8:〇〇者

 1


 大石宗介は自分のことを良い教師だと考え、その考えに酔っている。生徒思いで、常に親切で。生徒に注意をすることはよくあるものの、大声で怒鳴りつけることはない。休み時間には生徒と共にサッカーや野球をして遊んだりもする。

 大石宗介は生まれも育ちも東京で、両親にも、友人にも恵まれて、順調な中学生生活を送った。その安定した学生生活は高校に入学しても変わらず、サッカー部で主将を務め、チームを、サッカー部創立以来初の県大会へと導いた。大石は後輩からも、先輩からも慕われた。成績も良く、文武両道、順風満帆とはこのことかと笑った。

 二十歳で教員免許を取得し、翌年から家の近所の中学校に体育教師として勤めた。教師を目指した理由はいろいろあるが、何より色々な人と関わりたい、という思いがあったからだ。そして、その二年後三丙高校に体育教師として勤めることになった。大石の教師としての目標は、いじめのないクラスや、全員が満足できるクラスを作ることだった。一年目、二年目は学校のルール上、副担任だったが、三年目から担任を務めることができた。中高一貫校ということで、中学生と高校生が同じ校舎の元で暮らすという少々、一般的な学校とは違うところもあったが教師の職の仕事内容は大して変わらなかった。

 特に大石が目標に掲げたものがいじめのないクラス、がある。大石は中学生の頃、いじめられて苦しんでいる人を何人か見た。が、生徒には助けようとしても助けられないし、教師は見て見ぬ振りをする。それを悔しく思いつつ、何もできない自分が恥ずかしかった。教師になった今でもいじめをどう止めたら良いのか大石にはわからない。いじめの確固たる証拠を掴んで、いじめを行っていた生徒を叱りつけ、罰しても、その生徒がいじめていた子を「ちくりやがったな」と襲いかねない。そんな事態になれば最悪である。

 だが、証拠さえ掴めば何かしら良い方法があると大石は考えている。しかし、教師になって五年近く経つ今でも、いじめを止められたことは一度もない。

 というよりは、教師の立場になると、いじめが実際に起こっていても気がつかないのだ。大石が学生だった頃より、いじめは陰湿で、ばれにくいものになり、更に教師という立場は生徒ほどクラス全体を見ることができないのが原因だろう。

 そうして、もどかしいまま大石は三十歳になった。その年はD組の担任を務めることになったのだが、B組でどうやらいじめられている生徒がいるということがわかったのである。

 その生徒の名前は、浜辺円。静かで、落ち着いていて、いつも教室の隅の方で読書しているような、典型的ないじめの標的になりそうなタイプの生徒である。

 大石が学生だった頃もいじめられている同級生を見てきたが、そういう生徒とも重なるところの多い、そういう生徒が浜辺だった。


2


 大石が、彼がいじめられていることを知ったのは、ある夏の暑い日の放課後である。その日は勤務日ではなく、とても暑かったので、近くの駄菓子屋にアイスを買いに行った。そこで、学校帰りの浜辺を見かけたのだ。

 その時の浜辺は妙に緊張していて、挙動も安定していない。周囲をきょろきょろ見たかと思えば、悩ましげに頭を抱える。それを、大石は怪しく思い、目的を確認するため、物を探すふりをして、しゃがみ、商品棚の影に隠れた。そこからこっそりと浜辺の方を見る。

 すると、浜辺は飴玉の袋を幾つか手にしているのが見えた。更に、チョコレートの小箱にも手を伸ばす。

 大石が呆然と見つめる間にあっという間に浜辺の両手はたくさんのお菓子で埋め尽くされた。すると、浜辺は肩に下げていた鞄にそのお菓子を流し込む。そして、そのまま足早に店を去っていった。

 万引きだ。大石はすぐにそう察し、浜辺の跡を追った。浜辺は足早に歩いて行き、交差点の曲がり角を曲がった。大石は急いでそれを追う。そして、跡をつけて曲がり角を曲がろうとした時、曲がった先の方向から声が聞こえてきて、足を止めた。

「ちゃんと言った通りの物、取ってきただろうな」

 この声は...確か大滝という生徒の声だ。

「はい...でも、やっぱり」

 浜辺は何か言い返そうとしたが、途中で言葉を止めた。

「じゃあ、これが報酬だ」

「うん...」

「おい、井伊、本田。俺の家で、これ食べながら、ゆっくり映画見ようぜ」 

 井伊、本田。この名前も確か、うちの学校の、浜辺の同級生のはず。

「おし、じゃあいくぞ」

 足音がこっちに向かっている音だったので、大石は慌てたが、近くを見渡しても隠れる場所がなく、違和感がないように出来るだけ自然に歩いてその場を立ち去ることにした。

 結局彼らに気づかれることはなかったのだが、大石の頭の中では終始いじめという言葉が飛び交っていた。

 現場を目撃すると学生時代の頃ほど軽く捉えられないことがよくわかった。 

 ついに、いじめを見つけた。

 とりあえず、このことは黙っておくことにして、大石は出来るだけ浜辺の近くにいるようにすることにした。教師が近くにいれば、大滝たちもいじめられないだろう。そうして、大石が浜辺をずっと見張るようになった。

 

 そんなある時、大石に驚くべき情報がもたらされた。

「大石君はいじめの問題をどう考えるかい」

 職員室で昼ご飯を食べ終え、担任を務めるクラスの模試の解き直しの提出確認をしようとした時、隣の席の山﨑先生が話しかけてきた。山﨑先生は三歳年上で、大石はとても世話になっているいつもは機械的に仕事をこなしていくイメージが強い山﨑先生から、そういう生徒の内面的な話を振られて大石は戸惑ったが、最近は浜辺のこともあっていじめについては考えることが多かったので、すぐに答えることができた。

「一般的に言われることですが、いじめはいじめている側が病んでいるケースが多いです。そして、いじめられて、いじめられている側も病んでいく。いじめられていた子が社会に出て、子供を作り、そして、子供に体罰をする。こういう負のサイクルがあるため、早急に芽を摘まなければならない問題だと思います」

 大石は快活に語った。

「そうか。それなら、大石には教えてやろう」

「いじめに関する情報ですか」

「うむ。実は学年主任から僕に頼まれた仕事なんだが、僕はいまいちこういうのは苦手でね。君なら何かいい感じにやってくれるのでは、と」

 いい感じに、というのはうまい具合に対処してくれる、ということだろうか。

「どのような情報ですか」

 大石が興味津々に尋ねると、山﨑先生はぽりぽりと頭を掻いた。

「簡単に言えば情報を見つけてもらう仕事なんだ」

「見つける仕事、ですか」

「そうだ。君はSNSには詳しいかい」

「ある程度は」

 SNSのアカウントぐらいはいくつか持っている程度には。

「うーん、実は、SNSのサーバーについての情報が入ったそうなんだがな。そのサーバーは、この学校の生徒数人によって形成されているらしいんだが。そこのサーバー名が問題なんだ」

 今時、学生たちはリアルだけでなく、ネットで、通話やチャットを用いて、放課後や休日に雑談をしたり、共にゲームをしたりしている。

 これは教師も同じで、教師間でも情報交換のために「LINE」などのSNSが使わーれている。

 多分、今、山﨑先生が言っているのもその括りのものであろう。サーバーの名前というのはそのグループの名前のことである。

「サーバーの名前、ですか?」

「そのサーバーの名前は『サンシャイン同盟』というそうなんだ」

 山﨑先生は淡々とその名を告げた。『サンシャイン同盟』という単語を聞いて、大石はそのサーバーがどのようなサーバーでどのような人が集まっているのか理解できなかった。

「これは」

「名前からは想像できないだろうが、調査によるとここはいじめられている生徒が集まっているサーバーなんだよ」

「なるほど。いじめられている生徒たちがネット上で集まっている、と」

「多分、そういうことなんだろう。そこで、そのサーバーについて情報を集めて、いじめに関する具体的な情報を掴んでほしい。これが学年主任から僕に与えられた仕事だよ。だが、僕はあいにく、そういう方面のコミュニケーションなどが苦手なんだよ。生徒たちに聞き込みをするなど、僕に出来るはずがない。そこで、是非、大石君にこれを請け負ってほしいんだ」

 大石はそう頼まれるとすぐに首を縦に振った。

「わかりました。その仕事、引き受けさせてください」

「すまないな」

 山﨑先生は申し訳なさそうにそう言った。

「いえいえ。気にしないでください。それより、その『サンシャイン同盟』についてもっと詳しく教えてください。そのサーバーにいる生徒の名前はわかっているんですか」

「一応」

 山﨑先生はそう言うと、自分の席の引き出しからプリントファイルを取り出して、それを読み上げた。

「西藤高貴。志茂郷。それから、浜辺円」

 やはり、浜辺もいた。大石は万引きを目撃した日を思い出す。

「だいたい情報が載っている。資料のプリントはこの二枚だ。一応渡しておくな。ファイルは返さなくて大丈夫だ」

 山﨑先生はそう言って、大石にプリントファイルを手渡した。大石は、ありがとうございます、と言って受け取るとすぐにそれに目を通す。西藤や、志茂。彼らがいじめられていたことに気づけなかった自分を恥じつつ、いじめの巧妙さに怒りも覚えた。

「それにしてもサーバーにいる人間を全員特定するなんて大変だったでしょう」

「浅井先生はいつも教室で生徒の雑談の耳を傾けている。地獄耳だからな。ただ、これで全員かはわからない。特定できた人物がこの四人だったということだ。僕はそろそろ授業があるから、あとは読んどいてくれ。質問があれば、僕のとこに来るよりは浅井先生のところに行った方が明確な返答が返ってくるだろう」

 浅井先生は学年主任の先生だ。

 山﨑先生はそう言って、机の上の整頓されてある教科書を数冊取り出すとそれを持って職員室から出て行った。

 大石は早急に対処すべき問題だと思い、模試の解き直しの提出確認は後にして、どのように対処すればいいか、資料を何周も読みながら頭を悩ませた。様々な生徒に話を聞くというのも作戦としては有効的かもしれないが、それをする際に、いじめを行なっているものに、『サンシャイン同盟』って知ってる? なんて尋ねてしまったらどうする。

 詳しく尋ねすぎて、『サンシャイン同盟』にいる生徒がいじめられている生徒たちの集まりだとバレたら。

いじめられていた生徒がそれについて問いただされてボコボコにされかねない。いじめの対処は一歩も間違えることのできないとても難しい問題だ。そう考えると、生徒に聞き込みするのは得策とは思えない。しかし、他に何か手段があるだろうか。いっそのこと、そのサーバーにいることが確定している生徒に話を聞くのはどうだろうか。いや、それではダメだ。生徒たちはバレてしまった、とそのサーバーを捨てて、別の新しいサーバーを立て、逃げてしまうだろう。逃げられるわけにはいかない。そんなことを考えているうちに、そもそも、いじめの情報を得たところで何になるだろうと考えてしまった。だが、大石はすぐに考え直す。どこで、どのようないじめがされてるかわかれば防ぐことができる。

 色々と考えたが結局、なかなか名案は浮かばないまま時間は過ぎて行った。

 しかし、学校からの帰り道、ついに大石の元に最高の案が降ってきた。妙案というのは突然降ってくるものなのだ。

 少々、リスクもあるのでは、と大石は思いつつも、これ以外良い手が浮かばない。聞き込み、つまり、外側から責めることが難しいならば、内側、つまり、そのサーバに自分が侵入して仕舞えば良いのだ。しかし、教師がサーバーに入れてください、と生徒に頼んだところで入れてもらえないのは見えている。ならば、生徒になりすませばいいのだ。

 こうして、大石は”坂田征四郎”になりすまして、そのサーバーに侵入することにしたのだ。


3


 坂田征四郎はとてもこの状況下でなりすます標的としてぴったりだった。いじめられており、普段、授業中に当てられても言葉を発することはない。友達もいない。彼が学校で関わりを持っている人物は彼をいじめている人間たちだけである。 特に、声を発することがない、というのはとても有効な条件だった。そのサーバーに入った時、当然、通話に参加しなければ、彼らのいじめに関する情報は手に入らない。

 だが、坂田がよく喋る生徒で同級生がある程度その声を知っていれば、大石がいくら上手く声を変えたとて、いずれなりすましがバレてしまう。

 かといって、通話に参加しといて喋らなければ、文句を言われたり、面白くないとサーバーを追放されたりしかねない。

 また、普段喋らないキャラだから、と誤魔化して、チャットだけの会話に参加する方法もありだが、情報を最大限手に入れるためには通話も利用したいところである。そうなると、声を出さざるを得ない。

 そのため、誰も声を知らない坂田はこの際、最高の標的なのだ。そして、こちらの声は、ボイスチェンジャーのサイトか、自分で声を変えるかして、変えることができるので、大石が、体育の大石先生である、ということはバレない。あくまで”坂田征四郎”として振る舞うことができるのだ。

 翌朝、大石は生徒が誰もいない、早い時間帯に学校に来ると、浜辺の机の上に、『サンシャイン同盟、に僕も入れて。どのチャットツールかわからないから、メールで教えて。メアド:sakako@email.com 坂田征四郎』と書いたメモ書きを置いた。浜辺を選んだのは、大抵学年で一番に学校に来るのが浜辺で、このメモを他の人に見られる危険性がないからだ。

 その日、放課後、昨日後に回してしまった模試の解き直しの提出確認を済ませて、メールを確認すると、見覚えのないメールアドレスからメッセージが来ている。『坂田君、ありがとう。是非入ってください。Accordingっていうサービスです。下記のリンクからサーバーに飛べます』

 浜辺からだろう。今すぐ、サーバーに入りたいところだったが、こういうことをしていると、万が一他の先生にバレればクビにされかねないので、一旦家に帰ってから、サーバーに入ることにした。

 家に着いてすぐ、PCを起動し、イヤホンとマイクを繋ぐと送られてきたリンクにアクセスした。マイクは、コロナウイルス感染症が流行った時のオンライン会議のために購入したものだ。こんなものが今になって役に立つとは思わなかった。

 サイトにアクセスするまでの読み込みの間、自分でも気づかないうちに、どきどきしていた。大石が幼い頃、好きなアニメが始まるのをテレビの前で待っている気持ちがそれに似ている。いつの間にかいじめの調査を楽しんでいる自分がいることに大石はどこかで気づいていたが、目を背けた。それは、どこかに楽しんでするものではない、と理解している自分がいたからだろう。

 早速通話が始まっていた。大石はこのAccordingというチャットサービスを利用するのは初めてだったが、右端に『通話が始まっています、参加しますか? 』という表記があったのですぐにわかった。参加しますか? という字の下に、参加します、と参加しない、の二つのボタンがある。大石は一息ついて、参加します、のボタンにカーソルを移動させた。マイクはしっかり小細工済み。とあるアプリケーションを利用して声のピッチが機械音に聞こえない程度にズラされており、さらに、マイクの上に布を被せているため、向こうには声がくぐもって聞こえるはずだ。それに加えて、こちらが声を少し変えてあげれば、向こうは大石の正体に気づくことはない。その準備をあらためて確認して、大石は参加します、をクリックした。

 入ってすぐ、聞こえてきたのは聞き覚えのある声だった。これは西藤という生徒のものだろう。

「気がついたら財布が空になってましたねー誰がやったんでしょうねー五千円を誰が取ったんでしょうねー」

「五千円も学校に持ってくるなよ」

 これは多分、志茂の声。

「それは迂闊だったな」

「つか、これで計二万円盗られてるのに、もっと対策しようと思わないのかね」

 これは、確か、森木久という生徒の声だ。山﨑先生から渡された資料には名前がなかったが、彼もいじめられていたのか。

「お、坂田君、来たよ」

 この少し高い声は浜辺の声だ。

「ようこそ、『サンシャイン同盟』に」

 と西藤。大石の脳内に過去に見たジュラシックパークの映画の「ようこそ、ジュラシックパークへ」というシーンが再生された。

「ここがどういう場所かは言わなくてもわかるよね」

 志茂が言う。大石は、うん、とそっけなく返した。

「お前はどう思うか、今日も五千円盗られたんだが」

 西藤が興奮気味に話しかけてくる。

「辛いね」

 初めて声を発したので、大石はバレないかと緊張した。先ほどのうん、は声こそ発したものの、明確な単語ではないためさほど緊張しなかった。

「坂田ってこんな声だったんだ」

「確かに」

 彼らは口々にそう言った。

 バレてはない様子だ。いや、というかバレるわけがないではないか。彼らは誰も坂田征四郎の声を知らないのだから。

「新鮮だな。もごもごしてる感じは予想通りだけど思ってたより高いな」

 という森木の反応は期待通りの反応である。ピッチをいじって高くして、さらに自分自信も普段より高く喋っている。

「で、坂田は、どこで、このサーバーを知った?」

「地獄耳で」

 この返事で良かっただろうか、と言ってから思ったが、それで皆納得したようだった。

「自己紹介して行った方がいい?」

 と浜辺に聞かれたので

「大体声で判別できてるから大丈夫だよ」

 と答えた。

「志茂、『MWS』やろ」

 と浜辺が志茂に言って、志茂の返答待たず通話を抜ける。志茂は、了解と言って通話を抜けていった。

 MWSは、確か。今流行ってるゲームだったっけような気がする。大石は学生時代以来ゲームを全くしていないので、詳しくない。

「さっきの続き。五千円取られたんだっけ」

「ちょ、俺眠いから寝ていい?」

 うーむ自由だ。

「西藤寝るの早。じゃあ、俺も寝るわ。坂田君は...」

「じゃあ僕も」

 軽く笑って見せて、通話を抜けた。

 ちょっと早く抜けすぎた気もしたがまあ大丈夫だろう。

 通話を終えると、大石は疲労も覚えたが、何より、楽しさが先に来た。まるで、自分の学生時代に戻ったかのようだ。坂田の性格に合わさなければいけないので、たくさん喋ったりはできなかったが、それでも生徒と対等な視点、立場で会話できることはとてつもなく楽しかった。


4


 大石はそれから、毎日のように通話に参加した。もはや、いじめの調査という目的は忘れていた。出来るだけ毎日、通話して、通話して、通話して、通話した。

 その際、大石は通話に対する対策を怠らなくて良かったと思っている。このサーバーでは、あまりチャットでの会話が頻繁でなく、何か要件があったら通話で、といった様子である。もし、大石が通話に対する対策を怠っていれば、ほとんどコミュニケーションは取れなかっただろう。

 通話しているうちに、大石は徐々にこのネットでのみの、学生時代への若返りに酔った。このことばかりを考え、授業でもなかなか集中力が切れがちになり、最近は生徒たちのサッカーには参加せず、ベンチに腰掛けてそれを眺めながら、家に帰ってからのことを想像している。

 近年、様々なアプリやソフトが開発され、AIを利用した、AIとの会話も可能ではあるが、それには当然限りがある。しかし、今大石がやっているのはリアルの人間と学生の気分で話すという異色の遊びだった。

 しかし、完全にいじめのことを忘れたわけではなく、『サンシャイン同盟』にいる生徒を観察したりはした。確かに、言われてみれば皆、いじめられているようだ。

 結局、大人になって仕舞えば、いじめには気づけなくなるのだ、と以前の大石なら考えただろうが、今の大石は擬似的な学生生活に酔っていたのでそんなことは微塵も考えなかった。山﨑先生から、たまに調査は順調か? と聞かれることはあったが、それには適当に順調だと返事した。

 そういうことをしているうちに一ヶ月近くが経とうとしていた。ある時は、浜辺からストラップを貰ったりもした。向こうから「ストラップダブったから知り合えた記念にあげる」と言われたのだ。断るわけにもいかず、また、学校で渡して、となると、ネット上での”坂田征四郎”の中の人は大石であって、本物の坂田征四郎ではないので、話が食い違ってしまうだろう。なので、郵便番号を教えてストラップを送ってもらった。学校にそのストラップをつけていけば、なぜ先生がつけているの、と聞かれてしまうかもしれない。かといって貰ったストラップをつけないわけにもいかず、大石は普段家から持ち出すことのないエコバッグにつけることにした。そんな風にうまくやっていけていた中で、大石の目を覚まさせる出来事が起こる。

 このサーバーではいじめられたことの愚痴や、いじめられた内容を語って共有したり、単純な世間話をする以外にも、教師の愚痴や、テストの出来不出来を語り合ったりもしていた。

 いつも通り、ウキウキで大石が通話に参加すると、志茂が悪態をついていた。

「浅井ガチ嫌い。死ね」

 確かに、あの先生は厳しく、古いやり方に囚われている一面も多く、生徒からは嫌われがちである。基本的に学年主任という仕事はそういう仕事なのだ。

「わかるわー。授業下手なのに」

 と浜辺も頷く。

「テストバカ簡単だし」

「だっけ」

 志茂は毎回学年最下位近辺なので、簡単だったテストなど一切ないだろう。

「前回、平均点八十五点だから」

「ああなる」

 ああなるとはああなるほど、を略した形だ。最初は大石も突然の下ネタに戸惑ってしまったのを覚えている。

「学年主任とかああいう上の立場にいる教師は大抵ゴミ。副担とか、臨時の人とか、非常勤とかの先生は大抵いい」

 と森木が持論を述べる。それに対して、各々大体同調するような調子で返事をする。すると、志茂が心底鬱陶しそうな声で言った。

「俺、一番嫌いなの何気に大石説あるな」

 え...。

 まず、驚きが来て、そのあと、怒りが湧いてきた。

「なぜ」

 と浜辺が尋ねる。すると、志茂は声を荒げて

「あいつ生徒のことはなんでもわかってる風なのむかつく。説教しない割にいちいち細かいところ注意してくるしさ。でも、前までは生徒みたいな先生でまだ嫌いじゃなかったけど、最近は心ここに在らず、みたいな状態じゃん。どうせ、生徒に寄り添っている自分かっこいい! とか思ってるんだろ、あいつ。そういう奴が一番好感持てない。とっととどっかいってくれ。しかも、あいつ、生徒のことなんでもわかってる風に振る舞ってるのに運動神経悪い俺みたいな人間のことをちゃんと考えられてないからな。きしょい。まじで消えてくれ。小説とかアニメとかにいるゴミ熱血教師と完全一致」

 と早口で捲し立てた。

 その話を聞いているうちに、大石の怒りは今度はショックに変わっており、大石はPCの画面を見つめながら唖然としていた。自分が良かれと思っていた行いが、このようなことになっていたとは思ってもいなかった。

「言いたいことは確かにわかるな」

 と皆口々に言う。

「さっきから静かだけど、坂田、お前はどう思ってる」

 大石は我に帰った。そして、自分の本音をそのまま述べた。

「生徒思いの先生だと思うよ」

「そうかぁ? おれにはようわからんな」

 会話がこれで終われば大石の感情は失意のどん底に落とされるだけで済んでいたはずだ。しかし、これだけでは終わらなかった。

「そういえば、あいつが前の学校クビになった理由知ってるか」

 と言い出したのは志茂だ。

「あいつ、クビになってたの? 知らなかった」

「なんか中学生の女子にエッチいことしたらしいぜ」

「マジかよ。あいつのこと好きになりそう」

「西藤きしょすぎて草」

「エッチいことって例えば?」

「興味津々だな。服を脱がせて、あんなことしたりこんなことしたり、そんなことしたり」

「どんなことか教えてくれよー」

「浜辺純粋すぎて草」

「草草うるせえ」

 彼らは他愛もないしょーもない冗談やくだらない罵り合いをして戯れていたが、大石はそれに乗る気にはなれなかった。しかし、何も喋らないでいると違和感があるので、とりあえず、夕食が、と言い訳して通話を抜けることにした。

 なんということだろう。

 第一に、大石は前の学校をクビになったわけではない。前の学校の十歳年上の先生が三丙高校出身で、その先生の生き方に感銘を受けて、この高校に来たのだ。クビになるどころか、校長からは、真面目な態度が素晴らしかったと惜しまれたぐらいだ。どこから出た噂なのだろうか。

 まさか、志茂があの出鱈目を広めたりしないだろうか。いや、広める可能性は高い。もし、あれを広めたれたら、大石の学校での立場は完全になくなってしまう。そうすればクビだ。原因が原因で、別の学校に勤務することも難しいだろう。そんなことは断じてあってはならない。

 しかし、噂というのは一度広まり始めればどんどん広がっていく。特に、破壊力があり、衝撃的な噂は恐ろしいほどの速度で学校中に知れ渡る。さらに、その先生が嫌われている先生となれば、数日で学年、いや学校全体の笑い者になりかねない。

 大石に妻子はいない。だが、近いうちに結婚したいと思っているし、子供も欲しいと思っている。このままじゃいけない。しかし、どうしようもない。生徒たちに、その噂は出鱈目だと大声で訴えようか。いや、そんなことしても効果はないだろう。でも、このままでは。


5


 大石はこれから暫くはこのことについて考え続けるのか、と思っていたが、思いの外、仕事が忙しくなり、強引にこのことを忘れることができた。そんな矢先、浜辺円が万引きをした、と山﨑先生から連絡が入った。当然、面談をしなければならない。本来なら、山﨑先生が面談を行うところだったが、山﨑先生は面談の仕事を大石に託した。山﨑先生は浜辺がいじめられていることを知っていたので、これはただの万引きの説教ではない、自分の苦手な範囲の問題になる、と考えたのだろう。

 浜辺が万引きを行ったのは、以前、大石が彼の万引きを目撃した店とは別の店だった。その店への謝罪の前に、浜辺の父親と母親、そして、大石と浜辺の四人で面談が行われた。浜辺の父親は典型的なサラリーマン風の男で、鬼のような形相をしていた。肌の色が黒いのも威圧を増してくる。それと反対に浜辺の母親は、細く、色白で見るからに弱々しい女性でひたすら涙を流していた。そして、万引きを行った張本人、浜辺はだんまりを決めているのか、ずっと口を閉ざしている。そんな三者三様な中で面談が始まった。

「ご両親の方は事情は大体把握しておられますか」

 大石が尋ねると二人は首を縦に動かした。

「わかりました。一応こちらから、概要をお話ししますと、一昨日、浜辺君は『100円スーパー』にて複数の商品を...」

「知っとると言ってるだろう」

 形式に沿って説明をしようとすると、浜辺の父親が強い口調で言ってきて、大石はおののき縮こまった。

「すいません。では、まず、浜辺君。ご両親とこれについて、しっかりと話し合ったのですか」

 生徒の両親交えての面談は初めてだったので、浜辺ことを君付すべきか、迷ったが、浜辺の父親の態度から呼び捨てすれば何か言われかねないと判断して、君付することにした。

「円、先生に失礼だろ。返事しろ」

 浜辺の父親が罵声を飛ばす。が、浜辺は口を開こうとしない。

「おい、円。聞いてるんか!」

 浜辺は返事しようとはしない。浜辺の父親が今にも殴りかかる勢いだったので、大石は話を進めることにした。

「スーパー側からは盗んだ商品の値段だけ、返してくだされば、警察には言わないと言われています」

「聞いています」

「本当にこの度はこちらの指導も行き届いておらず、申し訳ありません」

 大石は浜辺の両親に頭を下げた。学校側から、大石にはこのように進めてくれ、という指示は出ているのだが、大石はそれを無視することにした。理由は簡単である。浜辺円からの評価を上げるためだ。学校からの指示では、浜辺を叱ったり浜辺の両親と浜辺の対話の時間を改めて設けたり、という指示が出ていたが、それでは浜辺からの評価は下がってしまう。なので、ここは浜辺を全力で擁護しに行き、浜辺からの評価を上げて、前の学校をクビになったというデマが流れないようにするのだ。

「先生が謝られる必要はありません」

 最初の強気な姿勢から大石は浜辺の父に若干の警戒心を抱いたが、今の発言でその警戒心は若干薄まった。所謂、モンスターペアレンツというわけではなく、ただ実直な人なのだろう。

「いえいえ、違います。私は謝らなければならないのです。単刀直入にお話ししますと実は、浜辺君は自分から万引きをしたわけではありません」

 ずっと俯いていた浜辺が少し顔を上げて大石の方を見た。大石は浜辺の心がこちらに向いているのでは、と嬉しくなり、勢いよく話を続ける。

「実は浜辺君に万引きを指示していた人がいるんですよ」

「指示?」

「そうです。浜辺君は自分の意志で万引きを行うような悪い生徒でないことは私が一番よくわかっています。ご両親の方もそう思うでしょう」

「はあ、まあ」

「そう思って、私が個人的に調べてみたんです。そうすると、どうやら浜辺君が自分の意志で行ったわけではないということがわかったんです」

「うーむ」

 浜辺の父親は訝しげに首を傾げる。

「浜辺君の万引きしたお菓子はどこにあるのでしょうか」

 大石はわざととぼけた様子で言った。すると、予想通り、浜辺の母親が会話に乗ってくる。

「あ、それ、それなんですよ、先生」

「どうした?」

「わたし、ずっと不思議のおもってたんです。家のお菓子が増えたなんてことはないですし、ゴミ箱にも円が万引きしたというお菓子のゴミはない。円の部屋の中に隠してあるのでは、と探したけれどどこにもない」

「なるほど」

「ですけど、どうやら、その中にアイスがあったそうです。アイスは隠していれば溶けてしまいます。」

「別に、外のゴミ箱に捨てればいい話だろう」

 浜辺の父が口を挟んだ。

「そんなふうに逃げようと思えば幾らでも逃げられます。しかし、こう考えてみてください。浜辺君が万引きしたお菓子は全て、浜辺君とは別の子の元にあるというふうに」

「つまり、円はいじめに...」

 浜辺の父親がそう呟き、大石がうまくいじめの事実を伝えられたと心の内でガッツボーズした時、それに被せるように浜辺が大声で言った。

「なんで山﨑先生じゃないんですか?」

「うん?」

 浜辺の父が首を傾げる。

「普通こういう面談は担任の教師がやるものでしょう? なんで、他クラスの担任の大石先生がやってるんですか」

「そ、それは。今日は、山﨑先生が居られなくて」

「朝いましたけど」

「放課後から出張が」

「出張がある日に面談を入れたんですか」

「急遽決まったことで」

「で、ピンチヒッターの大石先生がなんで僕の私生活を詳しく知らないのに、勝手に大法螺を吹いているんですか」

 大石は狼狽えて、答えられなかった。そして、なぜ、浜辺がここまで怒り気味に自分を責めているのかわからなかった。

「先生? 今、円が言ったことは本当ですかね」

 大石は小さく頷いた。浜辺の父親ははあ、と大きく溜息をついて

「話にならん」

 と言って面談室を出て行った。それに続いて、浜辺も出て行く。浜辺の母親は大石の方に向かって小さく頭を下げて

「知ってらっしゃったんですね。ありがとうございます」

 と言って出て行った。大石は兎に角、虚しくて面談室の椅子から立ち上がることができなかった。

 その日、『サンシャイン同盟』のサーバーにアクセスすると通話が既に始まっていた。その通話には浜辺も参加していたので、大石は後ろめたさを覚えた。その一方で、庇おうとした自分の態度を彼が評価してくれるのではという期待も仄かにあった。しかし、まあそれは仄かな期待だ。あそこまで強く自分を攻め立てたのに今更評価してくれるなんてことはない。

 そして、気持ちのほとんどは後ろめたさだったので、通話自体に参加すべきか迷った。しかし、あくまでネット上では坂田征四郎、なので通話に参加した。

「それはクズだなぁー」

 と志茂が言うのがまず聞こえた。

「普通にムカついた。あと、頭悪いなって。いじめられてることを親に明かしたいなんて普通思わないだろう。なんであいつは明かそうとしたのか。理解ができない。僕がいじめられてるのを教師たちが知っているのは大体わかってたけど、親に言うほど馬鹿だとは。いじめられてるやつの気持ちもわからないんだな。やっぱ、大石はただのきしょい熱血教師だ」

 前の志茂からの罵倒とは違って、怒りは湧かず、兎に角申し訳なかった。

「いじめのこと、何だとおもってるんだろう」

「知らね」

 浜辺は怒りを露わにして雑に返答する。

「やっぱ大石きしょいな。つか、なんで、山﨑先生じゃなくて大石なんだ? 面談は普通クラス担任だろ」

「出張だって。しかも、面談の当日に出張が入っちゃったらしい」

「そんなことあるか?」

「ないよ。多分嘘。どうせ、山﨑は機械だから面談とか無理なんでしょ。それで、あいつに押し付けた。どうせ、あいつ職員室で色んな教師に媚び売ってんだろ」

「確かに。山﨑はAIだな。うちの学校に史上初のAI教師がやってくるなんて、すごーい」

 そう言って志茂が一人で笑い出す。

「低レベルな笑い」

 森木が喧嘩を売る。

「じゃあ、お前なんか面白いこと言ってみろよ」

 と森木と志茂が面白くないことの言い合いを始めたのだが。大石はここに来て自分が全然喋れていないことに気づいて焦って、適当に話題を振った。

「そういえば、西藤君は?」

 今日は西藤が通話に来ていない。いつも通話にいるのに。

「西藤様はデートにございます」

「え、本当に?」

 これは大石の本音だった。西藤が不細工だとは言わないが、目立った綺麗な顔をしているわけでもなく、彼が女子と喋っているところはあまり見たことがない。

「嘘。あいつにいるわけないじゃん。西藤は今、妹とデート」

「デートって言い方するとロリコンみたいなニュアンスになってしまうな」

 と森木。

「妹と二人でゲーセンだって」

「ゲーセンデートは流石に有り得ない」

 と森木がなぜかキレ気味に言う。

「何言ってんの」

「ちなみに、西藤君の妹の年齢は?」

「西藤と一歳違いです。十五歳」

「それってロリコンなの?」

「悲報、坂田征四郎、純粋」

 と志茂が言い、森木がおもんない、と喧嘩を売り...。

「志茂」

「やりますかー、浜辺様。わかっておりますよ。『MWS』ね。今起動中。じゃあな」

 と、浜辺と志茂が同時に通話を抜けた。

「じゃあ俺も落ちるわ」

 そうして、森木通話を抜けた。大石は最後に通話を去ったのだが、何か違和感を覚えた。なんだろう。何かがおかしいような、気がする。何かはわからないが何かが。


6


 翌日、学校からの面談に関する規定を破った件、つまり、いじめに関する告発などマニュアルにないことをしてしまったこと、もあり、今日あった出来事全てを山﨑先生に教えることはしなかったが、担任と話し合わなければ意味がない、という旨の発言をされたことは伝えた。元はと言えば、山﨑先生が苦手だからと仕事を押し付けたのが原因だということもあって、山﨑先生は頭を下げて大石に謝った。大石は罪悪感もあったので、特にむきになって責めることはしなかった。

 それより、志茂のことが気がかりで仕方なかった。志茂はあの出鱈目を振り撒くのだろうか。いや、振り撒く可能性はとても高いと言えるだろう。あんなこと言われては、どうしようもない。志茂に金を渡して、あの噂は撒かないでくれ、と頼めば良いだろうか。しかし、そんなことで彼を落とせるだろうか。更に、そういうふうに頼めば、あの話はまるで本当のことかのようになってしまう。まず、なぜ、その話を撒こうとしてることを知っている? と問い詰められたら終わりだ。大石が坂田の名前を使って『サンシャイン同盟』に入っていることを疑われてしまう。

 ではどうしようか。そう考えた時に、一瞬だけ恐ろしい考えが浮かんで、大石は震えた。志茂を殺す。志茂を黙らせるにはこうするしかない。しかし、そんなこと。そんなこと、まず、許されるはずはない。人を殺すことなど、そんな、そんな。そう考えているうちに大石の頭の中が志茂を殺すという考えに支配されていった。殺すなんて有り得ない、とひたすら考え、殺してはいけない理由をとことん追求した結果残ったのは、自分が生き残るためには仕方ない、ということだった。


7


 結局、その後もなかなか心の迷いが振り切れなかった。しかし、そう迷っている暇はなかった。大石は追い詰められていたのだ。そんな中で最後の一押しをしたのは山﨑先生だった。

 大石が職員室で山﨑先生とすれ違った時、山﨑先生が恐ろしい形相で大石を見つめて尋ねてきたのだ。

「君は前の学校で、生徒に...いかがわしい行いをしたと噂になっているが」

 大石は直ちに否定した。山﨑先生はお前がそんなことするわけないよな、と笑ってくれたが、この出来事は大石が決心するには十分すぎる出来事だった。

 そうして、大石は遂に実行に移すことにした。まずは、志茂を学校の体育倉庫に呼び出した。志茂は違和感を覚えただろうが、体育倉庫に現れた。大石は志茂にお茶を出した。体育倉庫でお茶を振舞われるなど普通に考えればおかしいことだ。だが、志茂は特に抵抗せずそれを飲んだ。先生から与えられるお茶に睡眠薬が入っているなどと誰が思うだろうか。

「大石先生、どうされたのですか。密談ですか?」

 志茂が尋ねてくる。跳び箱に座ったまま大石は答えなかった。

「先生? 相談だったら聞きますよ。僕は先生のことが好きなので」

 その言葉でかっときた。元々、無言で貫いて、志茂が即効性の睡眠薬の効果で眠るのを待つつもりだった。しかし、大石は感情を抑えられなかった。

「よく言うよ。ネットで散々馬鹿にしてるのに」

「え?」

「大石は前の学校で女子生徒に猥褻行為をしてクビになった?」

「なんで」

 志茂は呆気に取られている。その様子に大石は快感を覚えた。まるで、刑事ドラマで犯人を指名する刑事になったような気分だった。

「出鱈目を流そうとしたんだな。根も葉もない嘘だ。誰から聞いたのか知らないが」

「でも、どうして、それを」

「志茂君。君はいじめられているんだよね。『サンシャイン同盟』での会話は全て見させてもらってるよ」

 志茂の唇は震えていた。数メートル離れた場所からも見てとれた。彼は、今から殺されると察して震えているわけではないのだろう。彼は、大石先生が『サンシャイン同盟』にいて、メッセージを全て見られていた、そして、自分の愚痴も見られていた。その事実に恐怖を覚えたのだろう。

「まさか、誰が、あれは、え、なぜ、そんな」

 志茂は声を震わせながら尋ねてきた。だが、大石は答えなかった。

「先生は、なぜ、そんな...」

 志茂の声はどんどん弱くなっていき、ドサリとその場に倒れた。睡眠薬が効いたのだろう。大石は志茂が倒れるとすぐに準備に取り掛かった。

 既に縄は吊るしてある。都合よく体育倉庫に高さ二、三メートルはありそうな大きな鉄棒があり、そこに縄をしっかりと結び付けておいた。

 しかし、それに志茂を吊るすだけでは意味がない。睡眠薬を飲み、眠っている状態で絞首台に上がることは当然無理だ。そうすれば、司法解剖か何かで自殺に見せかけて殺されたとばれてしまう。だから、絞首台を普通の箱にせず、大きな氷の塊にした。そうすることで、志茂は苦しむのが嫌だったので、睡眠薬を飲み、その氷の塊に乗って、首に輪を通した。氷が溶けて首が絞められる頃には睡眠薬の効果で夢の中、そう志茂は考えた。そういうふうに警察に解釈してもらえるだろう。我ながらよくできたトリックなのでは、と、このトリックが思いついた時大石は得意げになった。

 全ての準備を終えた大石は、偽の遺書を志茂のポケットに忍ばせて、監視カメラの設置されていない裏口から、体育倉庫を出た。その後、学校の裏山に、先程志茂がお茶を飲むのに使ったコップを埋めた。そうして、何食わぬ顔で職員室に戻った。時刻は午後七時頃だった。

 大石が戻ると職員室はパニックに陥っていた。志茂の母親から息子の帰りが遅い、と電話があったらしい。志茂はいつも、六時には帰ってくるはずだという。山﨑先生から起こっていることの概要を伝えられ、大石は慌てたふうに振る舞って必死で校内中を駆け回った。

 そして、午後九時過ぎに体育倉庫で、浅井先生が、首を吊って死んでいる志茂の死体を発見した。すぐに警察が来て捜査が始まった。警察は、大石にとっては有難くも、氷を利用したことを見抜き、遺書からも、志茂が自殺したと処理した。大石は胸の内でほくそ笑んだ。


 当然、その日の『サンシャイン同盟』では、志茂の話題で持ちきりだった。早速彼らも情報をどこかから仕入れてきたのだろう。

「志茂がいじめを苦に自殺した? そんな馬鹿な...」

 西藤が声を震わせた。

「あり得ない。あいつはいじめられても立ち直るタイプだと思ってた...」

 と浜辺も驚きを隠しきれない様子だった。

「志茂君...死んでほしくなかった」

 大石はそう呟いたが、これは”坂田征四郎”として言ったのではなく、大石自身の、つまり、本心だった。殺しておいて死んでほしくなかったとは、矛盾していると誰もが思うかもしれない。しかし、大石は志茂を殺したことを本当に悔いていた。志茂は別に大石の前ではしっかりしていた。裏で愚痴ばかり言っていても表向きをしっかりしていれば問題はないのではないか。大石だって学生時代、先生の愚痴を言ったものだ。確かに大石を追い詰めるような噂を彼は流した。だが、冷静になって考えてみれば、校長は生徒の噂より、教師の言い訳を尊重するものだろう。しかし、気付いた頃には、志茂は死んでいた。

「あり得ない、よな。でも、志茂が自殺したのではないとすれば、彼の死因として考えられるのは」

「殺人、か」

 森木は珍しく真面目な様子だった。いつもは苛立つほどイキっていたり、しょーもないジョークを言ったりしている彼も真剣で少し大石の気は重くなった。

「誰かが志茂を自殺に見せかけて殺した。しかし、なぜ自殺に見せかけたのだろうか」

 西藤が話を進める。

「それは...」

「それは簡単だ。トリックを考えるのが面倒だったからだろう。ダミーの犯人を仕立て上げたり、そういうのが面倒だったからだ」

 その森木の予想は半分的を射ていたため、流石に大石はひやっとした。大石が自殺に見せかけた理由の半分は、誰かを犯人に仕立て上げたくなかったからだ。しかし、面倒だったからではない。無実の罪で捕まる人間を出したくなかったからだ。そして、いじめを仄めかすことで、志茂をいじめていた人間にいっぱい食わしてやろうと思った。これが、自殺に見せかけた要因である。

 結局、森木の予想に全員が納得し、それを前提に置いた上で、殺人だとすれば誰が犯人なのか、という論議が始まった。大石は適当に相槌を打ちながら、しっかり”坂田征四郎”を演じつつ、画面の前であからさまにぶら下がっている、『自殺に見せかけた要因』や、『画面越しに目の前にいる犯人』に気づかない彼らを見て、ほっとしつつ、にやにやしていた。トリックは大成功した。


 三日後、志茂は大石の担当するクラスの生徒だったことがあって、大石は志茂の葬式に参加した。

「わざわざありがとうございます」

 志茂の父親が大石に頭を下げた。涙こそ流していないが、目は真っ赤だった。

「この度は。何というか...」

「大石先生には本当に、本当に、お世話に...」

 そう言って志茂の母親は泣き崩れた。大石は返す言葉もなく、そっと葬場を去った。その葬式には、『サンシャイン同盟』のメンバー全員も参加していた。


8


「あの、さ」

 と浜辺が切り出した。

「どうした?」

 と西藤が言うがその声に元気はない。それは当然である。葬式が終わって数時間後の通話である。元気があれば逆に怖い。

「あの、その、ちょっと、志茂のことで...」

「どうした?」

 と森木も。

「実は、その、一昨日さ」

 一昨日と言えば大石が志茂を殺した日の翌日である。

「一昨日何があった?」

「あの、その、えっと...やっぱ何でもない」

「なんだそりゃ」

「志茂の件に関する重要な証拠でも見つけたの?」

 大石は少しだけ不安になりそう尋ねた。

「あああ、えっと、その、ああ、えっと」

 情緒が安定していない。やはり、何か見つけたのだろう。大石はあくまで”坂田征四郎”を装うことを忘れないように質問を重ねる。

「どういう証拠?」

「今日はやけに喋るな」

 と西藤。

「志茂君が殺された理由...気になるから」

 多分、これで言い訳できているはずだ。

「なーるほど。それは俺も同じだ。あいつは自殺するようなやつじゃない」

 と西藤が言い、森木も頷く。うまく言い訳できたようだ。

「もう少し考える。ちょっと、時間が。今日は一旦」

 浜辺は落ち着かないまま通話を抜けた。それに続いて、他の皆も抜けていき、大石もそれに続くように通話を抜けた。

 彼が何かを知ってしまったのは事実だろう。もし、それが犯人が大石宗介であるということを導き出す証拠ならば彼を殺さなければならない。犯罪はこうやって連鎖していく。


9


 数日して、大石は警察側から事情聴取を受けた。これは大石に限った話ではなく、高校一年生学年会の教師全員が十五分程度の軽い事情聴取を受けたのだ。

 事情聴取を担当したのは布留川というガタイの良い刑事と、布留川ほどガタイは良くないがしっかりした様子の顔付きもキリッとした、飯田という中年の刑事だった。布留川刑事は、体育教師の大石も顔負けの体付きをしていて、まるで、ラグビー選手のような体をしていた。

 事情聴取は面談室で行われた。面談室に行くのがあの浜辺の件以来な上に刑事達との対面なので気が重たかった。

「えーと、大石先生ですね」

 飯田刑事が教員の名簿のようなものを確認して言った。

「はい、そうです」

 大石は出来るだけマイナスな印象を与えないように明るく振舞って言った。

「志茂君は普段どのような様子の生徒でしたか」

 どのような様子の生徒だったか.....。答え方を間違えてはいけないので大石が少し黙っているとメモ帳とペンを手に持っている布留川刑事が、早く話せ、と言うかのような目で睨んできた。大石は慌てて口を開く。

「とても明るくてクラスでもよく喋る生徒でした。どの先生にもフレンドリーでしたし、うまくクラスでもやっていけている様子でした。が」

「が?」

「これは私目線なのですが、クラスの子から少し暴力的なことはされていたようです」

 刑事にいじめであると信じ込ませなければならないので大石は実際より誇張して伝える。実際のところは軽い肩パンしかされているところは目撃していない。

 裏では志茂はいじめられているのだが、いじめの発見の難しさから考えて、警察も志茂がいじめられているという事実に気がつかないかもしれない。そうなってはいけないので、こちらから志茂がいじめられているという事実を補完する情報を教える必要があるのだ。

「ほう。では、大石先生は志茂君がいじめを苦に自殺したと思っているのですね」

「その可能性も否定できないとは思います」

「なるほど。実は、他の先生方でもそのように言っている先生もいるんですよ。この学年の主任の浅井先生もそう言っておられましたね」

「ああ」

 浅井先生や山﨑先生のことだろう。『サンシャイン同盟』のことを知っているから。

「ですが、やはり、こうも明るい生徒が自殺するというのは我々としてもどうも信じられないんですよ。いじめの自殺の例は何個も見てきましたから」

「それは私も信じられません」

「ですが、遺書も見つかっており、そこにはいじめを苦にした自殺であるとわかる内容があったんですよねぇ。ここから先は先生方を信じて質問するのですが」

「はい」

「この状況、自殺でないとすれば。仮定の話にはなるんですがね、もしこれが自殺じゃなかったら考えられるのは一つだけなんですよ。それは、自殺に見せかけた他殺という可能性です」

 大石は唾を飲み込まずにはいられなかった。

「もし、この事件が他殺なのだとしたら。誰が犯人だと思います」

 この刑事、ズバッと聞いてくるな。

「それは、つまり、志茂君が誰に恨まれていたかということですか」

「まあつまりそういうことですね」

「お恥ずかしながらあまり完全には把握できていない部分もあります。しかし、考えられるのは、まず、志茂君をいじめていた生徒です」

「いえ、それはあり得ません」

「え?」

「いじめている生徒はいじめることを楽しんでいるのであって、恨みがあって危害を加えているわけではありません」

「なるほど。となると、私にはわかりません」

 下手に答えようとするのもリスクがあるのでここは答えないでいく、と大石は決める。

「わかりました。では、こちらで絞り込んだ可能性をお伝えするのでそれに該当する人物を教えてください」

 人物、という言い方が大石の耳に引っかかった。

「体つきは割としっかりしており、背も高い、あるいは大人」

「それは、どうしてですか」

「首を絞めるっていうのは結構力がいりますからね。また、睡眠薬を購入する際に子供に購入することは難しいでしょう? だから、大人のふりができる子供、又は大人、となるので、背が高い生徒か大人かという条件に絞りました」

「あ、ああ」

 まさか、バレている? いやそんなはずは。しかし。大石の額を汗が一、二滴流れ、眉毛に落ちた。

「該当する生徒または、教員はいますか」

 今の条件で言えば、この学校に容疑者は数百人といるだろう。しかし、大石は緊張してしまってすぐに返事ができなかった。

「大石先生」

 布留川刑事に言われやっと我に帰った大石は

「わかりません」

 と答えた。

「わかりました。ご協力ありがとうございました」

 そこで事情聴取は終わり、大石は面談室を出た。


 バレてはいないはず。バレてはいないはず。でも、まさか、そんなわけがない。バレてはいないさ、バレては。



 それから数日経って、浜辺の様子が落ち着かない原因を知った。あのストラップだった。あの、浜辺から貰ったストラップがないのだ。そして、そのストラップをどこで無くしたか、大石には見当がついた。あの体育倉庫だ。あの日、睡眠薬を入れるお茶を手に入れるため、学校の行きにコンビニでペットボトルのお茶を購入した。その時に、普段の癖でついエコバッグを持っていってしまったのだ。そして、そのエコバッグには浜辺から貰ったストラップがついている。多分、志茂を自殺に見せかけるために工作をしていた際に、何かの弾みでストラップが取れてしまったのだろう。そして、翌日、野次馬精神で体育倉庫に行った浜辺は、見つけたのだろう、そのストラップを。つまり、今、浜辺はそのストラップを送った相手...坂田征四郎が志茂を自殺に見せかけて殺した犯人だと思っている。それで、あのように落ち着かなかったのだ。

 しかし、浜辺が坂田を疑ってくれることは大石にとっては寧ろ好都合だった。浜辺がこのことを警察に話せば、坂田が容疑者になる。しかし、坂田は犯人ではないのだから、確実に何かしらのアリバイが成立するだろう。そうすれば、この事件は迷宮入りする。大石は完全犯罪とはこのようにして完成するのだと、自分に惚れた。


10


「暫くそこで、待ってろ」

 大石は取調室の椅子に座らされた。この前事情聴取にて出会った刑事のうちの...飯田という名前であったか、飯田刑事は強い口調でそう言うと、がちゃんと扉を閉めて、どこかに行ってしまった。大石は取調室に一人になった。

 今、大石が取調室にいるのは他でもない、志茂殺害の容疑者として捕まったからである。

 しかし、なぜだ。大石は自分の記憶を辿る。警察はどこから、大石が犯人だと気がついたのだ? 何か証拠を残したか? あのストラップが、まさか? いや、そんなわけはない。では、何故だ。いや、もしかしたら、警察が片っ端から学校関係者を当たっていった結果、大石が犯人であるという証拠が見つかったのかもしれない。しかし、なぜ、あれが自殺でないと気付いたのだ。確かに、志茂の同級生が気付くなら分かる。志茂が自殺するような性格ではないということを知っているからだ。しかし、警察なら違うだろう。大石はそこを考慮した上で、志茂を殺すことに踏み切ったのだ。警察がまさか、生徒の志茂君は自殺などしません、という発言を信じたのか。いや、そんな訳がない。もしかしたら、先生がそのようなことを言ったのかもしれない。しかし、そんな証拠どこにもないではないか。

 そう考えるうちに、飯田刑事がいくつかの書類を抱えて戻ってきた。

「では、取調べといこうか」

 がちゃんと扉を閉めると、大石と対面の席に座って、飯田刑事は言った。大石の見たことある刑事ドラマの取調べと対して様子は変わらなかたった。

「まず、お前は志茂郷君を自殺に見せかけて殺したことを認めないのだな」

「当然です」

「ふん。お前がやったという証拠は上がっているんだぞ」

「証拠?どんな証拠ですか?」

 大石は冷静であると見せるために、挑発的に言った。

「犯行時刻お前はアリバイがない。当時学校にいた教師、生徒共に全員アリバイが成立している。お前は、外部犯の可能性を反論として述べるかもしれないが、外部犯は防犯カメラがない体育倉庫の裏口を知っている訳がないだろう?」

「そんな反論しませんよ」

「ふん」

「それだけで犯人扱いするんですか。志茂君は自殺したんです」

 そう、志茂はうまい具合に殺した。自殺に見せかけて、うまい具合に。

「あの氷の話か。まあ確かによくできたトリックだ。だが、欠陥がある」

「え」

「氷を絞首台にした際志茂君だけじゃ自殺は成し遂げられないんだよ」

 大石は首を傾げた。言っている意味がわからない。飯田刑事はそんな様子を楽しんでいるのかにやにやとしている。

「つまり、なぜ志茂君は絞首台から滑り落ちなかったのかという問題がある」

「それは、ああ」

 大石はやっと飯田刑事の言いたいことがわかった。

「志茂君と身長や体重が近いうちの刑事を使って氷の絞首台に立つことができるのか実験したんですがね、そうしたら、驚くほど立つことができない。両足が氷の上に乗った瞬間すってんころりん。つまり、この実験からわかることは何か。言うまでもないでしょう。志茂君があの氷の絞首台の上に立つには誰かが彼の体を支えてやらなければならなかった。つまり、彼は自殺をしていないと言える」

 大石は何も言い返せなかった。ああ、本当だ。自分が完璧だと思っていた偽装自殺は完璧ではなかった。

 いや、待て、そうだ、まだ切り返す手立ては残っている。大石は動揺を隠すために強い口調で刑事に言い返す。

「志茂君が誰かに自殺を手伝ってもらったのかもしれない。自分一人で死ぬのが怖かった、とか。ほら、遺書も見たでしょう」

「お前はまだそんなこと言っているのか」

 飯田刑事はなかなか折れない。大石は今が攻めの好機だと捉えて切り札をぶつけた。

「志茂君の家を家宅捜査して下さい。是非、志茂君のパソコンの中身を確認してください。そうすれば、分かるはずです。彼はいじめられています。彼は『サンシャイン同盟』といういじめられている生徒が属しているサーバーにいて...」

 そこまで言うと、飯田刑事は突然、何の前触れもなく笑い出した。大石は不気味に思いつつ、飯田刑事の次の言葉を待つ。

「なるほど、お前はそれも知っているのか。教師の情報網とは恐ろしい物だな。安心しろ警察はもうすでに家宅捜査をしているよ」

「じゃあ...」

「志茂郷君のパソコンも確認した」

「なら、なぜ」

 訳が分からなくなり、大石はキレ気味に尋ねた。すると、飯田刑事はにやりとして言った。

「そもそも志茂君はいじめられてなどいなかったんだよ」

 

 そこから先の取調べの内容は一切覚えていない。兎に角、無になって、ひたすら頷いていたと思う。意味がわからない。志茂はいじめられていなかっただと? じゃあ、あの『サンシャイン同盟』は何なんだ。意味がわからない。あれは、全部嘘だったのか。しかし、現に浜辺はいじめられている。じゃあ、どういう...。


11

 

 大石宗介は自分のことを良い教師だと考え、その考えに酔っていた。生徒思いで、常に親切で。生徒に注意をすることはよくあるものの、大声で怒鳴りつけることはない。休み時間には生徒と共にサッカーや野球をして遊んだりもした。

 そんな大石宗介の人生はもはや夕暮れだった。ただ、自分の人生を滅茶苦茶にしたものが何なのかは未だにわかっていない。裁判では、ひたすら、志茂がいじめられていなかったということを聞かされ、大石はそれに頷いた。だから、詳しい情報は知らない。何を根拠に警察が、志茂がいじめられていないと考えたのかも。告げられた時は、知りたかったが、今は興味がない。

 今、大石宗介は自分のことを良い教師だと考え、その考えに酔えていた、そんな楽しかった日々のことを無念に回想する日々を送っている。

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