第38話 JK(?)と勉強会
今日は久しぶりに仁志と郁人が2人だけで一緒に勉強をする日である。
水野谷が部活で忙しくて来れなくて中々2人きりになる機会がなかった。
仁志が郁人の部屋に入ると、郁人は心底楽しそうな笑顔を仁志に向ける。
「仁志。ちょっと待ってて」
郁人はそう言い残して部屋から出ていった。仁志は郁人が出ていったことでワクワクとした。
この状況で郁人が出ていくということは、それはつまり彼女(?)の出番である。
仁志は興奮する気持ちを抑えながら静かに待っていた。
ガチャっと部屋の扉が開く。部屋に入ってきたのは女子高生の制服を着たさなえだった。
「どうかな……?」
「か、かわいい……!」
仁志は口から思わず本音がこぼれてしまう。郁人は仁志の言葉ににこっと笑う。
「本当? 良かった」
大好きな仁志に褒められて郁人は安心したようにほっとした。
「その制服は一体どこで?」
「あー、これ? お姉ちゃんから借りたんだ。お姉ちゃんはもう高校卒業しているから使わないし」
「よく借りられたな……」
姉から制服を借りるなんてハードルが高いことを平気でやってのける郁人に仁志は驚いた。
「まあ、お姉ちゃんは僕がどういう店で働いているのか知っているからね」
「それでなにか言われなかったのか?」
女装して給仕をするようなカフェ。それを家族にオープンにするなんて中々に胆力があると仁志は更に驚く。
「まあ、時給が高いからお姉ちゃんも働きたいって言ってた。無理だけど」
「確かに……女装カフェで本当の女性がいるのはなんかちがうな」
思ったよりも郁人は大胆であると仁志は感じる。
「だから、この制服もお店のイベントで使うからって適当な言い訳をしたら貸してくれた」
「そうだったのか……」
制服姿のさなえが仁志の隣にちょこんと座る。短いスカートの中が見えないようにさりげなく手で押さえるその仕草は女子そのものである。
「それじゃあ勉強しよっか」
「ああ」
女子高生となったさなえと一緒に勉強することで仁志のやる気が普段にも増して上がる。
水野谷と一緒に勉強する時は郁人は絶対に女装はしてくれなかった。こうして、さなえの特別な姿を見られるのも自分だけの特権である。
そう思うと仁志は優越感が沸いてきた。さなえもあの店で働いているから、それなりに客から人気を得ているのであろう。
そんな客たちがお金を積んでも見られないであろう姿。それを仁志が独り占めしているのである。
さなえが体を動かすと仁志の鼻にいい匂いが香る。それは学校でも嗅いだ覚えのある匂いである。
「さなえちゃん。なにか付けてる?」
「あ、うん……その、女子高生に人気の制汗スプレーをちょっとね。どうせならそこまでなりきろうと思って」
視覚と嗅覚。そして、女声のお陰で聴覚までも本当の女子高生にしか見えないさなえ。
仁志はそんなさなえと一緒に勉強を始める。
「……仁志。この問題間違っているよ」
「え?」
「ちゃんと集中している? こんな基礎的な問題を間違えるなんてらしくない」
さなえが仁志の顔を覗き込む。顔を近づけられると仁志の心臓がバクバクと鳴り、少し後ずさってしまう。
「わわ……えっと……」
「もしかして、またエッチなことを考えていたんでしょ?」
さなえが仁志を
「わっ……」
「別に俺はここで保健の授業を始めたっていいんだぞ」
仁志に迫られて、さなえもドキドキとする。そして、目を瞑り唇を少し突き出してキス待ちの顔をになった。
仁志もそのさなえの要望に応えるかのように軽くキスをする。2人は顔が赤くなった。
「えへへ。仁志とキスしちゃった」
「なんだよ。お前だって人のこと言えないくらいスケベなこと考えてたんだろ」
仁志はさなえの股間を見た。スカートを盛り上げているそれは、さなえも相当ガマンしていたことが伺える。
「だって……最近してなかったから」
さなえは目を潤ませながら言う。仁志はさなえを抱きしめて、ベッドへと押し倒した。
「あ、ちょ、ちょっと……」
さなえはなんだか急に気恥ずかしくなった。この前の時はホテルという普段行かない場所での行為だった。
しかし、今日は普段使っている自室での行為に及ぶことになるわけで、日常の中でそういうことをするのになんだか罪悪感めいたものを感じてしまう。
「そ、その……勉強しないと……」
さなえはなんとかこの状況をごまかそうとした。しかし、仁志の若い性欲を抑えられるはずもなかった。
仁志はさなえの体に手を触れて撫でまわす。
「もう勉強どころじゃないだろ。さなえちゃんが俺を挑発するのが悪いんだ」
「んっ……」
「たっぷりとその体にわからせてやらないとな」
◇
さなえの乱れた制服とウィッグ。そして、お互いの荒くなった息。まだまだ暑いこの季節。クーラーが効いた部屋でも運動をすれば汗をかいてしまう。
「もう……今日は一緒に勉強をする日だったのに」
「まあ、いいじゃないか。これも社会勉強ってことで」
「なにが社会勉強なの。あーあ。もう……こんなに……」
さなえは使用済みのゴム製品をティッシュで包んでゴミ箱へと入れた。
「なんだよ。さなえちゃんだって楽しんでいただろ」
「それは……まあ、そうだけどさ」
それを言われるとさなえも何も言えなかった。そして、さなえはあることを思いつく。
「こんな風に勉強会を台無しにするってことは、仁志はわたしより良い点数取れる自信があるんだね?」
「え? いや、それはないけど」
「もし、次のテストでわたしが勝ったら……ひとみちゃんとエッチしたいかなって」
「んな!」
さなえの提案に仁志は言葉に詰まる。郁人に勉強で勝てるわけがない。それは前回の期末試験でわからされてしまったことだ。
「大丈夫。わたしに勝てばいいだけなんだから」
「いやいや。そんなことできるわけないだろ」
「なに? わたしに負けるのが怖いの? 散々、ベッドの上では強気だったくせに」
さなえは仁志を小バカにするように笑う。仁志はそれに乗せられやすくて、なんとかさなえをわからせてやりたい気持ちになった。
「わかった。わかったよ! それじゃあ、俺が勝ったら、またコスプレエッチしてもらうからな!」
「いいよ。女子高生姿でもナース服でもメイド服でも、なんでも着てあげるよ」
「言ったな!」
こうして2人の絶対に負けられない戦いが始まった。ただ、2人のどっちが勝っても結局やることには変わりないのである。
一方、その頃。郁人の部屋の前。廊下にて茉莉香が顔を赤らめて立っていた。
茉莉香はそそくさと自室に戻り、そしてベッドに飛び込んで枕に顔をうずめた。
「あ、ああああ! 聞いちゃった……聞いちゃった……え? 2人ってそういう関係だったの……もう、やることやっちゃったの……!?」
仁志と郁人の行為をしっかりと聞き耳立てていた茉莉香はベッドの上でバタバタと悶えていた。
かわいい弟がいつの間にか大人になっていた。しかも、相手は同性。そのことに脳の処理が追い付かずにパニックを起こしてしまう。
茉莉香は悩む。どうしよう。姉としてなにか口を出すべきなのだろうかと。
しかし、2人はまだ茉莉香が気づいていることに気づいていない。ここはそっとしておくのが年上としてのやるべきことなのだろうかと。
茉莉香は郁人が決めた道ならば、それを応援するつもりでいる。身内である自分が理解しないで誰が郁人を理解できるものなのだろうかと。
茉莉香はぐっと拳を握って決意をした。この2人のことを温かく見守ろうと。
ただ、それはそれとして複雑な思いがある。
自分の制服を使ってそういうことをされるのは茉莉香としてもなんとも言えず、もやもやとすることだった。
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