第6話
まだ人気のない朝一番。理科室がある一階の廊下に茅はいた。
「持ってきた?」
一つ上の写真部の先輩がマニキュアを塗った爪を見ながら茅を煽る。
「持ってきました。でも、本当にこんな大金必要なんですか?」
写真部の先輩は答えず茅から茶封筒をぶったくる。
「レンズとか備品が高いの知ってるよね?それに使う金だから」
茶封筒の中には一万円札が五枚。五万円が入っていた。
「で、でも、やっぱり一人五万円は高いんじゃ――」
茅が弱腰になりながら聞く。
チッ。と写真部の先輩が舌打ちする。
「なに?ケチつけるの?」
「ケチとかそういうのじゃなくて。ちゃんと何に使うか知りたい、というか」
茅は目を泳がせ鞄を抱きかかえた。
「あんた追加で五万ね」
「え?」
「なに?言いたいことあるの?」
写真部の先輩が睨みを利かす。
茅はうつむき「――ありません」と答え、さらに強く鞄を抱きしめた。
陰湿なものが漂う中に「よう」と言う場違いな声が響く。
「キミ、確か朱利と仲がいい子だよね?どうかした?」
「あの――」と話しはじめる茅を後目に写真部の先輩が志姫の横を通り過ぎようとする。
「ちょっと待った」
志姫が写真部の先輩の腕を掴み上げる。
「放せよ!」
「あの子が泣いてる理由、知ってるよね?」
茅の瞳は潤んでいた。
「知らねえよ。あたしは相談に乗っただけ」
「て、言ってるけど?」
茅は首を横に振った。
「――部費を」
茅が震える声でそういった。
察した様子の志姫は掴んでいる手に力を込める。
「痛い、痛い」
「部費の集金なんてこの高校にいてはじめて聞くんだけど?」
志姫がため息を吐く。
「あんたさ、喝上げなんて恥ずかしいよ。あんたからしたら『ちょっとした』ことなんだろうけどさ。悪いことは言わない、クセになるまえにやめな」
写真部の先輩が志姫を睨み付けるも一切意に介さず、逆に炯眼の眼を持って捉える。
炯眼の瞳に捉えられた写真部の先輩は口を半開きでまごつかせ、瞬きもできないでいた。
志姫がふっ。と押すように腕を離すとよろよろと壁にもたれ、激しく瞬きを繰り返す。
歯ぎしりをし、眉を吊り上げ写真部の先輩は廊下を駆けだした。
「災難だったね。どうもこういう奴は減らないんだよな。一時の快楽に負けちゃう奴が」
志姫は左手に持ったポスターで肩を数回叩いた。
「お金は返ってくるから。嫌な思いはしたと思うけどさ、どうか部を悪く思わないでくれるかな?まあ、お願いしなくてもわかってることだろうけど」
廊下の壁にポスターを張りながら志姫はそういった。
「それじゃ」
「――あの、ありがとうございました」
茅は頭を下げた。
ねえ。とホームルーム前、茅が朝練の疲労で机に突っ伏してる朱利を揺さぶった。
「剣道部の部長さん、名前なんて言うの?」
「名前?竹本志姫だけど、竹本先輩がどうかしたの?」
朱利の問いに返事は返ってこなかった。
「志姫さま――」と茅は頬を染めて呆けている。
朱利が理由を聞く暇もなく、担任が入ってきてホームルームがはじまった。
四時限目となり茅が窓から外を見る。
三年生が体育の授業をしていて、その中に志姫がいた。
種目はサッカーでドッジボール部で副部長の天辰渡浪と競っている。
その光景に見惚れているのは茅だけではなかった、他の三年生たちも見惚れて応援だけしている。
お互い一歩も譲らない中競り勝ったのは志姫。
渡浪を抜き、駆け、ボールをゴールへ叩きつける。
「やった――あ、はは」
茅の声が教室に響きクラスメイトが一斉にそっちをみる。
世界史の先生がわざとらしく咳払いした。
「さっきなに見てたの?」そう、授業終了後に朱利が茅に聞く。
「ちょっとね。体育でいい試合をしてたから」
へえ。と朱利が鞄を背負う。
「もしかして今日も先輩のところでお昼?」
「うん」と言いつつ席を立つ朱利を茅が止めた。
「私一緒に行ってもいい?」
「私からどうこうは言えないよ。竹本先輩に聞いてみないと」
そういって朱利は端末を取り出したが志姫と端末の情報を交換していないことに気づきしまい込んだ。
「どの道、会いに行かなきゃいけないのよね?さ、ほら行くわよ。志姫さま今行きます!」
「ち、ちょっと――」
茅は朱利の手を引いて教室を飛び出した。
「それじゃ聞いてくるね」
水場で茅と別れた朱利が小体育館へと入り、少しして小体育館入り口で茅にサムズアップをした。
茅は深呼吸を何度かし、ゆっくりと歩き出す。
一礼し小体育館へと入る朱利に続いて茅も入る。
「今朝以来だね。えっと、茅さん、でいいのかな?」
胡坐を掻き、すでに昼餉の準備が整っている志姫が聞いた。
「白花茅。茅でいいです。それで、あの、今朝は本当にありがとうございました」
「いいって、いいって。ほら、茅も座って」
朱利と茅に座るように促し志姫は立ち上がり小部屋へ。
ねえ。と朱利が肘で茅をつく。
「朝、なにかあった?『ポスター貼ってくる』て出ていった竹本先輩と鉢合わせでもしたの?」
「まあ、ちょっとね」
茅が少し頬を染めていった。
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