不幸

「もう、大丈夫だからね。」

そう私に言ってくれる人がそこにはいた。

という言葉は業火の中、お母さんが言ってくれた言葉と同じで、それを聞いて少女はベッドの上で泣き出した。

この世界ではよくあることである。

それが嫌われ者なら尚更。

少女の瞳には今も激しく燃える業火が映っていた。


とある森の奥深く、鬱蒼とした僻地に藁の家を建てひっそりと暮らしている者達がいた。

彼等こそ少女の同胞

―魔女である。


この世界で魔女は悪しきものとして扱われており、忌み嫌われている。魔女の異様で人間に比べて寿命が長く、身体的成長が著しく遅いのにも関わらず人間を凌駕する力の成長速度で物事を吸収し、しまいには恐ろしき魔眼等を持っていることも理由あって古くから恐れられてきた。この世界には多くの種族が生存する。人間はとてもか弱合い種族。だからこそ人間と容姿が似ていて己のより優れた種族である魔女を人は憎み、羨み、襲ってきた。

住処を追われた魔女達は各地に散らばりこのような僻地で暮らしていた。


とある日の真夜中、いつもの様に寝ていると


「魔女はおらんか。はよー、でてこんか。でてこんとダメぞー。ほらーはよーせんか」


と心の無い口調が真夜中の森に響き渡る。

「人だ。人が来た。」

「早く起きろ」


魔女達はその言葉を聞いて急ぎ飛び上がる。


疥癬かいせん殿そう強く申しては出るものも出ますまい。」

暗くて見えづらかったが、家の隙間から見えるのは甲冑を身に纏うヒゲのはやした老人のような男、おそらく疥癬という者といかにも文官のような正装をした若い男がいた。


男は表情を変えず高笑いをする。

「ハッハ良いではないか。良いではないかせんよ。」

「いけませんよ。もっと寄り添った言い方をせねば」

「ほう、ではおんしがいうといい」

「はい、喜んで引受させていただきます。

さぁ、王自らの命令ですよ。おめでとうございます。魔女を根絶やしにせよとのことです。さぁ、大人しく出てきてください。優しく調理して差し上げますゆえ」

優しい声だったがすぐ悟る。

こいつの方がやばいやつだ。や、どっちもやばいと魔女達は思う。


「おんしもわるよのー」

「光栄にございます」


身を隠すにはうってつけの森の筈だったのに見つかった。なぜ、なのとそんな暇を与えてはくれない。


周囲から火の手が舞い始めたのだ。

そして、火はたちまち

住処を燃やし、直ぐ側まで火の手が迫る。

「 子供達を逃がそう。」

「あぁ、そうだな」

大人達は急ぎ子供達を逃がす。


「お母ちゃん、お母ちゃん。」


「花麗ちゃんはこれを付けて走って。」

母は優しい眼差しでペンダントが付いた黄色く光るネックレスを我が子にかける。

光り輝くそれによって母親の青い瞳とロングヘアの顔がしっかりと見える。優しそうな顔だ。


「でも、これお母さんの。一緒に行こうよ

ねぇ。」

駄々をこねる我が子を愛しそうに見つめ

「早くおいき。きっと、このお守りが守ってくれるから。いざというときはペンダントを開けて飲むだよ。」

と諭す。

「やだよ。やっぱり一緒に行こうよ。」

「大丈夫。私の子だもん。二ーって笑って」

「…」

「花麗ちゃん、大好きだぞ」

「私も」

愛の言葉を娘の肩に手を添えて言った後、母の顔が少しずつ変わっていく。

少しずつ黒く、頭からは角がそして固そうな体へと変貌していく。

それが、合図だということは分かっていた。

魔女はいざというとき異形の姿を表す。それは戦う時。


「さぁ、行って。」

母はそう言うと娘の体を回し背を押した。

小さな身体ではどうやっても抗うことができなかった。

目的地もなく、不安が押し寄せる中、整備されていない道を走る。

魔女の大人達は子供達が離れたのをみると火の手の方へと向きを変えつつ

姿を変えた。その黒い姿は闇夜に混じる。

「花麗ちゃん…」

そこにいない我が子を心配し、母は後ろを見る。

異形となっても優しい表情は変わらない。


その頃、花麗は森の中をひたすらに走っていた。


息を切らし、足をもたつかせながら精一杯走る。


見えるのはうっすらと枝木が直前で見えるのみ。視界と道の悪さ、恐怖心、焦燥感などが幼子の体には重くのしかかる。


次第に体が重く、足を上げるのがきつくなり、気持ちが悪くなっていく。

視界がぼやけていく。


口を両手で押さ吐くのを我慢し、足を引っ張りながら力を振り絞った。


けれど、「 グルじいぃ」と最後の言葉を放つと

倒れ込んでしまった。

しかし、天は見放してはいなかった。

「この子は…」

光るペンダントを見つけた人が少女を見つけたのだった。



「うう…、イタ」

目を覚ますと風景が一変しており、女の人もいた。

少女は辺を見渡す。

本がいっぱいあって、整理された小綺麗な部屋だった。

「もう、大丈夫。ちょっと待っててね」


少し困惑していたが、


「はい、どうぞ」

と優しく飲み物を渡してくれる女の人を見て悲しみが込み上げてきて泣いてしまった。


女の人は少女を抱きしめ、よしよしと背中を擦る。

温もりに触れ、安心したのだろうか再び目を閉じた。


起きると女の人もベッドで寝ていた。けれど、すぐに目を覚ます。

「おはよ。よく寝れた」

「はい」

少女はすぐ体を起こし女の人に話しかける。

「ここはどこです。」


「ここは、私の家だよ。私はね司瑠星蓮見というものです。

森の中で倒れてるんだもん。心配だったよ。」


「なんで、なんで、助けてくれたのですか。

私、魔女ですよ。人間様ですよね。」

歳に似合わず礼儀正しい少女に関心したのか

「 えー、関係ないよ。でも、どうしたの。お名前は出身は」

と頭を撫でながら笑顔で聞いた。


少女は少し驚いた表情をしていたが、ことの経緯を話した。全部細かく。

「うう…大変だったね。」

少女の境遇が彼女の胸を貫き、感動の涙を浮かべる。

「助けてくれて…ありがとうございます。」

「いいって、いいって」


そして、予想だにしない言葉を返す。

「私の家族にならない。」

「え…」

「ほら、寝る所もないんだし。せっかくだから」

「でも、ご迷惑に絶対になります。」

「家はね、息子と二人暮らしでちょうど娘を欲しいと思っとったんよなー」

と独り言の様に呟く。

「でも…」

「よかったら、だけどさ。どう。」

心躍ったどうに私は返事を返した。

はいと。

「うん、宜しくね。花麗ちゃん」

「お願いします。」

少女は緊張しながらも優しさに触れて温かな気持ちになっていた。

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