第12話、cetus

 虚数の海を渡る途中で見えたのは、小さな歪みだった。アクシオンとフォトンがいる球が、その歪みに近づくと、その世界全体が歪んでるように見えてきた。その歪みの向こうにある星々は揺らぎ、伸びたり、反転したりを繰り返している。


 その歪みの中に、何か光があるのをアクシオンは見た。その光を発している螢石は、小刻みに震えながら、徐々にその光を増している。胎児が拍動するように、球の中に響く二つの心臓の鼓動と、まったく同じ速さで脈を打っていた。眩いほどに輝いた後、息をつくようにしてまた徐々にその光を失っていった。


 アクシオンはもう、自分の手や、首や、胸が自分のものでないように思えてきた。本当の自分の身体はあそこにあって、この身体は偽りなのではないか。そしてまた手を繋いだフォトンも自分であり、自分はフォトンであることに何の疑問も持たなくなった。

 小さな仮の姿のままで、螢石が再び輝き出すのを後にした。 

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