第11話 隣国のふじん③
はぁはぁはぁはぁ
冗談じゃない
不細工だと目障りだと国境付近の館に追いやられたけど自分で出来る事はして、大人しく、迷惑もかけたことはない
なのに、あいつが隣国マルマを脅かしている
すぐに首を差し出すだなんて
とにかく逃げなきゃ
「姫!?姫様!?…姫様が居ませんっっ」
「なんだと!?すぐに探せっ」
逃げなきゃ
逃げなきゃ
森の中で館の使用人から盗んだ私服に着替える
身長は170cmと大きめ、身体も大きいので男性用
逃げるなら偽ろうと髪を帽子に詰め込み深く被った
きっと男性に見える
手には城から出る時になんとか持ってきた小刀のみ
森を伝って少しでも隣国マルマの方へ…
ガサリ
ザワザワ
森の奥なのに騒がしい音がする
もしかして方向を間違えて布陣している方へきたのか?
引き返そうとして服が枝にひっかかり、大きく樹木を揺らす
「誰だぁ!?」
髭面の大男に腕を捕まれ広場になっている所に引きずり出された
広場には柄の悪そうな男が5人
その向こうに男女何人かが入った檻状の引き車
しまった!野盗だ
檻の中の人たちが
「助けてください」
と叫ぶが男たちに脅されて黙ってしまう
「どれどれ?…ほう?兄ちゃんなかなかいい顔をしてるな。高く売れそうじゃねぇか」
帽子の下からニヤニヤと汚い顔に覗かれる
「触るな!」
隠し持っていた小刀で切りつけ髭の腰にある刀を抜き取る
これでも護身術は習ってある
死なば諸共。来い。
野盗なんぞは大したことないな
5人を斬り伏せ腰から檻の鍵を取り、開けに行く
「なんだこれは!?貴様の仕業か!?」
もう少しのところで仲間らしき野盗が現れた
10人はいる。
今度は勝てないかもしれない
本当に私は運がない
しかしただではやられないからな!!
ガァァァーン
お互いが構えたところで銃声が響き渡った
見ると木々の間に軍兵がいる
「動くな。我々はマルマ国の斬刃隊である」
マルマ国の軍兵!?
マズイ…
どうやって誤魔化そうか思案しているうちに
野盗は軍兵に斬りかかって斬り伏せられていく
一人立ち尽くしていると声をかけられた
「こちらは、あなたが?」
フードに目と口元のマスクという怪しい出で立ちの
大きな男が意外と紳士的に尋ねてくる
答える前に檻の中から
「その人が助けてくれたんだ」
と声がする
「あなたは一体…?ここで何を?」
今私が☓☓の王女だなどとばれるわけにはいかないっ
「記憶がなく、森を彷徨っていました」
嘘をついた
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紫月はオタクすぎて主要敵国の大大将の影武者が影武者何号かまでわかる程に人を判別できる能力を有している
別に仕事のためでなくオタクすぎて
この公用語の訛は☓☓国の王族貴族だ
しかしこの体型と動きの男性には会った事が無い
大体は各パーティーや会議で見ているはずだ
…では、これは何だ
体躯はしっかりしていて眼光鋭く、美しい獅子の様な顔つき…
怪しいな…監視しながら連れ帰ってみるか
「それは大変でしたね。ぜひ我が家でしばらくご静養ください」
そう言って有無を言わさずに連れ帰ってきた
「森にいらっしゃったからでしょう随分と汚れていらっしゃる 返り血もついている様ですし、危険物の持ち込みなどの検査もさせていただきたいので一度湯浴みをされてからお話をいたしましょうか」
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困った
湯浴みをと言われて連れてこられた浴室には
当たり前ではあるが男性が監視に立っている
仕方ない…
「あの…女性をつけていただけないだろうか」
「女性…?」
「私は女なんだ。なんなら調べてもらっても良いが」
なんとか衝立を置いて、周りを男性に囲まれながらではあるが、女性から確認をうける
「…女性です」
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「紫月さま」
こちらも湯を浴びて着替えていると家令がやってくる
「お連れになってこられた方…女性でした。」
「女性…?」
いくらなんでも貴人が行方不明になればなんらかの動きがあるだろうと道中調べさせたが何もなく、
見覚えもないと思っていたが…
女か…
あの体型。あの顔つきで女か…
なるほど
「不細工姫か…」
ニヤリと笑顔になった
「湯浴みの後マッサージ等施して時間を稼げ
既製品でいい、あの人に合う上質なドレスを用意して、きっちり整えてからこちらへお連れしろ」
これは面白い
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あぁ…やっぱりこうなるのか
美しいドレスを前に憂鬱になる
王貴女にあるまじき
身長 肩幅 釣り上がった三白眼 硬く広がった赤茶色の髪
侍女を付けて着せて貰う間も憂鬱で仕方ない
髪を美しく切りオイルで丁寧に仕上げてもらって少し落ち着いたのは有難い
しかし出来上がったのは女装した騎士かと思うごつい女…
致し方なく、促されるままに部屋を移動する
豪華な扉を開けると明るい髪色に明るい目色、少しだけ下がった目尻が優雅な笑顔をたたえた実に貴族らしい美しい男がいた
「お疲れのところご足労をいただいて申し訳ありません
改めまして私はマルマ国斬刃隊長 オルサヤを務めます 城門前 紫月 と申します」
オルサヤ!?この若い、いかにも貴族然としたこの男が!?
「では、あらためてお聞きします」
「はい」
「何故あの様な場所にいらっしゃったのですか?
ルクレツィア姫」
「!!!??」
びっくりして固まるルクレツィアに、紫月は更に笑みを深めて
「…記憶も戻られたようで、安心しました」
と投げかけた
バレた!!
バレていた!!
布陣をしいたと思われているだろうか!?
送り返されたら首もとられるだろう
しかし逃げる事もできない
仕方なく8歳までいた城で習ったマナーを思い出しぎこちないお辞儀をする
「だ、騙していたことは済まなかったと思う…ただ…その…」
教育を受けたのは8歳までなのだ。
交渉も何もわからない
絶体絶命だ
「迷われたんですね?ルクレツィア?」
紫月が優しく問いかける
意図がわからず答えずにいると、もう一度念を押すように
「迷われたんですよね?ルクレツィア?」
と言われ頷いた
「では、このままここに居てください
何処かへ行ってしまっては助けてあげられない
☓☓は今現在もあなたが陣頭指揮をとりわがままに暴れているんだ。国家は関係していないと主張している」
「そんな事はっ」
「そう、そんな事は無いんだ だって、あなたはここにいるのだから」
変わらず紫月の笑みは美しい
ただ怖い
「ねえ、ルクレツィア。今の力関係ならうちが☓☓に負ける事はありえないんだ。
…助けたい親族は居るかな?」
笑顔の中からゾクリとする視線で見つめられる
家族の顔を思い浮かべる
父、母、兄が2人、父方の祖母
全員から不細工だと蔑まれた過去を思い出し
思わず涙がこぼれた
「わかった。いないみたいだね」
頷く事もできない
「ねぇ、ルクレツィア。この戦が終わったら私の所へお嫁にきてくれないかな?」
きっとそれは☓☓支配の為の降嫁
でも…
「はい」
「じゃあここで待っていてね」
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それから数日は慌ただしく過ぎた
軍兵の再編成がなされ、出陣準備が整っていく
市井では戦中対応が開始され学校は休みになっている
紫月も屋敷になかなか帰れないが、教育を受けて頑張っているルクレツィアの報告が毎日上がるため
ルクレツィアの様子は把握できている
今日はマナーについて覚える為の擬似的なお茶会を主催したらしく
可愛らしいドレスに照れた顔の写真がついている
思わず顔がにやける
「一生懸命で可愛らしい人だなぁ」
確かにこちら基準では
小さくて細い
丸くて大きな瞳や、たおやかに細く瞳は大きな目
が美しいのかもしれないけれど
市民なら十分に美しい…いわばエキゾチック美人だと思う
王女なのに純粋で一生懸命な様も可愛らしいじゃないか
身長も肩幅も俺に比べたら華奢なもんだ
「悪くないな…」
よし、うまくやってやろうか
隣国の美しい婦人を娶る自分を想像すると
やる気もみなぎる
いよいよ出陣である
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