第11話、taurus

 しばらくの後、聞こえたのは幽かな音だった。


 そしてそれは次第に大きくなるようだった。アクシオンはその音の主の、青く輝く箱を見つけた。

 箱の中には滑らかな蒼鉛の管が並び、漆を塗られ螺鈿や蒔絵の施された木管が連なる。底近くでは瑠璃とトルコ石の鍵盤がしきりに上下し、或いは亜鉛孔雀鉱の鋲でぴんと張られた皮が震え、また藍方石の水琴窟には絶えず音が響いている。そしてそこら中に張り巡らされた真鍮の弦は常に鳴り続けて、つり下げられた青銅の編鐘が緩やかに揺れていた。

 それ自体が巨大な一つの楽器だった。その中程に、横になった円柱がゆっくりと回っている。生まれる星、死す星を譜面に写した、錫のごく薄い板がそこに巻き込まれてはまた出てきて、そしてどこまでも長く繋がっていた。

 時に激しく、時に哀れに、移り変わる膨大な力が、こんなにも無慈悲で澄み切った音になるものか。


 とても静かだ。

 音は確かに鼓膜を震わせているはずなのに、あまりに多くの音が重なるともう一つ一つの音は聞こえなくなるようだ。聞こえるとすれば、それは無音なのかもしれない。

 静寂が聞こえたのはほんの僅かの間だけだった。そのうち個々の音が聞き取れるほどになり、それから段々と小さく仄かになって、ついには消えてしまったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る