【2話】ノーマル
【2話1場】
早朝。眞島家。オリガは、防犯意識が薄い。
ハヤトは、眉間にシワを寄せている。ハヤトは、シャツと黒ズボンを着ていた。
眞島オリガは、ホログラムで座る。彼女はリクルートスーツを着ていた。
2人は、17歳で違法に結ばれている。2人は戸籍を偽造していた。
ハヤトは、トレーニングでストレスを発散していた。
「迷宮街は、治安が悪い。別の仕事にするべきだ」
「借金は早く返したいの。あんたの借金よね」
「正確には、親の借金だ」
オリガは幼稚なものを見る目で、ハヤトを眺めている。ハヤトは苛々としていた。
オリガは、ハヤトを愛していた。だから彼女は働きにでたい。借金はハヤトの問題だ。これはオリガにも及んでいる。ハヤトが悪い。しかしオリガの無神経も悪い。
オリガはつまらなそうに言った。
「私は普通でないのよ。今更、迷宮街くらい何てことないわ」
「君は普通だよ。安全に生きていこう」
オリガは「ありがとう」と微笑む。オリガは大人の笑みだ。
迷宮街。これは仮想現実群だ。迷宮街は、メガコーポ間のインフラとして、運営されている。地球のあらゆる地域からアクセス可能だ。だからこそ、犯罪者も集まっていた。
迷宮街には上層と表層、深層がある。オリガは表層での仕事に応募していた。
夫婦喧嘩は、理想の不一致で起きていた。ハヤトの理想とは普通の生活だ。しかしオリガは、普通の生活に惹かれていない。オリガは結婚で満足していた。
「メガコーポは迷宮街を城下町だと考えている。仕事はたくさんあるわ」
「具体的には何の仕事をするのさ」
「接客業。仮想現実で、働き口があるのは、迷宮街だけよね」
「それ以外も探したのかい」
「電脳の他は、肉体がないから無理よ」
オリガは、人工意識だ。彼女は電子プログラムとして産まれている。
そのオリガは、自身の映像をブレさせた。3原色に分裂したオリガは、小舌をだしている。彼女は電子プログラムだ。オリガは、2センチのチップに過ぎない。
ハヤトは、彼女に納得している。電子プログラムでも、ハヤトはオリガを愛していた。
部屋には沈黙が流れていた。新婚生活で初めて喧嘩をしている。
オリガは夫婦として暮らせるなら他は気にしていない。しかしハヤトはオリガの身を案じていた。人工意識は、何かと狙われる。迷宮街は犯罪者のたまり場だ。
人工意識だとバレたら、1巻の終わりだった。
「それでも俺は反対だ」
「心配なら、面接についてきなさい」
「そうするよ」
「もう行くわよ」
「そうかい」
オリガは無表情でハヤトを見つめている。彼女が感情を読みとられたくないときは、怒っている。ハヤトも怒りが湧いていた。ハヤトに引き下がるつもりはない。
オリガは立ちあがる。彼女はホログラムを消した。
ハヤトは、これからについて悩む。ハヤトは、上等椅子に座る。ハヤトは迷宮街へアクセスした。意識は、仮想現実へ潜る。
迷宮街は地下型をしていた。ここはメガコーポのお膝元だ。地下街を思わせる天井と、店が並んでいる。今いるのは表層のエントランスホールだ。仕事で何度かきている。
防衛プログラムは巡回をしている。防衛プログラムの見た目は翅つきの光球をしていた。ファンタジー世界の精霊に似ている。防衛プログラムは、迷宮街の秩序機能だ。
オリガは、さきにきている。オリガは、店の1つに興味を示していた。
「美味しそうな飲食店ね。入ってみる?」
「辞めとけ。迷宮街は仮想現実群だ。どこに通じているか分からない」
「私もそれくらい知っているわ。でも、これから通うのよ」
迷宮街は、他と違い1つの仮想現実ではない。基本的に扉のオブジェクトを跨ぐと、他の仮想現実へ飛ばされる。その入り組む様子から迷宮街と名づけられていた。
ハヤトは用意しておいたプログラムをオリガへ送る。
「それをつけろ。防犯用で、位置を報せてくれる」
「嫌よ。お子様見守り機能みたい」
「市販品より何倍も高度なプログラムで、脱出機能つきだ」
「あんたはハッカーだったわね」
オリガの手に腕輪のオブジェクトが現れる。仮想現実で、プログラムは基本的にオブジェクトとなる。オブジェクトとは、仮想現実で物体の性質を宿していた。
仮想現実とは夢世界だ。要因は、オブジェクト化していた。他にも身振りや動作で、プログラムが起動したりする。これは仮想現実の摂理に根ざしていた。
オリガは飲食店の扉をじっと眺めている。
「そんなに食べたいのかい」
「仮想現実で食事できるのも、迷宮街だけよ」
「あー、なるほど」
「私の事情は知っているわよね」
人工意識のオリガは、食事をしない。彼女にも好奇心はある。ハヤトも食事はさせてあげたい。ハヤトは両手をあげて降参の意思表示をした。
「負けだよ。美味い物を喰わせてやる」
「食事を作るのはお店のプログラムよ」
「お金を払うのは俺だ」
「それも今回だけよね」
ハヤトは、浅慮を反省した。オリガも収入をもつべきだ。オリガには自由に生きてほしい。ハヤトはオリガを愛している。ハヤトは、前向きになれた。迷宮街は、彼女に合っている。ハヤトは、あとで、さらに強固な防犯プログラムを手配することにした。
オリガは飲食店の扉を指差している。ハヤトは頷いた。
オリガは、飲食店に入る。彼女は光となって消えた。
ハヤトは、オリガの現在地を、確かめてみる。オリガは、表層の仮想現実にいた。迷宮街の仮想現実は、示される文字列で、区別がつく。
迷宮街で、ハヤトは深層に踏み入りたくない。深層は魔境だ。プロだからこそ危険には近づきたくない。表層なら、電脳戦に慣れていない格下もいる。
眞島ハヤトは、ハッカーだ。電脳技能は、Bランクだった。深層では、Aランクはないと心許ない。表層なら、ハヤトでも問題なくやっていける。
最近、ハヤトは、電脳戦で好調だ。カルトと対決してからだ。ハヤトは、閃光を発してから電脳戦が強くなりつつある。あれは、世間から閃光事件と呼ばれていた。
ハヤトは、飲食店の扉を通る。オリガと同じ仮想現実へ転送された。
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