第31話 結果
陽菜と波留が仲直りをしてから数日が経った。
「陽菜、ついにテスト返却だね」
「はい。今回は自信があるんですよ」
以前のように、波留が陽菜の席までやってきて楽しそうに会話をしている。
二人の様子を見ていると、本当にわだかまりが解けた事がわかる。
「結斗君はテスト自信ある?」
波留は、よくこうやって近くにいる俺にも話かけてくれる。
「いやー、いつもよりは良い点数な気がするけど、多分大したことはないよ」
きっと、一人で教室にいる俺に気を使ってくれているんだろう。
「そっか。私も全教科平均以上取れてたら良いって感じかな」
ここでチャイムが鳴り、担任と各教科の先生数人が教室に入ってくる。
「はーい。席に着いてください。これから全てのテストの返却を行っていきます」
今日の午前中で各教科の先生が教室を順番に回ってぞれぞれのテストが返却される。
最後に総合順位の書かれた成績表を受け取って、今日の学校は終了だ。
俺はいつも通り特に緊張すること無く身構えているが、隣に座る陽菜の様子を伺うと珍しく緊張しているのか表情が硬い。
「笠井君……少し緊張します」
「今更緊張しても結果は変わらないぞ」
「そうですね……でも、どうしても一番になりたいので」
「……そうか」
いよいよ始まるテスト返却を、陽菜は固唾をのんで見守っているようだった。
▽▼▽▼
「笠井君、どうでした?」
「ああ。いつもよりは良い点数だったよ。多分、学年順位も前回より上がっていると思う」
「そうですか。私は想像通り満点が幾つかあって良い手応えです」
「そっか。後は順位だけだな」
今、担任が順番に順位が記されている成績表を返却している最中である。
その結果にクラス中が、盛り上がりを見せて教室は騒がしい。
「笠井」
「はい」
俺の名前が呼ばれ、小さな紙に印字されている成績表を受け取る。
前回の中間テストでの俺の順位は89位。
今回は……42位。
正直、かなり驚いた。
今回の期末テストは中間テストよりも、科目数も範囲も多い。
美玖と早朝の自習室で勉強をしたり自宅で陽菜との勉強の時間が、はっりと結果に表れているのか。
驚きと一握りの喜びを噛みしめていたが、全員の順位表を返却されて教室がより騒がしくなった事で我に返った。
「え?北野さん、3位なの?」
「いつも1位なのに珍しい」
いつも学年1位の美玖の成績が今回3位だったらしく、クラスメイトの注目を集めている。
「北野さん、今回はどうしたの?体調でも悪かったの?」
美玖はクラスメイトに囲まれて色々と質問を受けている。
「別に、いつも通りだったよ。今回は私よりも頑張った人たちがいただけ……だよ」
さすがに美玖もショックだったのか、遠目からだが表情が暗いように感じる。
しかし、強敵だった美玖が3位だったとすると、今回の1位は……。
「もしかして。ひ、西条さんの順位って……?」
俺は隣にいる陽菜に話しかけたが、返事は返ってこない。
彼女の表情をよく見ると目を少し見開いて自分の成績表を眺めているが、その紙を力一杯握りしめてシワシワになっている。
その様子から、自分の順位に喜びを感じていないことが伺えた。
「なんで……誰だよ……1位って……」
陽菜が小さく呟いた声が俺には聞こえた。
シワシワになった彼女の成績表から少し見えたのは、2位と印字された文字だった。
▽▼▽▼
「陽菜、大丈夫?」
「あ、はい。波留さん、大丈夫ですよ」
放課後になり、美玖同様さっきまでクラスメイト達に囲まれていた陽菜は疲労困憊の様子だ。
しかし、それよりも成績表の結果を知って精神的に参っているようにも見える。
「おい、結斗」
教室で珍しく声を掛けてきたのは、クラスメイトの壮太だった。
「どうした?壮太?」
「今から時間あるか?姉貴がお前を呼んでるんだけど」
「沙智が?わかった。生徒会室か?」
「ああ」
「待ってください!」
俺は鞄を持って壮太と教室を後にしようとしたのだが、突然陽菜に呼び止められ足を止めた。
「なんだ?ひ、西条さん」
「私も同行します」
「え?なんで?」
「なんとなくです。波留さんも行きますよね」
「う、うん。私も行こうかな」
「ちょっと待て。俺が呼んだのは結斗だけだ。なんでお前らまでついてくるんだよ?」
この状況が気に入らなかったのか、壮太が怪訝な表情で陽菜たちに問いかける。
「なんですか、東出君?私たちが同行することが気に入らないのですか?」
「別に、そんことはないが……」
陽菜は西条モードの口調ではあるが、眼光鋭く壮太を睨みつけている。
「わかったよ。勝手にしろよ」
やはり壮太は陽菜に対して、かなりの苦手意識を持っているようだ。
「じゃあ、行こうか」
ギクシャクした雰囲気の中、俺たち四人は沙智の待つ生徒会室へ向かった。
▽▼▽▼
「姉貴、結斗を連れてきたぞ」
「ああ、ご苦労」
俺たちが生徒会室へ入ると椅子に座っている沙智と、その隣には美玖の姿もあった。
「美玖も呼ばれていたのか?」
「あ、結ちゃん。私は少し沙智ちゃんに聞きたい事があったから、ここを訪ねただけなんだ」
美玖が沙智に聞きたい事って、いったい何なんだろうか?
「結斗、突然呼んで申し訳ない。ところで、なぜ西条と南田も一緒にいるんだ?」
「お前が結斗に余計な事をしないか見張りに来たんだよ」
この場に俺たちしかいないのをいいことに優等生の仮面を捨てた陽菜は、すっかり通常運転である。
「まあいい。結斗、生徒会勧誘の返事を聞かせてくれるか?」
明日の終業式で一学期は終了する。
それまでに返事が欲しいという沙智の言葉を思い出した。
「ごめん沙智。俺は、やっぱり生徒会には入らないよ」
「どうしても……か?」
「ああ。特に生徒会に入りたいという意欲はない」
「そうか……わかった。しつこくてすまなかったな」
俺の予想に反して、沙智はあっさりと引き下がった。
そんな彼女の表情が、少し寂しそうにも見える。
「あー、生徒会には入らないけど何か手伝えることがあれば言ってくれ」
「いいのか?……結斗?」
「俺に出来る事なら、だけど」
「ありがとう、結斗。その時は頼らせてもらおう」
なぜだかわからないが沙智が困っているところを想像すると、何とかしてやりたい気持ちにさせられる。
「要件はそれだけか?」
「……そうだな」
「それじゃあ、俺たちは帰るよ」
「結斗!」
生徒会室の出ようと歩き出した俺を沙智の大きな声に呼び止められた。
「どうだ?凄いだろう?」
「げっ!?」
沙智の言葉に一番に反応したのは陽菜だった。
何事かと振り返ると沙智は俺に向かって、今日返却された成績表を掲げている。
「沙智が、1位だったのか」
その順位表をよく見ると1位の文字が刻まれている。
「沙智って……いつもは何位ぐらいなんだ?」
「前回の中間テストは5位だったな。生徒会が忙しくて、いつもこんな点数を取ることはできないが……今回は頑張ってな」
俺は沙智のその結果を目の当たりにして、感動に近いような気持ちに包まれた。
「そうか。凄いぞ、沙智」
俺は沙智に歩み寄り、その頭を無意識に撫でていた。
数秒間そうしていると陽菜と波留、そして美玖の冷たい視線が送られていることに気が付いて我に返った。
「あ!ごめん、沙智。こんな事されてびっくりしたよな」
「いや。どんな時でも人に褒められるのは嬉しいものだ」
なんで、俺……沙智の頭を撫でたりしたんだ?
「……痛って!?」
少し考えこんでいると、久しぶりに陽菜の蹴りが俺の尻に命中する。
「急に何するんだ!陽菜!?」
「うるせぇ!デレデレしやがって」
沙智がテスト順位1位だった苛立ちを俺にぶつけているのか?
「もう……結ちゃんは、前から沙智ちゃんに甘いよね」
美玖まで、なぜだか膨れっ面で俺を蔑むように見つめてくる。
波留は…………。
「………………」
俺と目さえ合わせてくれない。
俺の浅はかな行動のせいかのか、異様な空気に包まれる生徒会室だった。
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