クリームソーダ

 夏の激しい日差しから逃れるように、和風のカフェに寄った。

 補習の帰り、夏服姿の私は同じく白シャツに袖を通した男子と向き合う。私たちはメニューを適当に見てから、クリームソーダを揃って注文した。

 ほどなくしてグラスが届く。キンキンに冷えた氷が溜まり、薄く曇ったガラスには水滴がついている。内側にはエメラルドみたいに鮮やかな翠色で、炭酸がしゅわしゅわと沸き立っている。爽やかで甘い香りがする液体に蓋をするように、バニラアイスが浮かんでいた。

 小さめのスプーンですくって食べる。クリームのまろやかな味わいに刺激的な炭酸が合わさり、絶妙なハーモニー。

「メロンって言いつつ、全然メロンじゃないんだよな。ザ・人工甘味料だし」

「もう水を差すようなこと言わないでよ」

 口では冷静なことを言いつつ、彼も夢中になってストローをすすっていた。

「こういうのを現代的で、モダンな食べ物っていうのよ」

「現代的っていうけど、和風のイメージもあるのは気のせいか?」

「知らないわよ。でもかき氷を連想しないこともない」

「は? なんで?」

 少年は理解できないというように、顔をしかめた。

「屋台で買うのを想像してみなさいよ。すりおろした氷をドーム状にしたところに、メロン色のシロップをかけるの。ねえ、実質同じじゃない?」

「同じじゃねぇよ。目ぇ、どうなってんだ?」

 度肝を抜かれたように目を剥く。

 おかしいな。そんなにおかしなこと言ったっけ?

「純喫茶に売ってるのがなによりの証拠でしょ」

「まあ、茶屋に売ってそうなイメージはあるな」


 私たちは話しながら翠色のジュースを飲み進めていく。

 そんなこんなで喫茶店のクリームソーダ、完食しちゃった。

 あんなに容量があったのに、今はすっからかん。

 ほんの少しだけ寂しくなる。


「こんなに美味しいのに、一年に一度しか食べるタイミングがないなんて、どうかしてる」

 ダークブラウンの席で、ぼやく。

 隣には同級生の少年の姿があった。

「バカヤロー、限られた期間にしか食べられないからこそ、尊いんだろうが」

 尊いなんて、どこで覚えた単語なんだろう。

 ふてくされたようにグラスに残った氷をがらんとかき混ぜる。

「だからさ、来年もここに来よう」

 ハッキリとした口調で彼は言った。

 私は表情を固め、まじまじとそちらを見る。

「約束だよ」

 二人で視線を交わす。

 ふんわりと花のような香りが漂った気配がした。



 懐かしい、子ども時代の思い出。

 今じゃすっかりカフェも潰れ、街は様変わりした。私たちの思い出の場所はどこにも残っちゃいない。

 だけど、夏が来ると思い出す。クリームソーダの爽やかな香りと、甘くて爽快な味わいを。

 翠と白の配色を見るだけでまだ、無邪気だったころに戻れるような気がした。

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