【2話2場】

 ハヤトは頭に血がのぼっている。ウエイターは、笑顔で言った。


「お会計、300万マエブネエン」


「そんな訳あるか。生活費3年分だ。絶対に払わない!」


「払えないわね」とオリガ。


 外観は、普通のレストランだった。洋風の調度品だ。小ぎれいなテーブル席が並ぶ。店内には、ピアノ音楽が流れていた。メニューは日本のレストランに寄せている。


 ウエイターは、ロボットのかぶり物をしている。服装は普通の給仕服だ。


 オリガはカレーライスを注文した。サービスで珈琲もでた。


 ハヤトは威勢よく抗議を続ける。


「俺はハッカーだ。相手を見てぼったくれ」


「皆さん、会計になるとヤクザの舎弟かハッカーになる」


「マエブネエンの客をカモにしたいと後援に言ってみろ」


 しばらくして店の奥からギャングの構成員がきた。


 店の奥は、違う仮想現実に通じている。ここは迷宮街だ。


 ギャングもロボのオブジェクトをかぶる。彼はスーツを着こなしていた。


 彼は、ハヤトを観察していた。


「本当にハッカーかい?」


「俺の裏社会での経歴を送るよ」 


 ギャングは送られた情報も確かめて考えていた。彼は決めた。


 彼は、クールな口調だ。


「商売はスタートが肝心だ。簡単にはこちらも引き下がらない」


 ハヤトは内心で毒ついた。相手は、ハッカーすらカモにしたと小さな名声を得たいのだ。名声は、裏社会での資産となる。状況をチャンスだと考えやがった。


 ギャングは、店の奥に2人をうながした。込み入った話をしたいのだ。ハヤトはためらった。どう考えても罠だ。しかしオリガは無警戒に席を立った。


 オリガにも自由意志はあるのだ。


「オリガ。待て」


「これも経験よ」


「おい、バカ。辞めろ」


「バカ? うるさいわね」


 オリガは、店の奥に消えた。ハヤトは追いかけて扉を通る。オリガはいない。


 扉1つしかない小部屋だ。ハヤトは、後ろを振り返る。ギャングは扉を守っていた。


 状況は、呆気なく変わる。


 ギャングは扉の行き先を切り替えたのだ。ハヤトとオリガは、分断されている。


 オリガのいる仮想現実は確認できる。まずは手早く報復だ。 


「やりやがったな。ボケ!」


「身代金だと思って代金を払え」


 ハヤトは激怒している。ハヤトは怒髪天だ。


 眞島ハヤトは自分を偽装した。何もない空間に、ハヤトのオブジェクトが見えている。本体は、透明化して見えない。偽のハヤトは、ギャングへ歩いてゆく。


 ギャングは、偽のハヤトを制止しようと手で押そうとした。偽のハヤトはただの映像だ。ギャングの手は映像を抜ける。ギャングは表情をゆがめた。


 仮想現実でハッカーの術中にハマった人間の顔だ。ハヤトは、ギャングの電脳技能をCランクと見た。ハヤトは、Bランクハッカーだ。相手は格下だった。


 偽のハヤトは消える。ギャングは挙動不審に辺りを探っている。透明化しているハヤトは、その顔面に蹴りを入れた。蹴りの動きにおうじて、電脳のハッキング攻撃が加わる。


 ハヤトに他人をいじる趣味はない。それがこのギャングの幸運だ。


 ギャングは倒れて動かない。Cランクならこの程度だ。


 ハヤトは、オリガのいる仮想現実を調べた。


「迷宮街の深層……」


 文字列は、迷宮街深層系を示している。


 ハヤトは覚悟した。ハヤトに、オリガを諦める思考はない。


 ハヤトは、扉に蹴りを入れた。扉として表示されているプログラムは、書き換わる。


 行き先を、オリガのいる仮想現実に変えた。


 ハヤトはしかし冷静に考えた。ハッカーの相手をするのがCランク程度だ。オリガのほうも熟練度は知れている。迅速な奇襲で、決着をつけてやる。


 ハヤトは、贋物複数を先行させた。偽のハヤト複数人は、映像だけで扉を通る。ハヤトは、透明化されながらあとに続いた。深層レベルではイタズラ程度でしかない。 


 ハヤトは転送され次第に、オリガを検索した。オリガは無事だ。


 転送先は、事務所だった。敵は2人だ。2人はロボットのかぶり物をしていた。ソファに嗜好品のオブジェクトもある。芸術作品も飾られていた。


 敵2人は、偽のハヤト複数人に怒鳴りつけている。ハヤトは敵2人に蹴りを入れた。敵2人は、簡単に再起不能となる。しかし、増援も想定しないといけない。


 ハヤトは、透明化を解く。オリガは駆け寄る。


「ハヤト。ありがとう。私バカよね」


「さっさと逃げるぞ」


 ハヤトは、オリガの腕輪を確かめた。鎖が巻きついている。腕輪の脱出機能は、封じられている。2人は、腕輪を使わずに逃げないといけない。


 ハヤトは振り返る。扉からギャングの1人が入ってきた。


 ギャングの発言は、翻訳される。


「厄ネタじゃねえーか!」


「こっちの台詞だ。ボケ!」


 ギャングは消えた。相手は透明化を使えている。Cランクよりも上だ。


 咄嗟にハヤトもオリガを連れて消える。


 すると、扉が壊された。まず敵は逃げ道を潰したのだ。


 ハヤトは、透明なオリガを部屋の角に庇いながら防御姿勢をしている。


 セオリーとして、ハヤトは贋物を違う角から歩かせた。


 贋物の出現した角は何かの殴打音が聞こえた。ハヤトは名案を思いついた。


 仮想現実にも摂理はある。細工がない限りは、常識もあった。攻撃には近づかないといけない。電脳戦の遠距離攻撃は、高度で稀だ。恐らく相手は、ハヤトと同じBランクだ。


 なら相手は遠距離攻撃を扱えない。ハヤトは透明化を消した。


 透明なオリガを連れて、部屋の角から中央へ歩く。背後では、さきほどまでいた位置に殴打音が聞こえる。その音を合図に、ハヤトは回し蹴りをした。


 感触はある。蹴りは当たった。敵は透明化が解けて壁にぶつかる。


 ハヤトは、追撃の蹴りを入れた。顔面に命中している。


 ギャングは倒れた。敵3人は、動かない。

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