第9話、canis major

 その場所には実に多くの器具や機械が置かれていた。鮮やかな青の法衣を被った人たちが火花を熔かしたように輝く液体を固めたり流したり、思い思いに動かしている。

 六面に囲まれた部屋の天井の一面は、大聖堂の装飾硝子か、或いは隕石の顕微鏡写真のようになっていて、残りの五面は骨片のように真っ白だった。

 その立方体の中で、アクシオンの目を引いたのは半透明の不思議な構造をした試験管と、その後ろにある大きな水晶のフラスコで、氷の八態をかき集めたように絶えず青白く光っている。


「それは『焼き焦がすものシリウス』だよ」


 一人の男がフラスコを指して言った。


「この瓶からそっちの哲学者の卵に硫黄を流して、向こうの試験管から酸素を発生させている」


 男が言う、フラスコの隣の試験管には電極が繋がっていて、上につり下がっている琥珀の塊で電気を発生させているようだった。時折何かが弾けるような音を立てる。

 男が持つ煙水晶の試験管は真っ青に震えていて、中身を紫水晶の試験管に注ぎ込むと、金緑の液は血碧玉の塊と濃紺の液に変わった。 

 哲学者の卵はさらに強く輝く。その光は藍晶石の霧雨のようで、その光を受けた部屋は、さながら氷河のようだった。

 男の試験管から液体がこぼれ落ち、橄欖石になってゆっくりと沈んでいった。男はそれをすくい上げると、また試験管の中に戻した。橄欖石が濃紺の液に戻るのを、アクシオンは見逃さなかった。


 アクシオンはもっと見ていたかったのだけど、フォトンが手を引っ張るので外に出ることにした。 

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