第10話 

イフリートの纏う炎は段々と減っていると思われたが、怒り状態に突入したことで最大限にエネルギーを放出し、凄まじい量の炎を纏った。


「まずいな、さっきとは比べ物にならないほど火力が増してる」


「ですが、エネルギー放出量も増しています。稼ぐ時間も短縮できそうです」


「その代わり、攻撃は熾烈になりそうだな」


炎が巨大化していく。

街から離れた場所には誘き出すことができているが、さらに肥大化すれば人里に被害を及ぼしかねない。


今、俺たちも奴からは離れた場所で攻撃しているが、装甲が少しずつ溶けていっているのが分かる。


「なんて熱だ!」

「危険ですね、一旦撤退しましょうか?」


「ダメだ。今から体制を立て直しても、夜明け前までに倒せる保証はないからな」


「ですが、私の矢がそろそろ底を尽きそうです!」

気付いたら、メタトロンの矢は残り2本となっていた。


「そうか、実は俺もロケット砲が底を尽きそうなんだ。使い切ったら遠距離攻撃方法がなくなっちまう。その後は逃げ回るしかなさそうだ」


このロケット砲は、パーツ自体は軽量でレストアージの負担にならないのに、高威力かつ最大20発装填可能。

両アーム合わせれば、合計40発だ。


しかし、予想以上にイフリートの耐久性が高い。

40発のうち、36発を撃ち込んでもまだ倒れない。

残る弾はあと4発だ。


「仕方ない。全部撃ち込んでやるか」

俺は残りの4発を放ち、同時にペガスも残りの2本を撃ち込む。


全て命中。

再度、イフリートを怯ませる。

しかし、まだ倒れなかった。


「ダメだったか」

「ですがおそらく致命傷です。時間経過で奴はいずれ倒れるかと…」


ボォォォッ…


「まずい…離れてください!」

「え?」

ペガスが何かを察知したようだ。

俺たちは奴から離れる。


突然、イフリートの様子が変化した。

「なんだ?」

「奴の最後の切り札…ですか」


さらに纏う炎は巨大化し、イフリートの全てを包みこんだ。

最早、炎を纏う悪魔ではなく、炎が悪魔の形を形成しているようだった。


「これが最終形態か…」

「そのようですね…」


俺たちとイフリートとの距離は、およそ10000メートル。

しかし、この距離からでも非常に強力な熱量が発せられていると分かる。


さらに―――。


「夜明けまであと1時間といったところでしょうか…」


もうすぐ夜が明けてしまう。

まずいな。

早く仕留めなければ。


もう時間がないな。

それにこっちにはもう遠距離攻撃がない。


一旦撤退して体制を立て直すしかないが、もし追ってきたら街全体は火の海になってしまう。


「ゴォォォォ…!」


イフリートは口元に炎を溜めて、ブレスを噴射した。


やはり、今までのブレスで最も巨大で高熱な炎だ。

さらにスピードも格段に上昇している。

こんなの食らえば、間違いなく終わりだ。


ブレスは真っ直ぐ向かってくる。

避けきれないな。

これで終わりなのか…?


ゴォォォォッ!

プシュ〜…。


なんだ?

当たってないのか?

いや、でも確かに…。


「!」 

「リエス、ペガス、無事か?」


「キャンサ!」

「キャンサ様!」


なんとキャンサがラファエルのアームで、イフリートの炎を受け止めていたのだ。


「アタシもいるよ!」

「シグナ!」

キャンサの後部座席にシグナが座っていた。


「ったく、なに俺抜きで勝手に戦い始めてんだよ!」

「お前…イフリートとは戦いたくないんじゃなかったのか?」


「あぁ、でもお前がイフリートと戦ってるって聞いたらほっとけねぇよ!」

「フッ、そうかよ」


すると、シグナが言った。

「リエス、あんた弾切れなんじゃないか?」

「あぁ、まさにその通りだ…」


「全く…スペアの弾は持っておくのが常識なんだよ!」

そう言ってラファエルは俺にロケット砲弾を40発分渡してきた。


「わざわざすまないな、助かった」

「気にすんなって!アイツ倒すんだろ?」


「俺とペガスだけじゃ厳しかったが、今は心強い仲間が2人もいる。これで勝てるぞ!」


「ラファエル防御体制!」

ラファエルが守りの構えを取った。

これで反撃が来てもガードしてもらえる。


「せっかくのロケット砲だ!倒れるまで撃ち込んでやる!」


ドォン!

ドォン!


「グゴォォォッ!」

よし!効いてる!


「リエス、これを使いな!」

シグナがこう言って、ラファエルが何か投げてきた。

「これは…!」


再び、イフリートはブレス発射用意をする。

だが…!


「冷却弾!」

俺はシグナから貰った冷却弾を放った。

炎が急激に冷やされ、ブレスを相殺する。


「ゴォォォォ…」


ブレスを放ったことで、イフリートの火力は一時的に弱まる。


今だ!


「くたばれっ!」


…ドシュッ!


俺はロケット砲を両アームで2発発射する。

イフリートの心臓部に命中した。


これでイフリートの体内にある、火力エネルギー装置は破壊された。


それに伴い、イフリートが纏う炎も急激に弱まっていき、やがて鎮火した。

力を失ったイフリートは地に落ちていく。


機構魔獣イフリート、討伐完了だ。



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