第33話 最終手段

 まずはこれ以上刃向かう気はないと意志表示を見せる必要があった。大口径のプラズマ銃をゆっくりと地面に置き、全員に同じことをするように促した。

「おい、正気か?」

 ボルファルトは、パルマンの行動をいぶかしんだ顔をした。


「正気です、隊長。俺に考えがあります。みんなも銃を置いて、両手を上げるんだ」

 パルマンは両手を上げながら小声で言った。


 ここで汎用人工知能AGIを破壊されれば、せっかくの長官の奇策が無に帰す。それに、このままでは夢を打ち砕かれたベルハラートを制止させるのは不可能だ。


 まずは相手を優位に立たせて、交渉に持ち込むのが最良の方法だと思えた。その中で、何か説得の糸口を探り出すしかなかった。

 ボルファルトを含む隊員たちもパルマンの行動にならった。

「なぁ、俺の話に耳を傾けてよく考えてみてくれ。さっきまでそれは間違いなく〝神〟だったじゃないか? それを爆破すれば、崇拝する〝神〟を自らの手で破壊することになる。本当にそれでいいのか?」


「ガキ風情が知った風な口を利くな! 〝神〟はもう二度と目を覚ますことはない。お前らが一番分かっているくせにまだ戯言ざれごと)をぬかすか!」

「じゃあ、それを破壊することに何の罪悪感も抱かないのか? そのAGIを覚醒させるのがあんたの生き甲斐だったんだろ?」

 最初は直球を投げてみた。絶対に何か反応を見せる自信があった。


「生き甲斐? 私の生き甲斐は……」

 ベルハラートは言葉の途中で口ごもった。

(ここだ! ここを突いていくんだ!)

 パルマンは相手の弱点を見抜いた手ごたえを感じ取った。


「あんたは〝神〟という存在にすがった。救いを求めてたんだろ? もちろん、初めからこんな破滅的な考え方じゃなかったはずだ。何かがあんたの心を変えてしまった。その原因について話してくれないか」

「私を変えた原因……それは……」

 急にベルハラートの目の色が変わった。


「そうだ! 全ては愚かな父親のせいだ! 奴は人類こそが更なる進化を遂げるべき存在だと馬鹿げた妄想に取りつかれ、超人化計画などという愚行に走った! 人間が恐れ多い〝神〟に及ぶはずがないのに! それも、愛する兄をその実験の道具に使いおったのだ!」

 今までベルハラートは父親に溺愛された不遇な兄を恨んでいたと考えていたが、実際はその逆だった。しかも、慕っていた兄を実験の道具にして殺したと思っているようだ。この事件の全ての発端が垣間見えた気がした。


 さらに溜め込んだ鬱積を吐き出した。


「我がパルロデミオ家は偉大な〝神〟の義脳ぎ のうの設計にも携わった脳科学者の家系だ。それにも拘わらず、奴は人類こそが唯一無二の存在だと言わんばかりに生物学者となった。我が一族の恥さらし者になったのだ!」

「あんたはそんな父親を見返したかった。そこで、渾沌の女神エリスの神格化を思い立った?」

 パルマンは試しに今回の同時多発襲撃事件に繋がる動機の深部を突いてみた。的の中心ではないにしても、外側には命中しているはずだ。


「いや、そうではない。私が憤慨したのは身の程を弁えない奴の計画を支持する愚か者どもが山のように現れたことだ。だから、〝神〟を目覚めさせることでそいつら全員に思い知らせてやる必要があったのだ! 人間などたかが知れた存在であることを!」

 ベルハラートの言い分は大きく偏ってはいるが、全てがただの妄想による発言でもない。

 現在では人工知能AIでさえ、人間の頭脳を凌ぐ勢いだ。それをも遥かに凌駕するAGIが自ら意志を持ち、独自の判断を下せるとしたら、それは神に最も近い存在と言っても過言ではない。


「あんたが何を言いたいのかは分かった。俺も目の当たりにしたが、AGIがその真価を発揮すれば、神になり得るかもしれない」

「今さら気付いたところでもう遅いわ!」

「まだ俺の話は終わってない。あんたの父親が目指した道も理解できなくない」

「何だと!?」

 この話題を続けても、ベルハラートをただのぼせ上らせるだけだ。別の角度から追い詰める必要があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る