第7話 王国ギルドの本拠地へ

青空の下、モニカは大きな旅行用のカバンを背負い、これまた大きな門の前に立っていた。

言わずと知れた王国ギルドの本拠地だ。


「うわぁ、真下から見るとおっきぃなぁ」


モニカが見上げる城内には王室も併設されている為、城壁も高く作られていた。見回りの警備員も多く、当然ながら全員が王国ギルド所属の腕利きたちだ。

重いカバンと気持ちを引きずるように門のほうへ歩いていくと、見覚えある褐色肌の男が立っていた。

なにやら門番と話をしているようだ。


一瞬、周りを気にするようなそぶりを見せた門番だったが、ヴラドが差し出した金貨を受け取ると素早くポケットに仕舞い込んだ。


なに今の……。


なんだか分からないけど、とにかく見なかったことにしよう。モニカはそう思った。


「よう」

ヴラドは近づいてきたモニカに気が付くと、ポケットに手を突っ込んだまま挨拶した。

「……なるべく人目につきたくないから、早く案内してよ」

周囲をキョロキョロ見ながら警戒するモニカを見てニヤりと笑うヴラド。

トゲトゲした歯と青い髪色のせいか、やはりヴラドに対しては悪者のサメという印象を持った。

「こっちだ、ついてこい」

門番の前を通り過ぎ、モニカはヴラドに続いて入城した。


城の中は贅沢に飾り付けられており、モニカにとっては非日常感に溢れていた。

まさしく豪華絢爛といった言葉がよく似合う内装と規模だ。

しばらくその感動に浸るモニカだったが、次第に周りの人たちの視線が気になり始めた。なにやら自分たちをジロジロ見ながら噂話をされている。


「アイツ、また変なの連れ込んでるぞ。一体なにを考えているんだか」

「あんなはぐれ者のことなんか知るかよ。どうせまたロクでもないこと企んでるんだろ」

「この前ギルドマスターに厳重注意を受けたばかりだっていうのにな」


こんな内容の会話がそこかしこで盛んに行われている。

ヴラドに付随して色々と失礼な陰口を叩かれたモニカだったが、怒りよりも、人目につきたくないという焦りの感情が勝っていた。


そしてモニカ以上にボロクソに言われているヴラドだったが、本人は全く意に介していない様子で歩き続けた。


城内を移動するワープ用のポータルを使い、最上階に近いところまで一気に登った。

なぜ、モニカはこんな大荷物を持って王国ギルドの本部に来たのか。

それはギルドの決まりということで、ダンジョン攻略中はアジトに寝泊まりすることになったからだった。


ではなぜ、そんなルールがあるのか。


その理由は、攻略を良く思わない他ギルドの冒険者から襲われることを防ぐためにセキュリティのしっかりしたアジトに身を固めて生活するためだ。

モニカの正体を知るものはいないのだから、そんな必要ないと反論したが、決まりだから黙って従え、ということで押し切られた。


全く乗り気ではなかったが、一時的なものだし、としぶしぶ承諾した。そのため、こうして重たい荷物を持って遥々やってきたのだ。


「ここがお前の部屋だ」

「……」


まるで囚人を牢屋に案内する看守のような言い方に、モニカは内心ムスッとした。

その一方、あてがわれた部屋は豪華さこそ無いものの、小ぎれいでサッパリとした気持ちの良いものだった。


「荷ほどきが終わったらあの部屋にこい」


ヴラドが指さした部屋は広い廊下の突き当りにあり、その扉の大きさから会議室ほどの大きさであることが分かった。

パーティメンバーとの顔合わせだろうか。


「うん、わかった」


ヴラドが部屋から出ていくと、ベッドへ重い荷物と腰をおろし、陽気が差し込む窓を見た。

格子状に作られた頑丈そうな窓は防犯用のものだと思うが、モニカにとってはむしろ刑務所に閉じ込められたような閉塞感を覚えた。


「私、囚人扱いなのかな」


自虐気味に口に出してみたモニカだったが、とりあえず荷ほどきを始めた。

あまり外泊をしたことのないモニカは何を持っていけば良いのかわからず、とりあえず少しでも必要と思われたものは片っ端からカバンに詰め込んだ。

ほとんどもぬけの殻となった家に誰かが訪ねてきたら、泥棒にでも入られたと思うかもしれない。


「おい、終わったか?」


そんなことを考えながら荷物を取り出していたら、いきなりヴラドが部屋に入ってきた。


「ちょっと! ノックぐらいしてよ!」

モニカは取り出そうとしていた下着を急いでカバンに押し戻した。

「っていうか早すぎだって!」

「うるせぇさっさと行くぞ」

ヴラドはそう言い捨てるとドアを閉めもせず歩き去った。

「なんなのもう!」


あくまでも協力をしに来たモニカだったが、案の定、ぶっきらぼうで偉そうなあの男に無礼な扱いを受けたことで、この先が思いやられた。

荷ほどきはあとにして、ヴラドに続き部屋を出たモニカ。


ガンッ!


何かで殴られたような音が前方からしたが、それはヴラドがポケットに手を突っ込んだままドアを蹴り開けたときの音だった。


え、ほんとうに私パーティ組むの? あの人と?


モニカは今更になって自分が今からしようとしていることが信じられなくなってきた。


「はぁ……」

うなだれるモニカ。


ただもう引き返せないところまで来てしまっているので、重い足取りで廊下を進んだ。

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