【5話】トゥルー

【5話1場】

 龍宮寺マコトは、アイドルだ。


 彼の存在感は、輝いている。彼は、ハヤトと同い歳だ。マコトは、中性的な顔立ちをしていた。彼はサムライでもある。彼は戦闘服を着ている。服には広告をつけていた。


 彼は、タレント事務所に所属している。


 マコトは、戦えるアイドルだ。彼は実録番組の主役をしていた。スポンサーは前船財閥が務めている。傭兵活動をお茶の間に流すのだ。甘い顔立ちの彼は、人気を博している。


 マコトは、ハヤトに相棒をお願いしていた。


 ハヤトは放送局の楽屋にきていた。放送局は、前船市の第1区画にある。ハヤトの対面には、龍宮寺マコトと田中タロウが、座る。ハヤトは、彼らの言い分を聞いていた。


 両名は言った。


「僕は物理技能持ちでね。眞島さんには電脳技能の相棒をしてほしい」


「ハヤト君は前船財閥に借金もある。財閥からの辞令だと考えてほしい」


 ハヤトはマコトが好かない。ハヤトはテレビにでる気もない。


 眞島ハヤトは、田中に言った。


「俺は広告塔にならないはずだ」


「ビジネスは流動的でね。受け入れなさい」


「俺は番組を見てなくてね。どんな内容だ?」


 龍宮寺マコトは美声を発した。


「実録の勧善懲悪だよ。敵は本物の犯罪者だ」


「タレントが危なくないかい」


「僕のサムライとしての実力は本物でね」


「ランクは?」


「刀剣がAだ」


 ハヤトは番組の内容を聞いてゆく。


 番組の名前は「実録! 龍宮寺マコトの一刀両断!?」だ。何がクエスチョンマークなのかを聞いたら笑われた。深い意味はないのだ。番組は、戦えるアイドルが犯罪者を倒して廻る。番組の視聴率は高い。本物の犯罪者を倒して廻るのが爽快なのだ。視聴者は、主役に自己投影できる。番組は、視聴者が入れ込みすぎないようにエンタメも重視している。実録とエンタメの化学反応で、番組は高視聴率を叩きだしていた。


「マコトさんはそれでよいのかい」


「タレント活動しながら稼げている」


「メガコーポの思惑が透けて見える」


「世界よりも前に自分を変えるべきだよ」


 田中はマコトの考えに協力している。マコトはハヤトに相棒をしてほしい。スポンサーの前船財閥は、それを許可した。ハヤト本人の預かり知らぬ決定だ。


 ハヤトは、メガコーポも好かない。


 田中は言った。


「ぶっちゃけて言うと、君に拒否権はない」


「もともと俺は広告塔にならないはずだ」


「会議で変更された。それだけだ」


 ハヤトは、指の爪で机を叩いた。これは苛つくとする癖だ。ハヤトは正直に言った。


「無理矢理に相棒をさせて嬉しいのかい」


「好きでこの番組にでる奴は、何かしらをこじらせている」


「俺は裏社会の人間だ。番組が恨まれているのは薄々と分かる」


「確かに脅迫状とかは、よくあるね」


 マコトは苦笑している。タフな精神力だ。しかし何ごとも理由はあるはずだった。


 ハヤトはマコトに興味を抱いた。マコトは、奥底に何かを隠している。それは裏社会の人間としての嗅覚で分かる。マコトも裏社会の匂いがしていた。ハヤトは聞いてみる。


「お前。裏社会に慣れていないかい?」


「おや、分かるのだね。僕の両親はサムライだ」


「実家は傭兵か。なぜアイドルをしている」


「お笑い芸人になりたいのだけれど、顔立ちでね」


 彼はお笑い芸人を目指していた。彼はタレント事務所の門を叩いた。事務所側は、「お前の顔はアイドルだろ」と諭した。紆余曲折あり、今は傭兵系アイドルをしている。


 ハヤトは、引き気味に言った。


「なぜお笑い芸人になりたかった?」


「ストイックに人を笑わせているのが輝いて見えてね」


「今はアイドルとして活動するのに納得しているのか」


「全然。でもエンタメ繋がりで肩書は2の次かなって」


 世の中には色んな人間がいる。ハヤトはしみじみそう思った。彼はサムライとしての技能がある。それで番組の主役をさせてもらっていた。アイドルも競争社会だ。件の番組は、彼の長所を活かせる。彼は真摯に主役を務めていた。ハヤトは素朴に感心した。


 ハヤトは、彼への印象を改めた。彼は悪い奴でなさそうだ。マコトは裏社会にも慣れている。アンダーグラウンドのお仲間と知ると、ハヤトは親近感も湧いてきた。何よりも、率直にバラしたのがハヤトには好印象だ。ハヤトは、番組の相棒を引き受けた。


「分かった。顔は隠させてくれ」


「編集で隠しておく」


「被り物はなし。ありがたい」


「戦闘の邪魔になるのはシラける」


 話の相手は、田中タロウになり始めていた。


 彼は、義手の武闘派だった。彼は戦闘への気配りができる。


 田中は、この番組で、スポンサーの窓口をしていた。ハヤトとマコトの2人よりも、田中1人のほうが強いはずだ。しかし大人の事情で、戦闘は2人だけでする。


 ハヤトは田中が嫌いだ。ハヤトは田中に憎まれ口を言った。


「田中さんは、戦闘に参加しないのかい」


「それをしては番組が壊れてしまう」


「田中さんは強いの?」とマコト。


「はは。私はただの中年男性だよ」


 田中は、頭をかきながら言った。


 番組のロケ地。襲撃する組織は、第2区画にある。彼らは科学犯罪組織だ。前船市は犯罪都市だった。犯罪者にはこと欠かない。3人は襲撃の作戦を練ってゆく。


 難しい作戦はしない。分かりやすいエンタメを視聴者に提供したいからだ。マコトが、日本刀で敵をなぎ倒してゆく。ハヤトは、敵の情報を盗みだして終わりだ。


 撮影はドローンがしてくれる。ドローンは高級品で、Bランクだ。


 番組班は、離れたワゴン車に、田中と控えておく。


 相手は、前船財閥の利益に反した勢力だ。前船財閥の不利益となる犯罪者を、番組が見せしめにしている。見せしめと宣伝を同時にして、前船財閥の1人勝ちという訳だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る