多少傷があっても持って来い」


 ……そんなあきれたように言わなくても。


 ベールズさんが、キラーアントの頭部と胸部で手の平が収まるだけの綺麗な部分があったら買い取ってやるからと言う。


「分かりました……。その時はよろしくお願いします」


 次にキラーアントと出くわしたら、『風魔法B』じゃなくて『C』を数発撃ってスラ君と倒すようにしよう。


 今日の換金額は21,400ルギ。そこから手数料を引くと合計15,100ルギもあった。凄い、今までの2日分の稼ぎよ……やっぱり、強い魔物を倒すと稼げるのね。


 しかも、これで所持金の合計が122,150ルギになって、初めに神様からもらったお金より増えたのよ! 嬉しい~。ふふ。


 帰りに屋台へ行って、今日は総菜パンの他に串焼きをあれこれ買った。1つの袋に入れたらインベントリのマスは1つですむからね。


 そうだ、財布を買おうかな。ポーチは魔石でいっぱいになるからね。


 雑貨屋へ行ったら、財布用の巾着が売っていたのでそれを買い、貨幣を全部入れてインベントリに入れた。


 今日は稼げたから明日は休みにしよう。スタンピードもあって、バタバタしていたからね。


 明日は街の中をゆっくり見て回ろうかな~。




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