第29話
「じゃあな。俺はもう行くぞ。お前たちは無事に逃げ切れよ」
「お、おい!待てよ!」
「なんだ?」
俺はウリエルに乗ろうとしたが、リブラがそれを止めた。
「あ、そういえばお前らはハイビスカスの出身なんだよな?良かったらそこまで案内してくれると助かるんだがな。もちろん一緒に戦ってくれとは言わないぞ?」
「お前なに呑気なこと言ってんだ!?人の話聞いてたのかよ!?」
「あぁ。ヒュドラが出現した場所には生存者が一人もいないって話だろ?」
「聞いてたのかよ…。なんでそれを聞いてまで行こうとするんだよ…?」
「だからこそ行くんだろ。またヒュドラが他の国にでも出現すれば、その国の人間も全滅してしまう可能性がある。それはなんとしてでも阻止しないといけないだろ」
「だからって、自分の身を危険にさらす必要はないだろ。ヒュドラと戦ったらお前、最悪死ぬかもしれないんだぞ?」
確かにな。
話を聞く限りでは、今まで戦った機構魔獣より一層危険なようだな。
周りにある大量の動物の死骸や枯れ葉れた森林を見ればその危険度は一目瞭然だ。
今回は本当に勝てるか分からない。
しかし…。
「俺には目標としている人がいてな。その人は誰かの命を守るためには、自分の危険も顧みないような人だった。今はもうこの世にはいないが、今でもその功績は多くの人々から讃えられている。その人みたいになりたい。だから機構魔獣なんかに怯えてるわけにはいかない」
その目標としている人というのはもちろん、父さんのことだ。
「セラフィム」という最初のレストアージを開発し、セラフィムで多くの人々を救い、アマリリスを襲撃した機構魔獣“DD”にも勇猛果敢に立ち向かった。
結局、セラフィムでもDDを討伐することはできなかったが、その勇姿は今でも世界中で称賛されているようだ。
「そうか。目標としてる人に近付くためか…」
「そういうことだ。それじゃ、俺はそろそろ行くぞ」
俺はリブラの反対を押し切って、今度こそハイビスカスを目指そうとした時だった。
「ちょっと待て」
またリブラに引き止められた。
「なんだ?まだ止めるのか?」
「違ぇよ。一つ言っておくが、お前はヒュドラを舐めすぎだ」
「は?別に舐めてなんかいないぞ?」
「いいや、舐めてるな。お前のそのレットアージ、かなり強そうだが、それでもまず単独で撃破するのはほぼ不可能に近い。一人で突っ込んで無駄死になんてされたら俺たちが困っちまう」
「…結局何が言いたいんだ?」
「俺たちも行く」
リブラの口から出た言葉は予想外のものだった。
「は?お前らはヒュドラから逃げてきたんだろ?それってヒュドラとは戦いたくないってことじゃないのか?」
「確かにそうだが…俺たちにも故郷の国を守りたいって気持ちはあってな。正直ヒュドラと戦うのはまだ怖いが、なんかお前と協力すれば、もしかしたら倒せるような気がしてな。仲間は少しでもいた方が心強いだろ?なぁ、お前たちもそう思うだろ?」
リブラはペルセとセウスに問いかける。
「あぁ。もし万が一だが、お前がヒュドラを単独で討伐しちまったら、本来の俺たちの手柄を横取りされちまうかもしれないからな。それだけは嫌だぜ」
「それにお前はこの前、俺を剣で斬りつけやがったからな!やられっぱなしじゃ気が済まねぇ!戦い終わったら俺ともう一戦しろ!今度こそは俺が一本取ってやる!絶対借りは返してやるからな!」
だからあれは峰打ちなのだが。
峰打ちだから斬りつけたというよりは叩いたんだが。
「そうかよ、楽しみにしてるぜ。いつでもかかってこいよ。次もまたどうせ俺が勝つだろうけどな」
「くっそー!やっぱりムカつくな!お前!」
俺が挑発すると、セウスが怒り出した。
負けっぱなしが気に入らないのは分かるが、お前の攻撃は見切りやすいからな。
ただ剣を振ってるだけのようにしか見えない。相手に当てなければ何の意味もないからな。
「テメェ!絶対死ぬんじゃねぇぞ!ヒュドラに殺されて勝ち逃げなんて許さねぇからな!」
「俺が死ぬだと?何言ってんだ?そんなことあるわけねぇだろ?お前らこそ俺を舐めすぎだ。言っておくが、俺はこれまで機構魔獣を5体倒してるからな?」
「5体!?」
「マジかよ…」
「お前…意外とすげぇなんだな…」
単独で撃破したのはフェンリルだけだけどな。
でも仲間たちと共闘して倒したのも、俺が倒したという範疇にはなるだろう。
それより“意外と”ってなんだ。
失礼な奴らだな。
「それじゃ、ハイビスカスまで案内してくれよ」
俺はウリエルを起動させる。
「おう、準備はいいか?」
「いつでもいいぜ」
「仲間が増えるのはいいが、なんでコイツなんだよ…」
そしてリブラ、ペルセ、セウスはラグエルに乗った。
俺はコイツらを先にハイビスカスに行かせ、すぐ後ろについていくことにした。
「じゃあ…行くぜ」
ラグエルとウリエルは翼を広げて飛び立った。
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