第25話
「スピカは私たちを守ってくれた。今度は私が皆を守ってみせる!」
バーゴはサリエルの盾を変形させ、機体全体を覆うほどのサイズまで巨大化した。
サリエルの性能は攻防両用だと思っていたが、どちらからといえば防御特化のようだな。
「これで炎も怖くない!」
キマイラが炎を吐く。
バーゴがサリエルの盾でそれを防ぎながら突進していく。
そして、剣で山羊の頭部を斬る。
その頭部も破壊され、残る頭部は残り一つとなった。
これで攻撃も熾烈ではなくなった。
「あと残るは蛇の頭部だけだ!あれを壊せば攻撃手段がなくなるな!」
「ううん、まだ尻尾が残ってる」
「尻尾…だと?」
「うん、あの尻尾の先端で突き刺してくる攻撃もしてくるの。だから後ろに回り込むのも危険」
そうか。
あの尻尾も攻撃手段なのか。
ならば…。
「俺が尻尾を破壊してくる!」
「リエス!?」
俺はキマイラの炎ブレスを躱しながら、後ろに回る。
するとバーゴの言った通り、キマイラは急に尻尾を動かしてきた。
俺に向かって槍のように尻尾を突き刺そうとしてくる。
当たれば大ダメージを受けてしまうだろうな。
…だが!
「これで挟み撃ちだな」
俺たちは4人いるのだ。
これだけいればキマイラを包囲することなど容易である。
前にサリエル、横にミカエルとガブリエル、後ろにウリエル。
これでキマイラの注意が全方向に向いている。
つまり、先にどこを攻撃するか迷っているということだ。
この迷っている隙に一気に畳み掛ける!
「それじゃ、動きを封じちゃうよ!」
ジェミがガブリエルの蛇腹剣でキマイラを巻き付けた。
「よくやった、ジェミ!」
抵抗はしているものの、かなり動きを封じることができている。
その隙に俺たちで一斉攻撃する。
俺は尻尾を斬り落とし、ミカエルはビームで着実にダメージを与え、サリエルは最後の頭部である蛇の頭を破壊した。
これで炎を吐くことはできなくなった。
「これでもう勝負ありだな」
攻撃手段を失い、装甲も持ち前の翼も半壊状態となったキマイラは非常に動きが鈍くなっており、飛行も不安定になっていた。
再びサリエルがキマイラに向かっていき、相対する。
そして、剣を振り上げた。
「これで…やっとスピカの無念が晴らせる…。これで終わりにするよ…機構魔獣キマイラ!」
サリエルが剣を振り下ろそうとしたその時だった。
突然、指令室のヘルクとクレスから通信が入った。
「バーゴ!ダメよ!」
「今すぐ逃げて!」
「え?」
ギギギギ…。
バキィィィィン…!
動きを封じられながらも、必死に抵抗を続けたせいか、ついにキマイラは蛇腹剣を破壊してしまった。
「なっ…!?」
「マジかよ…」
「そんな!?ガブリエルの蛇腹剣が!?」
ジャキン…!
すると何の前触れもなく、キマイラはアームに取り付けられた爪を巨大化させた。
そして、勢いよくアームを振り翳す。
グシャッ…!
そんな!?
そうか…見落としていた。
炎の攻撃ばかり危険視していたせいで、まさか全身が武器だなんて思いもしなかった。
「か…はっ…!」
もはや剣とも言えるほどの鋭い斬れ味を持つ爪は、サリエルを真っ二つに引き裂いた。
しかも、よりにもよってコックピットの部分をだ。
コックピットが破壊されたことで操縦不能になったサリエルは地へ落ちていった。
「そんな…」
「バーゴまで…?」
それを見てしまった俺は、怒り狂った。
何も考えず、キマイラに突撃した。
俺に続いて、ウルスとジェミも突撃する。
「よくも…バーゴを!俺たちの仲間を!」
「絶対に許さねぇっ!」
「やっぱりコイツは私たちで倒す!」
俺たちの3機で、一斉攻撃を畳み掛ける。
もう容赦はしない。
再度蛇腹剣で巻き付け、ウリエルでロケット砲を撃ち込みまくり、ミカエルでビームを撃ちまくる。
頭部は全て破壊されているので、得意の炎ブレスなどの遠距離攻撃は不可能。
蛇腹剣で動きを封じて、ウリエルとミカエルで遠距離攻撃を繰り返す。
もう反撃の余地は与えない。
俺たちの猛攻を一方的に受け続けたキマイラは、やがてボロボロになり、為す術もなくなった。
「これで終わりだ…!」
ゴォォォォッ!
俺は剣に炎を纏わせ、振り下ろす。
ズドォォォォン…!
キマイラの機体を真っ二つにぶった斬った。
キュピィィィン…。
キマイラは目の部分から光が消え、機能が停止し、地へ落ちていった。
ドォォォォン…。
これでキマイラの討伐が完了した。
「バーゴ!」
キマイラを討伐した俺たちは、バーゴの状態を確認するため、サリエルのコックピットの中を見る。
しかし…もう遅かったようだ。
「あ…、リ…エス」
「そんな…バーゴ…!」
コックピットの座席部分が引き裂かれ、バーゴの上半身と下半身が離れてしまっていた。
「リ…エス、あり…がと…」
「やめろ…やめてくれ…!俺は礼なんて言われる立場じゃない!俺はレットアージのパイロットとして、人々の命を守らなきゃいけないのに…俺はお前を守れなかった…!」
すると、バーゴは上の方を向いて、何やら独り言を言っていた。
「ねぇ…、スピ…カ。今私も…そっちに…行くか…ら待っ…てて」
「待て、バーゴ!まだ死ぬな!生きてくれ!」
俺のそんな思いも虚しく、バーゴは目を閉じる。
やがてバーゴの身体は微動だにしなくなった。
もう息もなくなってしまった。
「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!」
守るべきものを守ることができなかった、俺の悲痛な叫びだけが響いた。
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