第七章

 「陛下、ヴェルへイム殿の乗ったヘリがベルリン郊外に在る森に落ちたとの報告が来ました」

 カエサルは部下からの報告を聞いた。ルフテンブルグの本意ではないとは言え、王家に逆らって領土拡大しようとした馬鹿な男を王家の身分から外したことはルフテンブルグに取って利益であるが、このまま帝国に滅ぼされるのであれば滅亡することには変わりない。帝国にとってルフテンブルグは工業技術の発展した魔法国家だ。その技術は魔法国一位に君臨している。放っておけば帝国にとって脅威である。帝国も多数の民族を束ねる中で、今の国土は手狭になりつつある。国土を拡大するにはルフテンブルグは邪魔な存在だ。国境を隣接するに山岳要塞アウシュヴィッツが立ちはだかっている。航空侵攻もこの要塞上空を通るのだが、対空兵器も充実している。それに灰色の戦闘機が地下から飛び上がり、その入口は普段は地上の土に偽装して場所が分からん。それにひとつではなく複数あるのだから、一度の戦闘からそこを空爆しても別の場所があるので、戦略上はほぼ意味のない。しかも地下で繋がっているようで、ひとつを撃破しようとも地下で戦闘機を移動されては結果的に数は変らん。そこで、速度は劣るものの魔法鉱石をふんだんに採掘できる帝国の特権から飛行船艦を飛ばした。森の中で戦車走行は分が悪く、戦闘機ではあの堅牢な要塞攻略は最も厄介だ。

 無数の対空砲火。高高度でもミサイルが到達する技術に帝国の技術は遅れていた。実に一世紀差の技術力であるが、それでも、帝国が帝国であるのは無限に近い魔法鉱石の独占権と教皇領を帝国内に有している政治発言権に、圧倒的魔法族の多さからだ。工業化してはいるものの帝国の魔法族は多い。それも、一級が多いのはそのまま戦力になる。航空機は魔法族しか扱えぬ。動力が魔法鉱石に依存する魔法国家において、戦争参加義務の在る一級魔法使いは、その数が戦力である。

 同時に魔法回路の技術にも長けている帝国には暗号解読を専門にする非戦闘職の軍人も居る。彼らは魔法回路の並列計算によりほぼすべての暗号を解読できる。例えばこの世のすべての書物を記録し、敵国がその書物の行とページ数、そして段をそれぞれ文章として選んだとしよう。その書物を”聖書”(暗号解読用のツール)と称して、ラジオや手紙にその情報を出す。例えばAの十三であればAの数字の十三行目となるようにだ。その書物が何であるのかは帝国にはわからない。が、万物を記録できる媒体が在るとして、それを扱える技術があるとして、同時に処理できる機械を持つとしたら、暗号は容易く解読できる。

 例え数万年掛かることでも、数時間で解析できる。

 魔法回路に組み込まれる黄金の数でこの時間は変わるのだが、そこは教えられんし、教えたとしても真似できんだろう。なにせ魔法族にしか使えぬのだからな。


 この書物を書いたものは知らなかった。量子コンピューターが実現しつつ在る世界の事を。だから気を悪くしないでほしい。


 「ふん、あのような郊外に落ちたところで時間稼ぎにもならんだろうに。ステレスヘリでも使えばよかったものを、頭の悪い王子も居たものだ」

 「どのように対処いたしますか?」

 「見張っておくだけにしろ、身内の不始末は奴らにでもさせておけ。そこまで情をかける男でもないだろう。ビスマルコは」

 仮にも国の王を冠した男である。弱味など見せるはずがない。

 「厄介なのはこの要塞だ。過去にユダヤ人共を恐怖と絶望に陥れた雪山の収容所を、自身の地位向上のために国家に反逆し、軍人になれるまでに高めたこの要塞、アウシュヴィッツ要塞を陥落させることだ」

 飛行戦艦の前には雪に覆われて入るが、多くは黒くなったコンクリートに身を守られた無敵の自然要塞、アウシュヴィッツ要塞が眼の前に在る。標高六千メートル級。周囲に生物は居ない。山からの風邪で飛行船は操縦困難。戦闘機でも危うい中彼らは自然と飛ばす。

 帝国は強風でもびくともしない最大重量二千トンの飛行船艦五隻を飛ばして来た。燃料としてジェットには魔法鉱石があり、魔法国家ですらその存在を確認していない飛行鉱石がこの軍艦を飛ばしている。ジェットエンジンはただの推進機でしかない。飛ぶための燃料はこの水晶のような青い魔法鉱石、飛行鉱石だけである。これこそが心臓部である。破壊されても爆発はしないが、砕かれてしまえば飛行する力は永遠に失われるので、帝国はこの魔法鉱石の存在を絶対死守したいのである。故に飛行戦艦は重要な局面でしか出さない。アメリカで言えば空飛ぶ国家予算ステレス爆撃機のような存在である。


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