第13話、piscis austrina

 黒蝶貝と白蝶貝が敷かれた路の先に何かが立っていた。それは、遠目には一本の柱のように見えた。単純な形の柱ではあったが燦然と輝き、悠然と、厳粛に直立していた。

 しかしよく近づいて見ると、それは一対の門柱なのだと分かった。大理石の柱の横に、先程は背景とまったく同化していて気づかなかった漆黒の柱がある。

 その門を通ろうと足を踏み出したアクシオンの裾を掴み、フォトンは立ち止まる。


「どうしたんだい」

「ここは因果律を越える門。だから、越えてはいけない」


 手と裾をしっかと握りしめ、アクシオンの眼をまっすぐに見た。

 僕は少し気を落としながらも、フォトンを振り払おうとはしなかった。フォトンの目線まで腰をかがめ、軽く肩を叩いて言った。


「大丈夫だ。僕は行かない」


 フォトンはそれでも心配そうにこちらを見ていたが、ようやく頷いたので、僕たちは門の横を通って向こう側へ廻った。フォトンも今度は何も言わずについてきた。

 その先には、まだ黒蝶貝と白蝶貝の路が続いていた。しばらく進んだ後そっと振り返ると、僕たちの後ろで門はいつか来るであろう誰かを待っていた。

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