ハイビスカス編

第28話 

「ウルスとジェミの姿も見えなくなったな…」


二人との旅があっという間に終わってしまい、

少し寂しい気もするが、特に後悔はしていない。

二人を危険な戦いに巻き込む方が嫌だからな。


そして俺は今、東の方角へ向かっている。

今のところ、カンパニュラから見て北側と西側には目立った被害は確認されていないようだ。

というわけで、今後は東側と南側の国を徹底的に調査することにしようと思ったわけである。


「ここから東にまっすぐ進むと…ハイビスカスっていう国に着くのか。えーっと、ハイビスカス…ハイビスカス……あった、これだ」


・アルファオメガ暦933年2月16日、ハイビスカスに機構魔獣「ヒュドラ」が出現。

正体不明の毒素が国全体に撒き散らされ、人口の約過半数が犠牲となり、国全体の動植物の約90%が死滅した。


人口の約過半数に動植物の約90%以上!?

なんて被害規模だ…。

どうやらこのヒュドラって奴、かなり苦戦を強いられそうだな…。


それにしても、正体不明の毒素ってなんだ?

機械が毒素を放出するなんてありえるのか?

…いや、機構魔獣自体が正体不明の謎の存在だから事実なんだろうな。


確か、ずっと前に討伐されたようだが、ベルゼブブという機構魔獣も、危険なウイルスをばら撒いたという記録があったな。

医療機関が開発した抗体で対処できたから、それほど大きな被害にはならなかったそうだが。


「とにかく急がないとな。またいつ現れるか分からないからな」


俺は急いでハイビスカスを目指す。

そして数時間後、ナスタチウムを出て、ハイビスカスに入った。


そこからまたしばらく進んでいくと…目を疑うような光景があった。

「なんだ…これ」


さっきまで森林に覆われていた山々が続いていたのだが、だんだんそれが黒くなっていっているのが分かる。

近くで見てみると、草木は全て枯れ果てているようだ。

これが…正体不明の毒素の仕業なのか?


嫌な予感を感じ、俺は先を急いだ。

その先に広がっていた光景を見て、俺は驚愕した。


辺り一面に、動物の腐った死体や骨などが散乱していたのだ。

その中には人間の骨と思われるものもたくさんあった。


「ヴッ…!マジかよ…」


俺は一旦ウリエルから降りて、その骨を確認してみることにした。


「これはひどいな…、見る影もない…」


そんなことを考えていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。


「なぁ、あのレットアージって…」

「間違いないな。アイツのだ」

「なんでここにアイツがいるんだよ…」


その声はある男たちのものだった。

振り返ると、ソイツらと目が合った。


「ゲッ…!こっち見たぞ!」

「ヤベぇ!バレた!」

「に、逃げるぞ!」


なんとソイツらは、タマリンドに行く前にウリエルを狙っていた盗賊三人組だった。


「おい!待てよ!」


ソイツらが逃げようとしたので、大声で引き止めた。


「な…なんだよ?」

「まさか、まだ俺たちを疑ってんのか?」


「違う。ちょっとそのレットアージが気になってな、お前らのか?」


ソイツらの近くには黒いレットアージがあった。

武装は巨大な槍斧のようなものを持っている。

見たところ、ウリエルとは対照的だな。

ウリエルが炎を纏った天使なら、これは闇を纏った堕天使といったところだろうか。

こういったデザインも悪くないな。


すると、その内の一人が言った。


「あぁ。俺のレットアージ、ラグエルだ」

「ラグエルっていうのか。かっこいいな」


「言っておくが、お前には渡さねぇぞ」

「貰う気はねぇよ。ところでお前らはどこから来たんだ?」


「人に色々聞く前に、まず自分から名乗ったらどうだ?」


確かにそうだな。

俺ばっかり質問攻めするのはよくないか。


「あぁ、そうか。すまないな。俺はリエスだ。それで、お前はなんて言うんだ?」


俺が自己紹介をすると、ラグエルの持ち主が言った。


「俺はリブラだ」


ソイツはリブラと名乗った。

すると、他の二人も名乗った。


「俺はペルセ」

「俺はセウス」


ソイツらはペルセ、セウスとそれぞれ名乗った。

ちなみに、あの時俺に斬りかかってきた方がセウスだ。


「そうか。それでお前らはどこから来たんだ?なんでこんな場所にいる?」


「俺たちは全員ハイビスカスの出身だ。今はわけあって街から離れてるけどな」


「わけあって?どういうことだ?」


「お前に言う必要はない。お前こそ、どこに行こうとしてるんだ?」


「これからそのハイビスカスに行こうと思ってる。そこに機構魔獣ヒュドラがいるって話を聞いてな。ソイツを倒しに行く」


すると、リブラたちは驚いた顔をして言った。


「お前正気か?」

「ヒュドラを倒す?」

「冗談はよせよ?」


どういうことだ?

何か変なこと言ったか?


「お前ら、急にどうしたんだ?深刻な顔して」


リブラは俺に忠告するように言った。


「リエス…だったか?一つ言っておくがヒュドラと戦うのだけはやめておけ。アイツを倒すのは無理だ」


「は?無理?なんだよそれ?説明しろよ」


「実はな…ヒュドラが出現した場所には、生存者が一人もいないんだ」


「生存者が…いない?」


「あぁ…。奴の発する正体不明の毒で全員死んでる。戦っても無駄死にするだけだぞ」


「…それでお前らの住む街にも現れたから逃げてきたってことか?」


「そういうことだ。多分いずれこっちに向かってくるかもな。それまでにお前も逃げた方がいいぞ」


「そうか…」


俺はウリエルの方へ歩き出す。


「お、おい!どこ行くんだ?」

「決まってるだろ。ヒュドラを倒しに行く!」

「「「…はぁ!?」」」

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