第三章

 ルフテンブルグ王国、その国王、オットー・フォン・ビスマルコの嫡男であるヴェルヘイムは特級魔法使いでも別格の白銀の髪を持っていた。王族でもこの髪の持ち主は本当に稀である。

 彼は舞踏会に出席していた。だけど彼の目的は貴族への交流が目的ではない。貴族社会のことを彼は駒としか見ていなかった。水銀の魔法使いである彼は同時にチャームの魔法使いでもあった。王族に金属系の魔法使いが多いのは製鉄技術は人類発展に欠かせないものであるからだ。古代において銅から始まった精錬技術は鉄の時代になると同時に戦争の時代に入った。王国時代に突入すると優れた治世が求められた。多くの国民を養うために戦争は必需となった。そうして生まれた製鉄技術は各国で独自に発展した。その技術は秘匿とされ、いつしかその研究は王族の特権となり、その過程で魔法が生まれたのだ。

 魔法とは科学ではない。科学から科学が生まれたとして認識する工業国は魔法のことごとくを迷信だと断定して、発展とともに魔法を駆逐するのに対して、科学と魔法は単純な概念の違いとして、科学から魔法が生まれたと考えるヴェルヘイムはなかなか異端児だった。多くの魔法族は魔法は精霊信仰から生まれた自然の摂理だと考え、自然の法則をひとつ理解するごとに魔法がひとつ生まれると信じていた。

 「ふん、私の人形共はなかなかうまく動くな」

 ヴェルは体に水銀を戻した。彼は水銀人形を操ることができる。光の屈折を扱い銀色の水銀に凹凸を持たせて光の屈折から三原色を調節してローマ兵の偽装を施す。

 水銀を身体に宿す事に成功したヴェルは本来は猛毒である水銀と体液の調節からその毒を克服した。

 「ヴェル様、楽しそうですね」

 貴族の令嬢が言う。

 彼女たちはヴェルに葡萄を差し出して食べさせる。彼女たちはヴェルヘイムのチャームで操られていたが、チャームは実は最初の一回程度であった。その後はヴェル自身の美貌とサディスト的な性格に魅了された者が集まっている。

 「次の戦争でローマとヒエルランドが争うと思うと面白そうでな」

 「あら、残虐。ビスマルクは参加するのですか」

 「さぁな、ビスマルクとヒエルランドは距離を置いている。ローマが助力を求めてきたらどうかは知らんが、陛下は寛大な方だ。兵器程度は送るかもしれんな」

 ビスマルクは工業的な力強さと電光石火という戦車戦闘と航空戦闘を得意とした戦略を採用している。ヒエルランドのように甲種ドラゴンを使う航空戦闘をしない理由は単純に工業化と親和性の高い魔法を行使するからだ、だから工業化にあまり抵抗はない。

 「さて、宴を楽しもうではないか」

 そう言いながらヴェルヘイムは令嬢にキスをした。彼の口から令嬢へと猛毒の水銀が入る。その水銀は少しずつ体内で馴染むようになっていく、蝕む毒は死ではなく洗脳を司る。脳の神経系に影響し、判断を鈍らせ、信仰に近い信頼をヴェルに向けるようにしている。

 彼の画策は貴族社会を支配して国を乗っ取ることだ。貴族全てを支配すれば王国全土を支配できる。やがては王位を乗っ取れる。

 反乱はローマ敗北後だ。

 彼の計画ではローマの敗北は確実であるが、果たしてそう計算通りに行くであろうか。

 戦争とは魔物である。

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