第30話 苦しんで死ね
「
ヴァネッサが周囲を見渡しながら口に出した。
「ああ、彼ですか。本当に良い仕事をしてくれましたよ。道具としてはね。皆さんは使い物にならなくなった道具はどうします? そうです。彼には弟の後を追ってもらいました」
「お前!」
ミハエルが憎悪を剥き出しにした。
「あいつ、嘘は言ってないよ」
「もう良いですかね? さぁ、あなた方にも死んでもらいますよ!」
サミュエルは戦いの開始を告げるべくリモコンのスイッチを押した。それと同時に、二機の殺戮機兵は動き出し、円盤形の薄い隙間から何かが飛び出した。
それは突風のようで少し違った。真空刃というものだった。
全員が思い思いの方向に跳躍して避けた。だが、真空刃は連射が可能だった。すかさず隊員たちはもう一度避けるしかなかった。その連続が続いた。「そうです。死ぬまでそうやって踊ってなさい!」
サミュエルは高らかに笑い声を上げた。
「アリシア、ライフルだ!」
パルマンは大声で叫んだ。
アリシアの使うスナイパーライフルはヴォルテックスに置いてきた。だが、その射程までは真空刃は届かないはず。もはやこれしか打つ手はなかった。
「分かったわ! みんな、待ってて!」
アリシアは何をすべきか悟ったように一時的に戦線を離脱した。
「チッ、姑息な手を思いつきましたね。でも、それまで持ちこたえられますか?」
サミュエルはまだ余裕の笑みを崩さない。
「隊長とミハエルとヴァネッサは右に、俺とロマーディオは左に避けて背後に回り込むんだ!」
(これで無駄な体力の消耗は防げる!)
全員がパルマンの言われたように動き出した。
幸運なことにこの場所は広々としていて、避けるには申し分ない。
「ミハエル、お前の力を信じてるからな!」
「言われるまでもない!」
「何をしている! 早くあいつを殺しなさい!」
二手に分かれた上に、その一方でも一人が抜きん出ている。ミハエルに狙いを定めたためにボルファルトとヴァネッサの二人が完全に的から外れた。その隙にボルファルトは炎天の力を宿らせた
狙いすましたとおりに見事胴体を貫くと、瞬時に殺戮機兵は爆炎に包まれ、跡形もなく焼尽する。その直後、アリシアのスナイパーライフルから撃ったプラズマ粒子の弾丸がもう一機の殺戮機兵の頭部を何発も貫通し、撃沈させた。残すはサミュエル一人だ。
「そんな馬鹿な――!?」
「現実を受け入れられないって顔ね。恨むなら、あたしらを甘く見た無知な自分を恨みなよ」
とても冷酷な口調でヴァネッサは狼狽するサミュエルに迫り寄った。その手には毒天の力を宿らせた棘のある頑丈でしなやかな長鞭を持っていた。スーツの生地ぐらいなら切り裂くのはいとも容易い。まずは威嚇するために地面に力強く打ちつけた。
「や、やめてくれ!」
「大丈夫よ。そんなに痛くしないから」
ヴァネッサは長鞭で怯えるサミュエルの右手をバシッと力強く叩いた。スーツの袖は簡単に引き裂かれ、僅かに鮮血が流れ落ちる。この
突然サミュエルの体が小刻みに痙攣し始めた。立った姿勢を維持できずに地面に倒れ込んだ途端、今度は嘔吐する。
「は、激しい
「今、あんたの体を遅効性の毒が回っているの。ジワジワと訪れる死の恐怖に怯えて死ぬのがあんたには相応しいと思ったからね」
ヴァネッサは屈み込むと、じっとサミュエルの目を見つめたまま言ってのけた。
「みんな、お待たせ!」
何も知らないアリシアが戻って来た。これで再び全員が揃った。
「パルマン、さっきは素晴らしい指示だった」
「隊長、それよりも早く連中の後を追いかけましょう! AGIが奴らの手に落ち、
「ああ、そうだな。今は先を急くぞ!」
ボルファルトの言葉に全員が力強く頷いた。
AGIが活動期に入った瞬間、この巨大都市テンブルムがどうなるかは誰も予想がつかないはずだ。《黄昏の粛清者》の黒幕にしても、想像で考えているに過ぎない。
状況によってはこの巨大都市が崩壊するかもしれなかった。そうならないためにも、全力を尽くして防がなければならない。
(俺たちにしかそれはできない――)
開け放たれたゲートを通過しながら、パルマンの固い決意は揺るぎないものになっていた。
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