第26話 

その後、俺たちはサリエルとキマイラの遺骸を回収して、街の方へ戻ることにした。

そしてウルスとジェミは、ヘルクとクレスが待っている指令室へ戻った。


「よぉ…戻ってきたぜ」

「はぁ…強い相手だったよ」


「ウルス、ジェミ!帰ってきたんだね!」

「良かった。あなたたちは無事だったのね」


「いや、でもバーゴが…」

「ごめんね、私たち…バーゴを守り切れなかった…」


「いいの、気にしないで。キマイラを倒すっていうあたしたちの目的は達成できたんだから」


「あなたたちはすごいわ。ついに私たちの悲願が叶ったんだもの。ありがとう。感謝するわ」


「そうか…?ならいいんだけど…」

「うぅ…本当にごめん…」


「ところでリエスは?」

「あぁ、アイツなら…」


―――――――――――――――――――――


俺は一人で屋上にいた。

己の弱さを思い知ってしまい、頭の中は罪悪感でいっぱいだった。

これではアイツらに合わせる顔がないな。


「俺は…バーゴを…仲間を守れなかった…!俺がもっと強ければ…バーゴは死なずに済んだのに!」


俺が悔やんでいると、ウルスとジェミがやってきた。


「おい…リエス。もうやめろ」

「ウルス…」


「ヘルクとクレスなら大丈夫だよ。さ、2人のところに行こ?」

「ジェミまで…。でも、俺は…」


するとウルスは、いきなり俺の肩に手を当ててきた。


「…ったく、ネガティブになりやがって!お前らしくねーな!」

「こんな弱気なリエス、私たちは見たくないんだけど!」


「え?」


「それを言うなら、俺たちも連帯責任だろ!」

「あの時、私が油断してたせいで蛇腹剣も壊されちゃったし!」


「お前ら…。あぁ、すまないな。いつまでも落ち込んでるわけにはいかないな」


2人に説得された俺は指令室に戻り、ヘルクとクレスに今回のことを謝罪することにした。


「すまなかった!俺の力不足のせいだ!」


「ちょっ、リエス!?頭を上げてよ!あたしたち、別に怒ってなんかないから!」


「そうよ。むしろお礼を言いたいところよ。私たちの仇を討ってくれたんだから」


どうやらヘルクとクレスは気にしないでほしいようだが、やはりどうしても俺の気が済まない。


「いや、それでもバーゴを守り切れなかったのは事実だ。何か一つでもいいからお詫びをさせてくれ!」


「お詫び、かぁ…。クレス、どうする?」

「そうね。お詫びというかお願いなんだけど聞いてくれるかしら?」


「あぁ、俺にできることなら何でも聞くぞ」


すると、クレスが言った。


「サリエルの剣と盾をもらってくれないかしら?」


サリエルの…剣と盾…?

急に何を言い出すんだ?

剣と盾を俺にくれるってことか?

そんな大事なものをか?


「いやいや、お願いだぞ?本当にそれでいいのか?」


「えぇ。サリエルの剣と盾はスピカとバーゴが命をかけて戦った証よ。あなたにはそれを持っていてほしいの。一緒に戦った仲間の証としてね」


「そうか…悪いな。お詫びをするつもりが、逆に武器をもらってしまうなんてな。…分かった。これはありがたく受け取っておく」


俺はサリエルの剣と盾を受け取ることにした。


―――――――――――――――――――――


翌日。


「おーい、こっちだよー!」

「ヘルク、そんなに慌てなくていいわよ」


俺たちはヘルクとクレスに連れられて、ある場所に来ていた。


「これは…墓なのか?」

「なんか、やけに小せぇな…」

「あ、スピカとバーゴって書いてあるよ!」


やってきたのは、会社のすぐ近くにある荒地。

どうやらここは、かつてスピカとバーゴの家があった場所らしい。

現在は、それもキマイラの被害によってなくなってしまったそうだが。

そこには、小さい石碑のようなものが2つ置かれており、それぞれに“スピカ”、“バーゴ”と書かれていた。

…ということは、2人の墓か。


すると、クレスが言った。

「これはスピカのお墓よ。そして昨日、その隣にバーゴのお墓も作ったの。それが私たちにできる弔いといったところかしら」


「早いな。もう墓まで作ったのか…」


そして、思い出話でもするかのようにヘルクが語り始める。

「スピカはあたしたちにとっても昔からお兄ちゃん同然の存在だったの。バーゴね、スピカのことが大好きで、子どもの頃は、スピカと結婚する!とか言ってたもんだからね」


「そういえば、バーゴが言ってたな。今からそっち行くって。やっぱりずっとスピカに会いたかったんじゃないか?」


「そう…だったのね」

「バーゴ…」


俺がこのことを言うと、ヘルクとクレスは突然悲しそうな顔をして、泣き出した。


「うぅ…!バーゴ…!スピカと結婚したいって言ってたじゃん…!2人で幸せになる姿を見てみたかったよ…!」


「スピカ…!バーゴ…!一度だけでいいから、またあなたたちに会いたい…!」


…なんだよ。

結局泣くのかよ。

気にしなくていいんじゃなかったのかよ。

やっぱり悲しくなるんじゃないか…。


「はっ…!」


すると突然、俺は両親や友達、仕事仲間たちのことが脳裏に浮かんだ。

…そうか。

ヘルクとクレスにとっても、バーゴとスピカは家族同然の存在だ。

大切な人が突然いなくなる、そんな事実をまだ受け入れられないのだろう。


俺たちはスピカとバーゴの墓の前で手を合わせて、2人の冥福を祈ることにした。








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