第13話 

その後、俺たちは別室に移動し、ケルベロスの情報を聞くことにした。

どうやら会議室のようだ。

そこに一人の女性がいた。


「特別秘書のアンドロと申します」

「リエスだ。よろしく」


どうやら市長の補佐役のようだ。

この人もケルベロス討伐に協力してくれるらしい。


「アンドロ、あれを持ってきてくれ」

「かしこまりました」

アンドロが持ってきたのは一冊の書類。


「ではリエスさん。こちらをご覧ください」

そう言ってアンドロはそれを机の上に置いた。


「これって…」

「タマリンドがケルベロスに襲撃された際の記録の全貌です」


見てみると、最初のページに見開きで、ケルベロスの全体像が描かれていた。


犬のようだが見るからに凶暴そうな顔。

黒に青みがかかったような装甲を全身に纏っている。

どうやら全長は30メートル程度のようだ。

イフリートと同じくらいのサイズか。

そして特徴的なのが、三本の頭を持っていることである。


これを見てレオが言った。

「この三本の首が中々に厄介でね、相手は一体のはずなのに三体と戦っていたような感覚だったよ」


「それってアンタもケルベロスと戦ったことがあるってことか?」

「あぁ。私は市長かつレットアージ戦闘隊の一員だからね」


「そうだったのか。それもそうか。アンタ見たところかなり強そうだしな」

「その通りだ。私が隊長だからね」


レオは現役でレットアージ戦闘隊の隊長らしい。

おそらく60歳くらいなのに体が鈍らないなんてすごいな。


「リエス、君は勝手に私を60歳以上だと思い込んでいるようだが、私はまだ50代だぞ」


…どうやら俺は考えてることが顔に出やすいらしい。


「それで、ケルベロスはどんな攻撃をしてくるんだ?」


「巨体での体当たりや噛みついて捕食してきたりもするが、特に危険なのが三本の頭を利用した3連続ビームだ。基本的に奴の動きは速くはないが、そのビームは広範囲かつ高威力。正面からでは避けるのは難しい」


「それって後ろに回り込めば避けられるってことだよな?割とできそうなんだが」


「最初は私もそう思った。ビームを避け、奴の背後を取った私は背中に斬りかかった。しかし、私の剣は逆に砕け散ったんだ」


「剣が砕け散った?どういうことだ?」

「奴の装甲の強度は異常だ。どんな攻撃もものともしない鉄壁の防御を誇っている」


「な、なんだよソレ…、ヤバすぎんだろ」

「あぁ、この鉄壁の防御をなんとかしない限り奴にダメージを与えるのは不可能だ」


「何か打開策はないのか?」

「大砲を連続で撃ったら逃げていったが、それでも討伐には至らなかった。これより高威力の攻撃手段が必要だな」


「そうか。大砲でも倒せないのか…」

「リエス、君のレットアージならなんとかなるんじゃないか?」


「ウリエルのロケット砲も攻撃力は高いが、そう連発できるものじゃない。せいぜい40発だ」

「そうか。他に何か対策を考えなければな…」


今回の機構魔獣は、攻撃があまり激しくない代わりに防御が異常な相手か…。

それはそれで厄介だな。


「市長、もうすぐ次の会議の時間です」

アンドロが話に割って入った。

でもレオは市長でもあるのだから忙しいのは当然か。


「そうか、すぐ行こう。すまないね、リエス。この話はまた今度にしよう」

「こっちこそ突然押しかけてすまなかった」


俺たちは会議室を出る。

それにしてもこの役所は広いな。

道に迷ってしまいそうだ。


「リエスさん、出口まで案内いたします」

「そうか、わざわざすまない」


アンドロが先導して出口へ連れて行ってくれるようだ。

会議室までもレオに案内してもらったから来ることができたが、俺一人では確実に迷っていただろう。

それから、5分ほど役所の入り組んだ廊下を歩き続け、ようやく出口に着いた。


「突然、話を遮ってしまい申し訳ありません」

「いや、いい。有益な情報が得られた」



役所を出た俺は、今日泊まる場所を探すことにした。

イフリート討伐の報酬でお金はそこそこあるし、いい宿に行くのもアリだな。

ウリエルに乗って駅の方に戻り、地図を見て周辺の宿を探す。

どうやら駅の近くに宿は3つほどあるようだ。

「お、こことかいいな」


俺が目をつけたのは、宿にしては珍しく温泉が設備されている場所。

温泉には入れるのはいいな。

ここにしよう。


「これから戦いが始まるんだしな。旅の疲れは今のうちに癒やしておくか」


俺は宿に入る。

今日は比較的宿泊客が少なく、部屋が空いているようであっさり予約できた。


「チェックインは18時でございます」

現在は16時。

チェックインまであと2時間あるな。


チェックインの前にウリエルを置いておく場所を探す。

地図を見てみたところ、近くにレットアージ製造工場があるようだ。

そこなら預かってくれるかもな。

ひとまず行ってみるか。


―――――――――――――――――――――


「ここか。やっぱりデカいな」


俺はレットアージ製造工場へやってきた。

俺が働いていた工場よりもデカい。

さて、中に入るか。


入り口の扉を開けようとしたが

「…ってあれ、鍵が掛かってる?」


どうやら施錠されているようだ。

もしかして今日の業務は終了して、全員帰ったのか?

いや、まだ16時過ぎのはずだ。

まだ誰か中にいるはず。


というか鍵穴すらない。

どうやって入るんだ?

そんなことを思っていた矢先、後ろから声をかけられた。


「お前、不法侵入者か?」

「え?」


後ろを振り向くと、長身の男が立っていた。

長身といってもキャンサのようなゴツい体つきではなく、スラッとしたモデル体型のような奴だ。


「お前、この工場の関係者か?」

「あぁ、俺はここの工場長のフェニックだ」


工場長だったのか。

それにしても、工場長っていうともっとがっしりしてるイメージがあるがコイツは珍しく痩せ型だな。


「俺はリエス。ちょっとここに用があってな。俺のレットアージを預かってくれないか?」

「そうか、悪いな。不法侵入だと疑ってしまって」


「いや、それはいいんだが、なぜ鍵が掛かってるんだ?」

「防犯のためだ。ここはタマリンドの中でも特にレットアージの開発に力を入れている。レットアージは貴重だから盗もうとする奴が時々いるんだ」


そう言って、フェニックはポケットからカードキーを取り出し、取っ手にかざした。

すると取っ手が緑色に光り、解錠した。

鍵穴がないと思ったらそういうことか。

これは確かに防犯性が高いな。


「来い。中に案内してやる」

そう言われ、フェニックについていく。

作業場に行くと、大勢の社員が作業をしており、完成形や製造途中のレットアージが多く製造されていた。


「すげぇ…。レットアージがいっぱいだ」

元々、工場に勤務していた身ということもあり、他の工場に行くとどうしても自分の働いていた工場と比較してしまう。


俺が働いていた工場ではレットアージだけでなく、産業用ロボットや医療用ロボットなど幅広く製造していたが、ここはレットアージの製造を主としているためか、その他のロボットはあまり見られない。


「なぁ、フェニックもレットアージのパイロットなのか?」

「いや、俺はメカニックだからな。操縦は専門外だ」


「そうか」

「見ろ、リエス。あれは俺が作った」


フェニックが指さした方向には、金色のレットアージがあった。








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