第6話、ursa major

 アクシオンが周りを見ると、それは無秩序に散らばった砂のようだった。

 もっとよく見ようと目を凝らすと、それらは形を変えながら張りつめた絹糸よりさらに高い音を発して輝くのだった。


 アクシオンはその空間の中にフォトンといるのだ。

 艶やかな黒の床の上にアクシオンとフォトンは立っていた。何か忘れているのではないかという、漠然とした不安がつきまとう。


「フォトン、ずっと僕のこと待っていたのかい」


 アクシオンが訊くと、フォトンは黙って頷いた。そうして兄の顔を見つめ、穏やかに問いかけた。


「お兄ちゃん、銀尖筆は持ってこなかったの」

「ああ、うっかり忘れてきたみたいだ」 


 そこでようやく出かける時には必ず持ち歩いていた銀尖筆がないことに気がついた。

 何かを忘れたような、というのはこれだったのかもしれないと思いながらアクシオンはフォトンと歩きだした。


それきりしばらくの無言が続いたが、僕たちは足を止めることはなかった。玲瓏とした石を叩く二人の足音が重なるのを聴きながら、僕らは進んだ。

 そこは、巨大な時計盤の上だった。数字などはどこにも見あたらないが、黒瑪瑙に浮き彫りと沈み彫りを交互に施した盤の中心に、途中で二三折れ曲がった白金の針が留められていた。

 それは動いていないように見えたが、僅かに、ごく僅かに栄光の輪を廻っていた。

 これは、全ての始まりから存在しているものだった。人の時間でも、また他の生物の時間とも違う、誰の時間でもない時間のために。


 ここで時計盤の地平は途絶えていた。恐る恐る足を下に置けば、どこまで続くかしれない世界が広がっていた。

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