第33話 たっくんの感覚過敏

「たっくん・・・大丈夫?」


ある日の授業中、私はたっくんにささやいた。いつものたくみじゃないって思って、心配になっていたの。


「瀬奈っち、たっくんやばいかも」


「・・・ほんとだ」


「アレが起きないかな・・・?」


「不安だよね」


授業中、たっくんはうるさいと感じることが多い。それは、発達障害の特性である「感覚過敏かんかくかびん」というもの。たっくんは普通の人なら大丈夫と思うような声量でもうるさく感じてしまう。まさに今、起ころうとしていたのだった。


「たっくん、外いこ」


「ん・・・?あぁ」


「せんせー、ちょっとたっくんと外行ってきます!」


「はい、わかりました」


やばいと思った私は、たっくんを連れて自販機までいった。


「何飲む~?」


「水でいいよ。今ジュース飲みたくない」


「水でいいんだ。じゃあ愛央もそれにする!」


お水を二つ買って、生徒棟のランチルームで休憩。たっくんは女子の多いクラスにいることもあって、さぞ疲れやすくなっていたのだと思う。


「彼女っぽいでしょ」


「妹がいるだけで違ってくるなぁ」


「瀬奈が彼女になって、私と瀬奈の二人でサポートするようになったもんね」


「だなぁ」


「体、落ち着いた?」


「びみょーだなぁ」


「ゆっくりしてから戻ろっ。ずっと愛央がついてるから」


そういって私はたくみの横に座った。忙しいのもわかるし、つらくて大変なのは、妹の私が一番理解してる。だからこそ、たくみに寄り添うことが必要なの。


10分経って、たくみが水を一気に飲み干した。


「行こ」


「もう?」


「おん」


「ぎゅーだけする!」


「はいはい」


たくみに甘えたら私も落ち着く。それが、兄妹の絆で創ってきたもの。たっくんが落ち着けば、私も甘えて落ち着く。それで教室に戻ることにしたの。


放課後、たくみの姿は本社にあった。学校が終わって、会議があったから。


「えーと、この件に関してはこっちのほうがよろしいかと思います」


「なぜでしょうか?」


「確かに、おっしゃることはよくわかります。しかし、こちらの案であれば、現状と変わらぬサービスを提供できると考えるからです」


「なるほど・・・」


「会議の途中ですが、私はここで失礼します」


「お疲れさまでした!」


会議室の隣は、かつての私たちが暮らしていた場所。たっくんは、そこに一晩泊まることにしたみたい。


「終わったぁ、はー疲れた」


「おかえり〜!ぎゅーっ」


「おかえりっ!大好きなたくみのためにご飯作ったよ!」


「ただいま。ありがと。食っちまうか」


「たっくん疲れた?」


「ガチ眠い」


「疲れちゃったからね。たくみ、一緒に寝よっ」


「そうそう!たっくん頑張り屋だから!」


「フォローになっとらん」


夜ご飯を食べ終わったたっくんは、なんと翌日朝5時まで大爆睡。心配になるくらい寝ていた。


「ちー、寝すぎた」


「もう、たっくんったら・・・」


「いいじゃん、これでひたすらたくみの応援できるよ!」


「さっさと帰るぞ。せっかくの土曜日で出かけるのには最適なんだから」


感覚過敏があっても、周りの人の支えは必要。たくみはそれをずっと言ってきた。頑張るたくみのために、いっぱい助けなきゃね。

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