第5話、polaris

 そこは世界中の蛍を全て集めて凍らせてもまだ足りないと言う具合に輝いていた。

 アクシオンはなぜ自分がここにいるのか分からずに、ただその空間に浮かんでいた。


 しばらく見つめていると、それは青金石の盤の上に散らばった様々な石に変わっていった。金や銀の線は引かれていなかったが、アクシオンにはこれが星なのだと分かった。

 なぜこんな所に迷い込んだのかなど、どうでもよいくらいにそれらに惹かれていた。

 アクシオンがすっかり見入ってしまっていると、暗がりから金で縁取られた羅針盤を持った男が現れた。


「君はこんな所にいるべき人ではない。戻りたまえ」


 もしかしたらここに来てはいけなかったのかもしれない。捕まって、どこか遠くに連れていかれるのかもしれない。

 アクシオンが自分はただ間違えて入ってきてしまったのだと言おうとした時、羅針盤の男はアクシオンの隣に妹――フォトンが立っているのに気がついた。


「なるほど、これは珍しい。ハロだからだろうか」


 しばし考えた後、そう言って男は羅針盤をアクシオンに渡し、また暗がりの奥へと消えていった。

 金に縁取られた藍銅鉱の銀河座標の上に風信子石が散りばめられている。

 アクシオンはこの羅針盤をどこかで見たように思ったが、古美術店の星図盤だって自分では動かなかったじゃないか、とすぐに記憶違いだと考え直した。


 何かを忘れている気がしたが、いつの間にかフォトンがいたことで、アクシオンは自分は最初からここに来るつもりだったのだと思った。

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