第9話 

「今日は楽しかったな」

「私もです。ありがとうございました」


アニソーダンサ観光を満喫した俺たちは元いた田舎街のホテルへ戻った。


「それじゃ、見せてくれ」

「はい?」


「ペガスのレストアージ、見せてくれるんじゃなかったのか?」

「はい、そうでしたね!こちらです」


ペガスに案内されたのはホテルの地下室。

こんな場所にあるのか?

「ここです」


地下室には、一体のレストアージとレストアージ用の巨大な弓矢の的があった。


「これが私のレストアージ「メタトロン」です」

「メタトロン…!」


そこにいたのは、黄色いレストアージだった。

通常のレストアージと同じく正統派ヒーローのような外見だが、頭上のアンテナが特徴的だ。


「なるほどな。これなら広範囲で敵の機体を察知できそうだ」

「そういうことです」


「ちょっと起動してみてくれないか?」

「はい、もちろんです」


ペガスはメタトロンに搭乗し、起動させた。

目が光り、動き出す。


「このようなこともできます」


メタトロンの武装は弓矢のようだ。

メタトロンが弓を構えて、矢を放った。

見事、的の中心に当たった。


「いかがです?私もお役に立てそうですか?」

「すごいぞ、ペガス!パイロット技術は申し分ないな」

「お褒めに預かり光栄です」


遠距離から敵を察知する広範囲レーダー。

前衛がピンチの時に後方から援護射撃。

かなり優秀な支援特化型と言えるだろう。


「このレーダーがあれば、イフリートの襲撃にもすぐ備えることができるな」


ビーッ。

ビーッ。


なんだ?

急にメタトロンのレーダーが反応した。


「何かあったのか?」

「おそらく、他の機体が接近しているのでしょう。レストアージならいいのですが、一応確認してみましょう!」


俺たちが外の様子を確認しに行くと、向こうの空から巨大な炎が燃え上がっており、住民が一斉に逃げていく姿が見えた。


「うわぁぁぁ!」

「なんだアレ!」

「逃げろぉ!」


いや、あれは炎なのか?

まるで意思を持って動いているかのようだ。

その姿は人型の生物のようにも見える。


「ついに来てしまいましたか」

「えっ?それって…」


「はい、あれが“イフリート”です」

「あれが…イフリート…!」


目の前にいたのは体全体が炎に包まれた怪物だった。

恐ろしい姿をしており、まるで悪魔のようだ。


ウリエルが炎を纏う天使だとしたら、イフリートは炎を纏う悪魔といった印象だ。


「早く倒すぞ!ウリエル、来い!」

俺は無線でウリエルを起動させ、ここまで呼ぶ。


「よし、行くぞ!」

「お待ち下さい!」


突然、ペガスに呼び止められた。


「どうしたんだ?」

「むやみに奴に近付くのは危険です!」


「どういうことだ?まさか、ここまで届く攻撃を放ってくるのか!?」


「いえ、奴には砲撃やビームといった遠距離攻撃は特にありません」


そういえばよく見てみると、イフリートは全身に炎を纏っているが、機械の武装は全く見当たらない。


「あれじゃ機構魔獣ではなくただの魔獣じゃないか」


「外見は…ですよ。あくまで推測ですが、奴の体内には膨大な火力エネルギー装置が埋め込まれていると言われています。それは恐ろしい程の火力と熱量を持っています」


「それってどういうことだ?」


「つまり、近付くだけで奴の火力と熱量に押し負けてしまうんです。存在しているだけで海を干上がらせ、森林を黒焦げにしてしまう強さがあります」


「存在してるだけで!?」


「はい、聞いた話ですが奴が北極にいた時は、何もせず漂っていただけで分厚い氷が簡単に溶けてしまっていたそうです」


「くそっ!近付けないのか。ならどうすればいい?」


「奴のエネルギー装置の火力は太陽光を集めて作っているそうです。ですが今は夜、太陽光はありません。今は奴もエネルギーを溜めることができません」


「それでどうすればいいんだ?」


「奴にエネルギーを全放出させ、最大限に消費させます。太陽光がないのでエネルギーは消費した状態です。弱体化したところを一気に攻めましょう!」


「エネルギーを全放出って…そんなことしたらサンダーソニアが火の海になってしまうだろ」


「エネルギーを分散させながら放出すれば、その分火力も弱まりますがゼロになるまで引き付ける必要があります」


「それを夜明け前まで続けるってことか。夜が明けたら奴のターンで俺たちは終わりだな」


「はい。非常に危険で長きに渡る戦いかと思いますがどうかお願いします!」


「そうか、では出撃だ、ウリエル!」

「メタトロン、行きますよ」


俺たちはそれぞれのレストアージに搭乗し、イフリートに接近していく。


距離はあるはずなのに、ものすごい暑さだ。

すぐ近くまで来たら、俺はウリエルごと骨の髄まで溶かされてしまうだろう。


ものすごい熱量で気候をも変えてしまう。

まさに動く天災だ。


「火力エネルギーは常に放出してる状態なんだよな?ゼロにするにはどのくらいかかるんだ?」


「奴が攻撃を繰り返すのであれば、6時間程度でしょう。その攻撃も恐ろしい威力ですが」


「夜明け前まで粘る前に殺される可能性もあるってことだな」


その時、イフリートがこちらを見た。

どうやら、俺たちを察知したようだ。

まだかなり距離があるのに気付かれたか。


イフリートは俺に向かって炎のブレスを噴射してきた。

予想以上の高火力だ。

フェンリルより圧倒的に強い。


しかし、距離は遠い上に噴射スピードも遅い。

俺はそれを躱し、シグナに搭載してもらったロケット砲を発射する。


砲弾はすごいスピードで突っ込んでいき、イフリートの顔面に命中。


流石ロケット砲だ。

すごいスピードにすごい威力。

そんな攻撃をもろに食らった奴は怯んでいた。


「もしかして、攻めていけば倒せるか?」

「いえ、奴も機構魔獣です。そう簡単には倒れないでしょう」


「それもそうだな。試しにもう一発ぶち込んでみるか」


奴が怯んで動き回っているので、俺は追尾弾を発射する。

また命中だ。


「ゴォォォォ…」


奴は口元に炎を溜める。

さっきのブレスよりデカいのが来そうだ。


「ペガス、頼めるか?」

「はい、あの口を射抜いてあげましょう」


メタトロンは弓で矢を3本同時に構える。

そして、同時に放った3本はイフリートの口元に直撃。


さらにスペアは何本もあるようで、それをどんどん連射していく。

もちろん、口中に命中していく。


「グゴォォォォ…」


口中に攻撃を与え続け、ブレスは不発。

ジワジワとエネルギーを消費させていく。


先程よりも纏う炎の量が、心做しか減っている気がする。

作戦は順調なようだ。


その時―――


キィィィン…


「奴の目が光った…、ということは…」

「怒っていますね」

「ここからが本番ってわけか」





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