第22話
「さっきはごめんね」
掃除の準備に取り掛かりながら朱利が茅に言った。
「さっき、てなにが?」
「バイトの事、勝手に断っちゃったじゃん」
「うん、まあ」
茅は体操着をつまんで煽ぎながら、どこか上の空でそういった。
「どうかした?いつもなら『志姫さまのお誘いを断るなんて』て言うのに」
「うん、確かにそうなんだけどさ」
茅に声をかけようと息を吸った朱利の足元を、バケツから溢れた水が濡らす。
「あばばば!」
「なにやってんの」
その場で足を交互に上げては下ろしてる朱利に代わって茅が蛇口を捻る。
「ごめん、ありがとう」
「まったく」と、茅がバケツの水を少し減らす「行こ、志姫さまが待ってる」
茅は太ももをさすりながらバケツを持ち上げた。
「お、きたきた」
雑巾の束を持っていた志姫が腰を下ろす。
「さっきのバイトの事なんだけどさ、黒と話して夏休み中の宿題にでもしようかなって」
「防具を買っても基礎、それこそさっき竹本先輩が言っていたように実力をつけないと。買って浮かれてる暇は私たちはないから」
「そうだね」と朱利が黒に返し、腰を下ろし雑巾を絞る。
掃除を終え朱利たちを帰らせた後、志姫は一人空を見上げた。
ふぅ、と軽く息をもらし端末を取り出す。
「――門無、今大丈夫?」
「全然だけど、どしたん。ちょっと嬉しそうな声して」
「ありがとうな」
志姫が一言いうと端末から大笑する声が響いた。
「え、なに急に?もしかして告られてる系?」
「ある意味ではそうかもな」
「マジで?」
誤魔化すように志姫が呵々と笑う。
「で、本題なんだが。私たちの終点覚えてるか?」
「もち、玉竜しょ。忘れるわけがない」
「結局終点には至れず、その中で始点からぶらぶらしてる私なんだけど。決めたんだ、終点」
門無はなにも言わず志姫の言葉を待った。
「市民大会。そこを高校での終点にする」
「朱利たちの為に?」
志姫と門無がしばし無言になる。
「んじゃ、蟒蛇――いや、鬼さんの為にひと肌脱いであげちゃおうかな。勉強続きで体動かしたいし」
「金太郎から前掛け取ったらすっぽんぽんだぞ」
「はぁ?誰が金太郎だし。ちな、私が金太郎ならギャザーフレアスカートにブラウスで決めるから。鉞もダサいし薙刀で」
「ずいぶんハイカラな金太郎だな」
志姫が呵々と笑うと門無も大笑した。
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