タマリンド編

第12話 

サンダーソニアを出発した俺は、新たな旅路であるタマリンドを目指す。


隣国とは言っても、カンパニュラからサンダーソニアに行った時みたいに、ウリエルでも一日で着くというわけにもいかないようだ。


どうやらタマリンドは国土面積が広い上に、国土のおよそ3分の2が森林地帯らしい。

となると、人が住む街まで行くのに一苦労しそうだ。


ひとまず、首都のドンリマタを目的地にしようと思っている。

「お、森が見えてきたな」


サンダーソニアとタマリンドの国境は分かりやすく、タマリンドに入ると一気に大規模な森林が広がるらしい。


ということは、今サンダーソニアを出たことになるな。

「タマリンド突入だ」


しかし…

「やはり疲れるな…」


キャンサとの訓練で体力作りをしたとはいえ、長時間操縦するのは流石に疲れる。

「少し休憩するか」


俺は一旦ウリエルを停止させ、休憩することにした。

すると疲れが溜まっていたのか、いつの間にか眠りについてしまった。


「…ん、やべっ、寝ちまってたのか…ってなんだアイツら?」


下を見てみると、ウリエルを取り囲む3人の男たちがいた。


「なんだこのレットアージ!」

「すげぇ、見たことないデザインだ!」

「これは高く売れそうだな!」


なんだコイツら。

ウリエルを狙ってるのか?

高く売れそうとか言ってるし。

ウリエルで儲けようだなんて冗談じゃない。


俺は念の為、短剣を隠し持ってウリエルから降りる。

「お前たち、何者だ?」


「チッ、なんだ所有者がいたのか」

「カッコよかったから放置されてたなら俺が使いたかったのに」

「せっかく金になると思ったのに」


やっぱりウリエルを盗んで売り払うつもりだったのか。

確かにレットアージは非常に高価格で売れる。

…そんなことさせるかよ。


「悪いがコイツは渡せない」

「そうかよ、ならテメェを殺して無理矢理奪ってやる!」


男の1人が俺に剣を振り翳してきたので、俺は下に回り込み、脇腹に剣を当てる。


キャンサとの訓練のおかげだろうか。

動体視力や筋力が向上している気がする。


「ぐおっ!」

ドサッ。

ソイツは倒れた。


「痛ってぇ…」

「おい、大丈夫か!」

「テメェ!よくも仲間を!」


まさか殺したと勘違いしているのか?

よく見ろよ。

血も出てないじゃないか。


「安心しろ。峰打ちだ」

「まずい!ここは逃げるぞ!」

「ちくしょう!また失敗かよ!」

「クソッ!なんなんだよコイツ…!」


またってことは、これまで何回も窃盗は試みたがその度に失敗してたってことか。


奴らは逃げていった。

「レットアージを金銭目的で狙う奴もいるのか。気を付けないとな」


盗賊を追い払った俺は、再びドンリマタを目指す。


しかし、やはり森林地帯が続いている。

森林地帯を飛行し続けてどれほどの時間が経っただろうか…。

ようやく村らしき場所を見つけた。


「ここの村で、タマリンドの機構魔獣についての情報が得られるかもしれないな。ちょっと寄っていくか」


俺はこの村の人を探すことにした。

しかし、人影は見当たらない。


「…おかしいな」


失礼とは思いつつ、少し民家を覗いてみることにした。


「ゔっ!?なんだこの匂い!」


民家の家畜小屋を見てみると、家畜の牛や羊などが大量に食い荒らされていた。


完全にされた骨にされた者や半身だけ食いちぎられた者など様々だった。

中には人間の骨と思しき物もあった。


「ひどいな…」

これを見て分かることは、これは人間の仕業ではないということだ。


そういえば、ここタマリンドに出現した機構魔獣ケルベロスは、人間や家畜を食い荒らしたと書いてあったよな。


となると、これはソイツの仕業だろうか?

状況を見るに、それほど日数は経っていない。

おそらくまだ近くに潜んでいる可能性がある。


「早く手掛かりを探した方がいいな」

俺はすぐに再出発することにした。


村から離れてしばらく経ってから、だんだん街らしき場所が見えてきた。

「そろそろか?」


真下に列車が走っているということは、線路を辿っていけば駅に着くのか。


―――――――――――――――――――――


駅らしき場所に着いた俺は、看板を確認してみる。

そこには「ドンリマタ」と書いてあった。


よし、ドンリマタ到着だな。

駅前広場にウリエルを降下させ、外に出る。


見たところ炭鉱都市か?

向こうに鉱山が見えるし、炭鉱所や製鉄所が多く見られる。

さっきの列車も蒸気機関車だったしな。


しかし、やはりウリエルは目立つな。

この街にもレットアージの姿は確認されるが、ウリエルの見た目は普通のレットアージと比べると、少々異質な見た目をしているからな。

通りすがりの人がこっちをちらほら見ている。


さて、機構魔獣ケルベロスの情報を探らないとな。

まずは役所に行ってみるか。


とはいえ、役所の場所が分からないので観光案内所で地図をもらうことにした。


よし、それじゃ行くか。

地図によると、駅から歩いて30分程度のようだ。

徒歩だと少し遠いが、ウリエルで行けば1分もかからないだろう。


―――――――――――――――――――――


役所に着いた俺は、早速受付に話をしに行く。


「いきなりすまない。少し市長と話をさせてもらいたんだ」

「かしこまりました。只今お呼びいたします」


そう言われ、待つこと数分…。


「私をお呼びかな?」

スーツを着た、年齢は60代くらいと思われる短髪の男性がやってきた。


「アンタが市長か?」

「あぁ、私はドンリマタ市長の“レオ”という」


この人が市長か。すごく貫禄がありそうだ


「そうか、俺はリエス。よろしくな」

「それで、要件は何かね?」


「実は、このタマリンドに出現した機構魔獣ケルベロスの行方を追っているんだ。役所に行けば何か手掛かりがあると思って訪ねてみた」


「ケルベロスを?追ってどうするつもりだ?」


「討伐する。タマリンドを脅威から助けたいんだ」


「それは大変ありがたいのだが、ケルベロスは非常に手強い相手なんだ。レットアージ戦闘隊が束になってようやく撃退できた」


「機構魔獣の危険性は分かっている。でも俺は既に機構魔獣を2体倒している。今回も必ず倒してみせる!」


「機構魔獣を2体も!?それはすごい戦歴だ…。分かった。それでは君にケルベロス討伐を任せよう」


「あぁ、任せろ!」


こうして、俺はケルベロス討伐の任務を遂行することとなった。

後はケルベロスについての情報を聞き入れる必要がある。


「それで、そのケルベロスはどんな奴で、今どこにいるんだ?」


「現在はドンリマタ付近の森林に潜んでいると推測される。奴は相当な巨体だが、この広い森林であれば身を隠すには十分であろう」


「そうか、街にやってきたりはしないのか?」


「撃退されて以降、国民が被害を受けたという報告はないな」


「え?でもここから少し離れた村が襲撃された跡を見たぞ?家畜が食い尽くされて、人が食われた痕跡もあった」


「村だと?そのような被害があれば、村民から被害報告があるはずなのだが…」


「報告がない…?」

それってもしかして…。


「どうした?」

「その村の人間、全員食い尽くされたってことかよ…!」

俺は怒りを覚えた。


「一刻も早く見つけ出して倒す!待ってろよ機構魔獣ケルベロス!」















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