第24話 プレゼント

「美味かったなぁ。ジャンキーな食べ物も良いけど、たまには和食もあっさりしてて良いよな」

「ご飯のおかわり自由だからって、よく三杯も食べれるな」


 お昼時だったので、ショッピングモールの中にあるチェーン店の和食屋で俺たちは食事を済ませた。


「なあ、陽菜。なんで今日先に帰ったんだよ。行き先同じなんだら一緒に来れば良かったじゃないか」

「わかってねぇな、結斗。女には色々と準備があるんだよ。それにデートなんだから現地で待ち合わせした方が、それらしくなるだろう?」

「そういうものか……っていうか、これってデートなのか?兄妹でプレゼント選ぶだけだろう」

「デートだ!これからも私と二人で出掛ける時は、ずっとデートなんだからな!」


 陽菜は強い口調でそう言うので、波風立てないように俺は反論しないことにした。


「前から思ってたんだけど、俺と外出して大丈夫か?それに優等生も取り繕わないで……もし、学校の誰かに見られたら」

「大丈夫だぞ。私と結斗が仲が良いのはクラスメイトは知っているし見られても適当に誤魔化せる。優等生の方は……正直バレたらバレたらで別にいいかな」

「え?そ、そうなのか……せっかく学校で良いポジションにいるのに……」

「そんなことは、ぶっちゃけどうでもいいよ。私は結斗と波留……本当の友達に自分の事をわかってもらえていたら、それでいいんだ」


 俺は陽菜と一緒に生活をする中で、彼女がなぜ学校で優等生を演じているのか少しわかったような気がしていた。


「あ、結斗。ゲーセンあるぞ。行こうぜ!」

「ちょっと。夕子さんのプレゼントはどうするんだよ?」

「時間沢山あるんだから、後でいいだろう」

「おい!待てよ陽菜!」


 ▼▽▼▽


「クレーンゲーム上手いな、結斗は。このぬいぐるみ一目見た時から欲しかったんだ。取ってくれてサンキュー!」

「本当にそれで良かったのか?隣にあった可愛いイルカの方が人気ありそうだけど……」

「何言ってんだよ?このサメも凄く可愛いじゃねーか!」


 陽菜は大きなサメのぬいぐるみを笑顔で抱きしめている。

 昔……似たようなことがあった気がする。

 陽菜じゃなくて……確か……美玖にも……同じように。


「そんなにサメが好きだったとはな」

「だって、結斗言っただろう?前にデートした時に私のことサメだって。それからなんか愛着湧いてさ」

「いや、あれは陽菜のことを悪く言ったんだけどな……」


 それからモール内を歩いて、色々なお店を回り夕子さんへのプレゼントについて思案した。


「結斗、やっぱり母さんは日頃から使うもの渡した方が喜ぶと思うぞ」

「そうか、じゃあ……この少し良い値段のハンドクリームとか良いんじゃないか?」

「そうだな、母さん、手が荒れるってよく言ってるしな。私は、化粧水と乳液セットってやつにするか」


 それぞれ購入した商品をプレゼント用にラッピングしてもらい、俺たちはお店を後にした。


「よし、目的は達したし少し早いけど帰るか」

「は?なんで、もう帰るんだよ?せっかく来たのに!」

「洗濯物もあるし、今日は父さんと夕子さんも遅いから帰って夕食も自分で用意しないといけないだろう?」

「あ……うん。そうだな」


 落ち込んでいるのか、露骨に暗くなる陽菜を見て俺は少し胸が苦しい気持ちになった。


「あー、まあ……でも、少し昼ご飯食べすぎたよな。夕食はいつもより遅くてもいいか?」

「え?う、うん!全然いいぞ!」


 テストも終わって久しぶりに羽目を外して楽んでているのに、もう帰るなんて言ってほしくなかったんだろう。


「じゃあ、本屋にでも行くか?」

「うん!行こう!」


 陽菜の暗い顔は見たくなかった。

 でも、それ以上に俺はもう少し陽菜と二人きりで遊んでいたかったのかもしれない。

 

「ファッション雑誌読みたかったんだ!」

「わかったから、手を引っ張るなよ」


 そんな楽しそうにはしゃぐ陽菜の姿を見て、俺自身も楽しんでいることに気が付いた。


 ▽▼▽▼


 午後6時前。

 俺たちは下らない会話をしながら色々な店を回って時間が過ぎていった。


「陽菜、何見てるんだ?真剣な顔で」

「んー、好きなアニメのキャラクターストラップ売ってるんだけど……」

「最近のストラップって800円もするのか!?店によってはラーメン食べれる値段だな」

「結斗、さすがにそろそろ帰ろうか。夕食も作らないとだしな」

「え?これ、買わなくていいのか?高いけど買えない値段でもないだろう?」

「最近、ネット通販で化粧品セット買っただろう?それで小遣いピンチなんだ」

「そうか。もしかして、今日している化粧って……」

「そうだぞ、結構良いお化粧品なんだ。結斗、私の化粧姿見た時見惚れてただろう?このスケベ」

「み、見惚れてないわ!スケベでもない!」


 実際見惚れてしまっていたがニヤニヤと笑う陽菜を見て、つい意地を張ってしまった。


「結斗、ちょっとトイレ行ってくる。ユイトザメ持ってて」

「なんで、このぬいぐるみに俺の名前が付いてるんだ!?」


 陽菜がトイレに向かった後、俺は彼女が見ていたストラップを眺める。


「陽菜、欲しそうにしてたな」


 俺は、そのストラップを持ってレジへと向かった。


 


 陽菜が戻ってくるまで近くのベンチに腰を下ろして待つ。


「遅いな……陽菜」

「さっき一緒にいたのは、やはり西条だったか?」


 ベンチの後方で聞き覚えがある声がして、振り返った。


「沙智!?ビックリした」

「やあ、結斗。西条とデートか?」

「いや、そんなんじゃないよ。沙智こそ、何やってるんだ?制服ってことは学校帰りか?」

「ああ。生徒会で部活関連の話し合いがあってな。こんな時間になったというわけだ」


 そう言いながら、沙智は俺の隣に腰かける。


「大変だな、生徒会は」

「生徒会室に必要な備品を購入しようと、ここへ来たのだが……そこで結斗を見かけてな」

「そうか」

「それと、生徒会の勧誘の件だが……1学期終了までに返事をくれると助かる」

「あ、ああ。あまり期待はしないでくれよ」


 突然、沙智は俺の頬に手を添えて優しい瞳で見つめてくる。


「さ、沙智?」

「結斗。美玖から少し話を聞いた。記憶が……精神的に疲れていたんだな。大丈夫か?」


 彼女のその言葉と表情に本気で俺のことを心配してくれているのが伝わってくる。


「ああ。大丈夫だよ」

「なにか学校で不自由があれば、いつでも言ってくれ」

「沙智……ありがとな」


 沙智の優しさと心強い性格に、懐かしい気持ちと大きな違和感を感じて仕方なかった。


「結斗!」


 トイレから帰ってきた陽菜が大きな声を上げてこちらを睨んでいる。

 その姿を見て、なぜか俺の体から冷や汗が噴き出していた。


 ▼▽▼▽


「ひ、東出……なんでこんなところに」

「少し用事でな。偶然、結斗を見かけて声を掛けたんだ」


 私がトイレから帰ってくると結斗の隣には、この女が……しかも結斗の顔に触れやがって。


「結斗から離れろよ!」

「これは失敬。昔のように距離が近かったようだ」


 なにが距離が近いだ!私と結斗の方が親密な距離に決まってる。


「では、これで私は失礼するよ。結斗、またな」

「あ、うん。また学校で」


 東出は、いつものように余裕だっぷりの態度で去っていった。


「陽菜、遅かったな。大きいほうか?」

「ち、違うわ!レディーに何聞いてんだ!ちょっと化粧直ししてたんだ!」

「そ、そんなに怒るなよ」


 くそっ。あの女と二人きりで話なんかしやがって……今は私とデート中なのに。


「これから、帰るだけなのに化粧直しなんかするものなのか?」

「う、うるせぇ!さっさと帰るぞ!」


 少しでも結斗の気を引きたくて頑張ってるのに……なんだよ、私の気なんて知らずに。

 デリカシーの無いことまで言う始末だし。


「な、なあ陽菜。機嫌直せって……」


 電車の中で話しかけてくる結斗の言葉を無視して、私は窓から見える沈んでいく夕日を眺めていた。


 電車を降りて、10分ほど歩けば自宅に辿り着く。

 私たち以外誰もいない夜に差し掛かった帰り道を歩く。


「陽菜……陽菜!」

「なんだよ!うるせぇな!」

「その……今日はありがとな。誘ってくれて」

「え!?う……うん」

「陽菜のおかげで良いプレゼント選べたよ。それに……今日は楽しかった」


 え……え!?楽しかった?私と出掛けた事が……!?


「これ、やるよ」


 結斗が差し出してきたのは、何かが入っている小さな紙袋だった。

 開けてみると、私が欲しかったストラップが入っていた。


「ゆ、結斗。買ってくれたのか!?」

「あ、うん。今日してる化粧道具を買って金欠だったんだろう?今日の陽菜、いつもより凄く綺麗だよ。だから……その、なんか買ってあげたくなって、だな」


 やばい……顔が、頬が緩んで仕方ない。


 私は、そんな自分の姿を悟られないように結斗の背中を強く叩いた。


「痛って!?何するんだよ!?」

「結斗、ありがとう。嬉しい」


 私は嫌がる結斗の腕を強引に自分の腕と組む。


 結斗の隣は誰にも渡さない。


 そう強く思いながら誰もいない帰り道を二人で歩いた。

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