一期一会

 一年に一度、下手すりゃ一生に一度。

 食べられるか食べられないかという、味がある。


 例えばギフトで届く茶菓子だ。

 本来は仏様用で私に送られたものではない。

 期日が過ぎてようやくおこぼれに預かれる品物だ。


 暑い夏も盛りになり、先祖が家に帰って来る時期に差し掛かる。

 親戚が多く家を尋ね、奥のほうへと足を運んだ。


 線香のくすぶったような芳しい匂いと共に、仏壇に茶菓子が供える。

 厚くつやのあるパッケージ。

 こっそりと箱を開くと華やかな色合いの宝石たちが、ズラッと並ぶ。

 細やかに練り上げられたデザインはお菓子というより、芸術作品に近かった。

 ほのかに甘い香りが伝わる。

 透明な薄い包装に隔てられた壁が、若干悔しかった。


 一週間が経ち、夕暮れ時は涼しさを感じる時期となる。

 私はこっそりと仏壇の間に潜入して、箱を開いた。

 伝統色に彩られた縁から一つ取り出して、部屋にこもる。


 皿に盛り付け、飾ってみた。

 つるんとした紅の陶器にはよく映える、雪の色。

 さながら白い椿のように映る。

 花の形に彩られているため、見るからに華やかだった。


 厨房からコーヒーを注ぎ、もってきた。

 白い容器の内側には暗褐色の液体が溜まり、熱々の湯気が立ち上る。

 香ばしい香りが今か今かと主張し、時を待っていた。

 言われずとも、準備は万端。


 ひとまず端から手をつける。

 和菓子に箸を突っ込んで、数ミリずつ削った。

 形を崩さないように、飾りを残るように、慎重に。


 中には餡が入っている。

 濃厚な甘みをほろ苦い液体で流し込むと、さっぱりとした後味が残った。


 夢中になって食べ進める。いつの間にか皿が空になっていた。


 私はふと仏壇へと視線を向ける。

 箱にはまだ食べたいものが、残っている。

 紅梅色、雪白、梔子色。

 多彩なお菓子が奇跡の一切れのように収まっていた。


 来年、同じものが届く保証はない。

 お盆に届く中元は決まって、バラバラだ。


 ティータイムを満喫して安らぎに浸りながら、ほんの少しの感傷を抱く。

 どれほど細かく、じっくりと味わっても、いつかは手元から消えてしまうもの。

 先ほどの茶菓子の味すら、スッと軽くなる。まるで淡く消える雪のように。


 だからこそ、次の邂逅を楽しみに待つ。

 同じ味と再会できる保証はないけれど、いつの日か、また。

 秋を迎え新たな夏を心待ちにする時間は、いもしない恋人を探すのと、少し似ている。

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