第7話

「茅は牛乳とか大豆って大丈夫?」

小部屋から聞こえてきた声に「大丈夫です」と茅が返す。

ほどなくして志姫が湯飲みを持って出てきた。

「はい、きな粉牛乳。無理して飲み切らなくていいからね」

「ありがとうございます」

湯飲みを受け取った茅が朱利を見た。

「お昼にいつも飲んでるの?」

「うん。剣道部の伝統みたい」

茅がグイっと一口。

うっすらと上唇を白くした茅を見て、志姫がタッパーを開け朱利も弁当の包みをほどいた。

『いただきます』と三人が手を合わせる。

「茅は購買部のパンか。いつもそうなの?」

「あ、いえ。今日はたまたまで、いつもはパンに適当な具材を挟んだサンドウィッチです」

「そうなんだ。あ、もしかして写真撮りながらでも食べれるから、て理由だったりしない?部長繋がりで写真部の部長と昼とったときがあってさ、そのとき手軽で鳥の餌になるって言ってたんだけど」

そうです、そうです!と嬉しそうに茅がいう。

サンドウィッチの話からまた会話がはずむ。その会話中も志姫は一口、二口とおにぎりにかぶりついた。

「あの、その、おにぎりって全部手作りなんですか?」

「そうだよ。茅さえよかったらどうぞ。朱利も食べる?」

「あ、はい」と朱利が手を伸ばす。

茅も倣い手を伸ばした。

「――志姫さまの手作りおにぎり、志姫さまの手作りおにぎり」

茅が小さな声でぼそりと呟き、まじまじとおにぎりをみつめた。

「あー、ごめんラップとかじゃなくて地肌で握った奴なんだ、嫌だったら――」

「嫌なんかじゃありません!むしろ神棚に飾っておはようからおやすみまで話しかけたいぐらいです!」

え?と志姫が言うとハッとした茅が焦るように一口。

さらに一口、続けて一口とあっという間に平らげる。

「いい食べっぷり。腹壊さない程度に食べな」

茅がもう一つ手に取るのをみて朱利も今持ってる分を一口で食べきると手を伸ばす。

『ごちそうさまでした』と手を合わせる朱利と茅はどこか苦しそうだった。

そんな二人を見て志姫は呵々と笑い湯飲みを下げ、座布団二枚を二人に手渡す。

「私の知る限りじゃ牛になった人はいないからね。二人も午後に備えて軽く寝るといいよ」

お休み。と志姫が横になったかと思えば、すぅ。と寝息をたてだす。

茅と朱利も座布団を二枚折りにし並んで横になる。

「――変な感じ」

「私と同じこと言ってる」

茅が朱利の方を見る。

「変な感じというか、なんだか懐かしい感じがするんだよね。親の実家に行ったときに縁側で昼寝するような感じ」

「渋。おばあちゃんか」

「小学生のときのことだもん。漫画はあってもゲームも端末もなくて、一通り遊んだら後は寝るぐらいだったし」

「まあ、わからなくもないかな」と言って茅が反対方向に寝返りを打つ。

朱利も軽く深呼吸し瞼を閉じた。

寝静まった中、ひっそりと茅が起き上がり隣で寝ている朱利を覗き込む。

「――寝てるね」

朱利が寝ていることを確認した茅は、端末を片手に志姫へと一歩一歩慎重に近づいてゆく。

「志姫さまの寝顔、志姫さまの寝顔――」

茅が端末を構え、舐めまわすように寝姿をみて顔を覗き込む。

ごろん。と寝返りを打った志姫と目線が合う。

「ん?どうした?」

あ、と茅が慌てながら端末を後ろに隠す。

「少しは寝れた?」

「あ、はい。それは、もう、ぐっすりと」

伸びをし起き上がる志姫をみて茅は小さく落胆の声をもらした。

「朱利。起きろ、時間だぞ」

志姫が気持ちよさそうに寝ている朱利を揺さぶる。

「なんてうらやましい――じゃなかった。朱利、起きないと次の授業遅れるよ」

茅が軽く頬を叩きようやく朱利が目を覚ます。

若干まだ寝惚けている朱利を連れ三人で水場へ行き顔を洗う。

戸締りをするために小体育館へと戻る志姫に手を振っていた茅が朱利に聞いた。

「ねえ、今日て午後錬あるの?」

「うん。見学期間中の一週間はやるって」

「そう」と言う茅の視線はまだ志姫を追っていた。

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