【5話2場】

 その犯罪者集団は、第2区画の店舗を根城にしている。


 もともと、店舗はテックの売買をしていた。数年前、店主は違法テックに手をだした。店主は既に殺されている。店舗は乗っとられた。今の店は闇商売を専門としている。


 ハヤトは、何食わぬ顔で入店した。明らかにカタギでない店員は言った。


「この店は初見さんお断りだ。帰りな」


「ここはアウトローのご用達だと聞いた」


「お兄さん。裏社会の人間かい。紹介は?」


「ないよ。商品を見るだけだ」


「ダメだね。紹介がないと見せられない」


 ハヤトのポケットには、録音機がある。この会話は、番組で流す予定だ。


 番組は、ハヤトの交渉を流して、アウトローな相棒ができたと描写する。


 ハヤトは、実際にアウトローだ。生の臨場感を、視聴者へ提供するつもりだった。これは、ハヤトが視聴者に受け入れられる、きっかけ作りだ。


「難しいこと言うなよ、ケツモチはどこだ?」


「そちらのケツモチを先に言いな」


「コーポ系だ。メガのつくほうの」


「…………うちはちょうどメガコーポと揉めている」


 ハヤトは、驚いた素振りをした。しかし思惑通りだ。


「ちょい待ち。俺にもケツモチと上下関係がある」


「上手いことできねえかい? こちらは商売にならない」


「そもそも接客はしてくれるのかい」


「しょうがねえ。商品を見せてやるよ」


 ハヤトは、笑みを見せた。これで犯罪の証拠を押さえて、見せ場は終わりだ。電脳を通じて、番組班から合格もきた。ハヤトは、自然体で店の奥にゆく。


 店の奥へは、認証機つきの鉄扉を跨ぐ。認証機はハッカー目線で、チンケな代物だ。電脳を通じて、セキュリティや警備の配置を番組班に送っておく。警備は1人だ。警備はBランクだ。そのBランクも、銃を所持している。近接武器は見当たらない。室内では、刀の錆にしかならない。龍宮寺マコトは、Aランクの刀剣技能だ。


 店の違法テックは、品揃えが充実していた。


 培養された違法臓器。著名人の記憶情報。犯罪用の各種サイボーグパーツ。脳回路を破壊する薬。違法銃器。違法刀剣。1番の上物は、密輸用の宅配ドローンだ。


 ハヤトは、それらを電脳で紹介しながら番組班に流した。番組班の反応は好評だ。今から襲撃する犯罪者の悪さを視聴者に説明できる。そのうえでハヤトの見せ場にもなった。


 ハヤトの目標は、もう達成した。あとは帰るだけだ。


「ケツモチにそれとなく探ってみるぜ」


「アウトロー同士、助けあわねーと」


 ハヤトは無事に店からでられた。


 劇的なアクシデントはなしだ。


 ワゴン車には、マコトが控えている。彼は日本刀を携えていた。


 番組班は、軽い会議をしている。議題は、相手にハヤトの正体をばらすかだ。驚いている犯罪者をカメラに収められたら御の字だった。しかし意外にも、田中が否定的だ。


 田中は言った。


「わざとらしい。今後も考えてハヤト君の正体は秘するべきだ」


「しかしエンタメ的には悪くない。視聴者はスカッとする」


「また変なファンがくるぞ」


 田中と番組班の話し合いは、平行線だ。しかし、田中はスポンサーの窓口だった。


 番組班は、田中の考えを受け入れる。彼ら彼女らもスポンサーの意向には逆らえない。


 ハヤトは、襲撃の立案をしている。ハヤトの視覚情報から、店の構造と、警備の配置は分かっている。マコトは、Bランクの警備との対決をクライマックスとしたい。


「鉄扉はどうやって開ける?」


「俺がドローン伝いにハッキングするよ」


「なら。警備の銃弾をはじいて、顔面パンチだ」


「銃弾をはじけるのか?」


「僕はAランクだよ」


 田中は、おおよその計画を了解した。


 ワゴン車から、戦闘服の龍宮寺マコトは降りた。


 彼の存在感は、路上の人々から視線を奪いとる。通行人は歩を止めていた。人々はマコトを撮影している。撮影方法はさまざまだ。義眼で撮影している。デバイスで撮影してもいた。龍宮寺マコトは、日本刀を携えて、店へ歩いてゆく。


 ハヤトは、それをドローンの映像で見ている。


 マコトは店に入ると、ふてぶてしく挨拶した。店員は、絶叫した。マコトは、有名らしい。店員はマコトに殴りかかる。マコトはその店員にみねの側で打ち据えた。


 店員は、昏倒した。マコトは店員を越えて進む。


 マコトは、自信満々の笑みで鉄扉へ向かった。


 鉄扉は、固く閉じられている。マコトは鉄扉に片耳をつける。ドローンも鉄扉を挟んで、犯罪者の息遣いを聞いている。その息遣いは、犯罪者の葛藤を想像させた。


 マコトは、ドローンへ目配せした。ハヤトは認証機へハッキングする。解錠した。


 鉄扉を開けると、弾丸がマコトへ撃ち込まれる。


 龍宮寺マコトは、達人の刀さばきで、それをはじいた。


 警備は、泣き叫ぶ。彼は、跳弾お構いなしに、軽機関銃を乱射した。


 マコトは、鉄扉の影に隠れる。警備は弾切れを起こした。


 警備は、予備の銃で、もう1度だけ乱射した。それも終わる。


 マコトは、警備の間合いへ飛び込む。彼は、警備に顔面パンチを食らわせた。


 ドローンは、それを完璧な画角に収めている。警備は倒れて動かない。


 マコトは振り返る。ドローンに笑みを見せた。番組班はオーケーをだしている。


 あとの処理は、メガコーポのエージェント達が済ませてくれた。


 マコトはワゴン車で汗を拭いている。番組班は、彼と話し合いをしていた。


 番組班は言った。


「銃弾をはじいたあとに、2度も乱射が挟まる」


「やっぱりテンポ悪いかな?」


「相手の強さ証明にはなる」


「それだと銃弾をはじく前でないといけない」


「いやいや。切りとりはグレーでも、編集は不味い」


「実録番組だからね。切りとるの?」


 番組班は、議論を深めている。ハヤトは、番組班の1人から、飲料水を受けとる。とりあえずは撮影も終わりだ。ワゴン車の空気は、緩んでいる。


 すると、田中に別のエージェントが耳打ちした。


 田中は眉をひそめる。番組班の何人かは察した。


 ハヤトは察していない。


 田中は言った。


「すまない。今回の襲撃は、お蔵入りだ。不都合な事物がでた」


 番組班は「あー」と漏らした。ハヤトは訳が分からない。


 マコトはハヤトに教えてくれた。


「戦い損な犯罪者がいてね」


「番組は、もとから犯罪者をだしている」


「ヤバイのはいるものさ。電脳憲章の関係で」


「電脳憲章。電脳と仮想現実の?」


「それを破壊したい奴らだ」

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