第24話

店の引き戸を開けると、青竹の匂いが外まで流れ出てきた。

小物に鞄。手拭いに道着。そして防具に竹刀とあまり大きくない店に剣道用品がずらりと並んでいる。

「いらっしゃい」と店の奥、レジの方から声がした。

「とりあえずみてまわろうか」

朱利たちがわかれては品を見て手に取る。

「あの」と竹刀をみつめていた茅が志姫に声をかける「どれがいい、とかあるんですか?」

「そうだな。握ってしっくりくるのが一番いいかな。あと、あまり重すぎないヤツ」

茅がお試し用の竹刀を手に取り構えた。

その姿を志姫がじっとみつめる。

「構え、変ですか?」

「いいや、立派、立派。私が教えたとは思えないぐらい立派だよ」

志姫が呵々と笑う。

「――竹本先輩だったからここまで頑張れたんです」

頬を薄っすら赤くし、笑い声に隠すように小声で茅がそう呟く。

それから茅は志姫と駄弁りながらいくつかの竹刀を手に取った。

「私、この竹刀にします」

「舞姫か、いいね」

嬉しそうに茅が竹刀を抱いたタイミングで朱利たちが棚の向こうから顔をみせる。

「なにか気になるものあった?」

「あ、いえ。私たちも竹刀を選ぼうかなって」

ね。と朱利が黒の方を見る。

ずらりと竹刀だけが壁一面に並べてある中で、朱利は迷うことなく一本の竹刀へと向かった。

「最初から決めてたの?」

「ううん、そうじゃないんだけど。いいな、て」

朱利は手にした『烈』に見惚れながら黒に言った。

「これにしよう」と決めた朱利から竹刀へと黒が視線を向ける。

「竹本先輩」黒が志姫を呼ぶ「この中で小判型、てどれですか?」

「――小判型?」

小さく呟く朱利の隣で茅が首を傾げた。

「小判型か。調べてきたのか?」

「はい。ただ、改めて実物を見ると、どれだかわからなくて」

志姫が竹刀を指で追って止める。

「あそこだね」

「ありがとうございます」

黒がそう言って小判型の竹刀の中から一振り手に取り構える。

「――うん、これにしよう」

「あの」と黒が『極』を構えているのを横目に朱利が聞く「小判型、てなんですか?」

聞かれた志姫は朱利の『烈』と黒の『極』と同じものを手に取り、竹刀の底をみせた。

「普通の竹刀は木刀や刀と違い円状で、小判型は木刀や刀と同じ小判、楕円なんだ」

志姫が朱利に小判型を手渡す。

「あ、本当だ違う」

朱利が茅に渡す。

「あの、小判型も買った方がいいんですか?」

「いや、素振り用に木刀を買うから。自分の一振りがみつかってるなら、それでいい」

朱利と茅は抱えている竹刀をみた。

買うものを纏め。見た目若い男性の店長がいるレジへ向かう。

「品物は以上でよろしいでしょうか?」

「あと、道着と防具の注文をお願いします」

「畏まりました」と男がレジが置いてある台の引き出しから帳簿を取り出し、店の奥に声を送った。

奥から暖簾をくぐり朱利たちより一つ二つ年下で、はねっ毛のある女の子が姿を見せる。

「道着と防具の注文を受けたから、採寸をお願い」

女の子はこくりとうなずき「こちらへ――」とレジ横の板を上げた。

「どうしよう、最近太った気がするんだよね」

「どうせお菓子の食べ過ぎでしょ」

「筋肉がついたからその分重くなったんじゃない?私も体重増えたから」

三人のなんともない会話を聞いて、志姫は笑顔になった。

採寸を終え、会計も無事済ませ店の外に出ると照れる様子で志姫が言った。

「この後雅楽の演奏会があるんだけどどうかな。いや、そこは映画とかカラオケじゃないの?て門無と同じこと思ってるだろうけど、近くでやるみたいでさ。聞きに行きたいんだ」

「もちろん、ぜひ。朱利と黒は――」

「あー」と、朱利が気の抜けた声を上げる「私たち、これから用事なんだった―。竹本先輩、今日はありがとうございました」

朱利の一礼に合わせて黒も一礼し、帰り道を歩き出す。

「まったく、雑なんだから。でも――ありがとう」

呵々と志姫が笑う。

「それじゃ行こうか」

二人が歩き出したのを朱利と黒が遠くから見る。

「ごめんね。黒まで巻き込んで」

「ううん。私もこの子を振ってみたくて、どう断ろうか考えてたから」

黒が背負っている竹刀袋を見た。朱利も自分の竹刀袋をみた。

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