第30話
それにしても、この辺りは本当に緑がないな。
見渡す限り真っ黒だ。
しかし、それは燃やされて焦げたというのではなく、腐敗によるもののようだ。
「なぁ、これも全部ヒュドラの仕業なのか?」
俺が聞くと、リブラが言った。
「そうだな。奴が通った跡だろうな。今はこの一帯の毒は消えているが、それからこの辺りの植物が全く生えなくなった。おそらく根元まで腐りきっちまったのかもしれない」
「根元から…腐らせる?」
「あぁ。つまり、ヒュドラの毒は一度でも食らったらそれで終わりかもしれない、ってことだ」
恐ろしいな。
一度でも毒を食らえば終わりか。
つまり奴を倒すには、一度も攻撃を受けてはいけないということか。
「ところでお前ら、最初に会った時なんだが、俺からウリエルを奪おうとしてたよな?あれはやっぱり金が目的なのか?」
「ウリエル?あぁ…お前のレットアージか。ウリエルっていうんだな」
「へぇ…中々いい名前してるじゃねぇの」
「ウリエルって四大天使の名前みたいだな」
「四大天使?それってミカエル、ガブリエル、ラファエルのことか?」
「あぁ。レットアージの機体名は天使の名前に基づいてるらしいからな。神話でも四大天使は天使の中でも最上位。つまりウリエルもレットアージの中では最強クラスなんじゃないか?」
「は!?最強クラス!?だったらやっぱりあの時、逃げずに無理矢理奪っておけばよかったのによぉ!」
ペルセが逃げたことを後悔しているようだ。
そんなことするなら、お前も峰打ちで倒してやるけどな。
「そうか…。ウリエルはそんな強力な機体だったのか…」
しかも四大天使ということは、ミカエル、ガブリエル、ラファエルまで、ウリエルと揃って最強クラスなのか。
キャンサがラファエルを何処で手に入れたのかは知らないが、ウルスとジェミがミカエルとガブリエルを手に入れた経緯が、ウチの工場の近くでたまたま拾ったというものだから尚更驚きだ。
「そういえば、この前逃げた時に“また失敗”って言ってたよな?以前からレットアージを盗もうとしてたことがあったのか?」
俺が聞くと、リブラが答える。
「あぁ。実は俺たちは戦争孤児でな。まともな仕事に就けなくて、今は仕方なく金持ってそうな奴を狙って金品とか、金になりそうなもんを奪って売却して稼いでるぜ」
戦争孤児だと…?
一体どんな事情があるんだ?
「戦争ってどういうことだ?ハイビスカスがヒュドラに襲われたから逃げてたんじゃないのか?」
「いいや。ヒュドラが出現する以前からハイビスカスでは“レットアージ同士の戦争”が行われていたんだ」
「レットアージ同士の戦争…?」
「レットアージは基本的に人命救助用ロボットとして人々のために普及しているらしいが、ハイビスカスでは全く別の使い方をする奴が結構いてな」
「全く別の使い方だと?なんなんだそれは?」
「レットアージは実用性が高い分、所有者が上の立場に立つことができるという風潮がハイビスカスにはあってな。それで所有者が持たざる者を脅迫したり、レットアージを使って殺人を犯したり、金品を窃盗するなどの犯罪行為が後を絶たなかった。それがきっかけで犯罪組織と平和主義者によるレットアージ同士の戦争に発展したってわけだ」
「マジかよ…。レットアージを犯罪に奴らがいるのかよ…許せないな…」
俺にとってレットアージとは、人々を守るためのものだ。
そんな悪行に使う奴がいるとは思わなかった。
「その戦争は何年もの間続いていたらしいんだが、3年くらい前についに終結したんだ。だがそれを上回るほどの新たな脅威がハイビスカスを襲うことになった」
「それがヒュドラってわけか…」
「そうだ。ヒュドラはすでにハイビスカスの国土の半分以上を謎の毒で覆い尽くし、その生物の大半を死滅させた。今は俺たちのいた街の外れの防護壁の中に閉じ込めているが、それでも壁を破壊して出てくる可能性があるからな。討伐するなら早い方がいい」
「そうだな。必ず俺たちでヒュドラを討伐するぞ。お前たちも協力してくれ!」
「おう!今まで俺たち3人だけだったから心細かったんだ!しかもお前のウリエルは現状確認されているレットアージの中でも最強クラスらしいからな!期待してるぜ!」
「最強クラスのレットアージのパイロットがこんなムカつく野郎だとは思わなかったけどな…」
「とりあえずトドメだけはコイツに譲るわけにはいかねぇな…」
3人は俺がヒュドラ討伐に協力することに大方賛成自体はしているようだが、なぜかペルセとセウスからは何かとライバル視されているような気がするんだが…。
とりあえずハイビスカスを目指すことにした。
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