第16話
「そうか…そんなことがあったのか」
俺はフェニックの話を聞き、悲しみと怒りが込み上げてきた。
「なら、仇を討たないとな。その親友のためにも」
「リエス…」
「すぐにケルベロスの情報を掴んでくる。行ってくるぞ」
―――――――――――――――――――――
俺は市役所に行き、レオからケルベロスの逃走経路を聞くことにした。
「進行方向は西だよ。なぜかケルベロスは鉱山の方にはあまり近付かない。比較的涼しい森林地帯を好むようだ」
「そうか、分かった」
森林地帯を徹底的に捜索するため、俺はすぐに出発準備をする。
「リエス、どこへ行くのかね?」
「西側の森林だ。そこを根掘り葉掘り調べてくる」
「1人で?」
「あぁ、もし見つけたらすぐに連絡する」
―――――――――――――――――――――
「まずは上空から見てみるか」
森林地帯に来た俺は、上空からケルベロスの痕跡などを探すことにした。
「うーん、中々手掛かりを掴めないな」
やはりタマリンドの森林地帯は異常に広すぎる。
四方八方見渡す限り、山々が続いている。
機構魔獣は巨大と言えど、この広さなら身を隠すのに十分である。
「あれは…獣道か?」
捜索を続けていると、超巨大な獣道を見つけた。
その一帯だけ木々がなぎ倒され、道ができていた。
その道幅は数十メートルもあった。
あんな巨大な動物がいるはずがない。
間違いない。
ケルベロスが通った跡だ。
俺はその獣道を辿っていく。
これを辿っていけば、ケルベロスの居場所が分かるかもしれない。
しかし――。
「うわ、マジか」
どうやら逃走経路の一帯の森林は、成長速度が速い木々が多いようだ。
だんだん進むにつれ、普通の森林地帯になってしまっている。
これでは森の中を探すしかないな。
俺は森の中に降り、木々をかき分けて進むことにした。
数時間後…
「やっぱり無駄に広いな。流石に骨が折れる」
捜索を続けたものの、それらしい手掛かりは見つからなかった。
「大変だな。どうしたものか…ん?」
俺は忘れていた。
シグナがウリエルを改修してくれたことを。
「これは…機体探知センサーか?」
驚いた。
まさか火力エネルギー装置以外にも、内緒でこんなの取り付けていたのか。
こういうのは支援特化型に装着するのが普通だと思っていたからな。
俺はセンサーを作動させ、探知圏内にケルベロスがいないか探る。
さらに数時間後…
ビビーッ。
センサーが反応した。
ということは、近くにいるかもしれない。
俺はセンサーが感知した標的の機体に向かうことにした。
そこは森林の奥深く、そこに超巨大な洞窟のような穴が空いていた。
「間違いない、この中にいるな」
俺は危険を覚悟して、洞窟の中に入った。
「暗いな…」
穴は巨大とはいえ、かなり先まで続いているようだ。
「こんな時こそ、アレだな」
俺は剣を着火させた。
これで一気に明るくなった。
「シグナに感謝だな」
それから進むこと数十分…
目の前で何かが光った。
剣の炎が発する光を反射したようだ。
「グルルル…」
犬のような狼のような唸り声が聞こえた。
ということは…。
「まずは洞窟を出ないとな」
俺はすぐに引き返すことにした。
ウリエルを急加速させ、飛行していく。
ドォン!
ドォン!
後ろから走って追いかけてくる音が聞こえる。
聞いた話ではあまり動きは速くないようだが、
走ると中々の速さになるようだ。
後ろから何かが音が聞こえた。
どうやらエネルギーを溜めているようだ。
まさか…。
「ウリエル!壊せ!」
俺はウリエルの拳で、洞窟の天井に穴を空けて脱出した。
脱出直後、洞窟が爆発を起こし、崩れ去った。
中から巨大な機械生命体が飛び出してきた。
「グルルル!」
3本の頭を持つ犬。
やはりこれがケルベロスか。
全身には見るからに頑丈な装甲を纏っている。
並大抵の武器じゃ歯が立たないのも納得だ。
「まずはレオたちに伝えないとな」
俺の作戦は、ドンリマタにケルベロスを引き付けて、そこで俺とレストアージ戦闘隊で迎撃するというもの。
そのためには、確実に逃げ切る必要がある。
再度、ウリエルを急加速させる。
ケルベロスは俺を走って追いかける。
ケルベロスの走るスピードは遅くはないようだが、このくらいなら十分逃げ切れるな。
「ウォォォン!」
「うわっ!すごいジャンプ力だな!」
今度は飛びかかって噛みつこうとしてきた。
ケルベロスには翼がないため、飛行はできないようだが、その代わり跳躍力に長けているようだ。
また、一度ビームを撃つと、次のビームを撃つのに少し時間がかかるようだ。
予想通り、攻撃はあまり激しくないな。
やはり気をつけるべきは防御力か。
そして、どんどん距離を離していき、逃げ切ることができた。
それからしばらくして、ドンリマタに戻ってきた。
「よし、レオにケルベロス出現の報告を…」
「それは必要ないぞ、リエス」
「え?レオ?」
俺が戻ってきた時には、レオと他の戦闘隊は、それぞれのレストアージに搭乗し、待機していた。
「分かっていたのか?」
「知ったのはついさっきさ。こっちにも機体探知センサーを装備したレストアージがいるのでね。それに…」
「無事だったのか。リエス」
「フェニック!」
「俺もケルベロスの討伐、協力しよう」
「お前、急にどうして?」
「正直、まだ怖い。でもパーヴォが言ってたんだ。お前がアイツを倒せってな。今こそ仇討ちだ。俺たちでアイツを倒す」
「腹括ったんだな」
まずドンリマタの住民を避難させ、街の周りを防御特化型レストアージで囲み、街への被害を最小限に抑える。
そして前衛に攻撃特化型レストアージを配置し、ケルベロスの迎撃に備える。
また、前衛と後衛の間に支援特化型レストアージで攻撃隊を後方支援する。
さらに、フェニックの工場の保管庫から大砲を大量に持ち出し、砲撃準備をした。
「まさか市長が出撃するなんてな」
「私には奴を倒して、市民を守るという義務があるのでね」
待つこと数十分後…。
ビビーッ。
ウリエルのセンサーが反応した。
ドォン…。
ドォン…。
向こうから大きな足音が聞こえてきた。
来たな。
「ウォォォン!」
ケルベロスは雄叫びを上げて、俺たちを威嚇する。
だが恐れることはない。
戦闘準備は万端だ。
しかし、ケルベロスはそこから動こうとはしない。
どういうことだ?
こちらの様子を窺っているのだろうか?
しばらくして、ケルベロスはこちらを目掛けてビームを撃ってきた。
かなり遠いはずなのに射程内か。
攻撃範囲が広いな。
守備隊は咄嗟にビームを防ぐ。
街への被害は免れたが、相変わらずすごい威力だな。
それからしばらく、こちらもケルベロスの様子を窺ってみたが、ケルベロスはそこからほとんど動かず、ビームを連発するだけであった。
「どういうことだ?」
「分からないが、この状況をいつまでも続けるわけにはいかない。私は突撃する」
そう言ってレオは、単独で突っ込んでいった。
流石のレオでも単独では非常に危険だ。
「皆の者!市長に続け!」
それを見た攻撃隊の1人が、他の攻撃隊に呼びかけた。
「おぉ!」
「行くぞ!」
そして攻撃隊全員が突撃していく。
俺もそれに続く。
「迂闊に近付かないほうがいいな」
剣や槍などの接近武器では、攻撃が弾かれるだけでなく、反動で仰け反ってしまう。
その隙にケルベロスに反撃される危険性がある。
ならば…!
「ウリエル、撃て!」
ウリエルのアームを開き、ロケット砲を発射する。
すると―――
「ウォォォン!」
ケルベロスは少し苦しそうな声を上げた。
思った以上に効いている?
鉄壁の防御じゃなかったのか?
どういうことだ?
装甲が壊れている…というか溶けている?
まさか…!
俺は剣に炎を着火させ、ケルベロスを斬りつける。
すると、斬りつけた部分の装甲がドロドロに溶け出した。
やはりか…。
「ウォォォン!ウォォォン!」
ケルベロスはさらに苦しい声を上げる。
「リエス、一体何が起こっている?」
レオが疑問を浮かべた顔をしている。
「分かったぞ、アイツの弱点」
「じゃ、弱点?」
「あぁ、アイツの装甲は熱に弱い!」
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