第27話 放火された邸宅

 本部の屋上から飛び立つこと約一時間。絶滅特殊部隊アナイレート・フォース隊員メンバー)たちを乗せたヴォルテックスはレオンネクサス地区に来ていた。


 ベルハラートの邸宅は富裕層でも低階級層の家々が建ち並ぶ場所にあった。しかも、住宅街から少し離れていて、付近は木々に囲まれていた。自ずと隣人とは疎遠なのが窺い知れた。


 ヴォルテックスは隊員全員が綱梯子で降りるまでの間、安定性を保ちながらホバリングしていた。それが完了すると、付近の着陸できる場所まで飛び立っていった。


 ベルハラートの邸宅は跡形もなく黒々と燃やし尽くされていた。これでは死体の損傷も相当酷かったはずだ。


 都市警察シティーポリス)の調べだと、この家で殺された者全員にレーザー光線式の銃火器で撃たれた傷跡が残っていたようだ。要は、秘密結社の連中は一度皆殺しにした後で放火したことになる。


 八人の天才脳科学者の末裔が全て富裕層の住人だったわけではない。一戸建てに住んでいたわけでもない。マンションに住んでいる者もいた。それなのに、敢えてこの家だけを放火した理由が謎のままだ。


「この有様じゃあ、この家の捜索は無意味だな」

 ロマーディオが全員の思いを代弁した。そのとき、研ぎ澄まされたパルマンの聴覚が付近の木々が不自然に揺れる音を聞き逃さなかった。

「みんな、銃を構えるんだ!」

 押し殺した声で伝えながら、視界を熱源探査モードに切り替えた。すると、明らかに人間と思われる熱源反応が確認された。しかも、大勢いる。両手には何かを携えていた。


「そこに隠れているのはお見通しだ。大人しく手を上げて、出て来い!」

 大口径のプラズマ銃をホルスターから抜くと、パルマンは視界を通常に戻しながら威圧的に声を張り上げた。隊長のボルファルトを含めた他の隊員たちもそれぞれが手にした銃火器を木々が生えたほうに向ける。


「バレちまったんなら、しゃぁねぇ! さすがは絶滅特殊部隊だけはある。まぁ、気付かれたところで痛くも痒くもねぇけどな!」

 待ち伏せによる奇襲を見抜かれたとは言え、優勢な状況は変わらないとでも言いたげな声が聞こえてきた。


 まず瓜二つの顔をした巨漢で屈強な体つきの男が二人現れた。その背後からレーザー光線式マシンガンを構えた二十人ほどの秘密結社の手下たちが姿を見せた。


「そんな馬鹿な!? ここは都市警察によって立ち入り禁止になってたはず――」

「そいつらならさっき全員ぶっ殺してやったぜ!」

 驚きを隠せないボルファルトの疑問に対して、オズモンドは余裕綽々と返答した。

「あんたら、まさかウォルスタイン兄弟!?」

「おう、そのとおりよ! 兄貴、俺たちやっぱり有名だな!」

 ロズウェルは名前が知られていることに喜びの声を上げた。


 パルマンもその名前は耳にしていた。抹殺者イレイザーという裏稼業を生業にする者たちの通り名だ。


(とうとう本当の殺し屋を雇ったか――)

 このまま撃ち合えば、無傷ではすまない。無論、それは相手も同じはずだ。最初に抹殺者の二人を殺すべきだが、何も持っていないのが不気味に思えた。


「さて、始めるとしようか!」

 オズモンドは巨大な球体に幾つもの先端の鋭い突起の付いた大槌の砕珠サイマナを召喚した。それに続いて、ロズウェルも二本の手斧の砕珠を召喚する。


「お前らの腕じゃ、撃ち合っても勝てねぇだろ。さっさと瞑想トランス状態ってやつになるんだ!」

 オズモンドの号令の下、秘密結社の手下たちは臆した様子も見せずに液体の入った注射器を首に打った。その直後、次々と地面に倒れていく。


「まずい! みんな、あいつらが起き上がる前に殺すんだ!」

「そうはさせねぇぜ!」

 オズモンドは大声で叫ぶと、持ち上げた大槌を力一杯大地に叩きつけた。すると、大地震のように地面は大きく揺れ動き、幾重にも亀裂が走る。


 隊員たちは凄まじい震動に体勢が保てない。その直後、パルマン目がけてロズウェルが襲いかかって来た。

 両方の手斧の刃から噴き出す物凄い高圧の水流は空中で一つに交わり、途轍と てつもない切れ味で振り下ろされる。


「一刀両断じゃぁ!」

 命中する寸前でパルマンは地面を転がって、どうにか回避する。高圧の水流の威力で地面は一瞬で寸断された。だが、やられてばかりではない。寝転がったまま、大口径のプラズマ銃を三発撃った。二発は紙一重でかわ)されたが、一発だけロズウェルの右肩に命中した。血しぶきを飛び散らせ、呻き声を上げながら衝撃で後方に吹き飛ばされる。


「よし!」

 パルマンは手応えを感じながら起き上がった。そこへ、今度はオズモンドが現れた。

「よくも、俺の可愛い弟を!」

 オズモンドは怒り任せに大槌を振り回す。パルマンは後方に飛びずさって避けた。

 少し距離を取ると、愛用のプラズマ銃を腰のホルスターに戻し、氷天の力を宿らせた二本の小剣グラディウスを召喚する。これなら一撃でも当たれば、即座に相手を凍死させることができる。


「これで一気に片付けてくれる!」

 周囲の状況も変わりつつあった。

 強靭化した手下たちが起き上がり、他の隊員たちに向かって襲いかかる。パルマンを除いた五人だと、一人当たり四人ほど殺さなければならない計算だ。


「みんな、砕珠を召喚するんだ。そのほうが手っ取り早い!」

 雷天の力を宿した大曲刀シャムシールを両手で構えたミハエルが叫んだ。その言葉に他の隊員たちも手にしていた銃火器を捨て、個々の砕珠を召喚した。


「ボルファルト、ここは俺に任せろ! あんな奴らの八人ぐらいどうってことねぇ!」

 風天の力が宿る三日月斧バルディッシュを両手に持ったロマーディオが吠えた。そのまま自分の能力である獣人変化ライカンスロープを発動する。

 ただでさえ巨漢の部類に入るロマーディオの体はより巨大化し、顔は狼になる。制服は特別あつらえで張り裂けはしなかった。


「さぁ、行け!」

 旋風を巻き起こす三日月斧を振り回して、猛突進していく。だが、改造人間レプリカント並みの敏捷力がある手下たちはそう簡単には切り裂かれてはくれなかった。それでも、ボルファルトは炎天の力が宿る広刃鎗パルチザンを手に荒くれ者の兄弟に向かっていく。その行く手を強靭化した一人の手下がはばんできた。


「目障りだ! 灰燼かいじんと化せ!」

 手下は明らかに常人離れした動きだったが、ボルファルトは全ての攻撃を上手く躱し、隙を突いて広刃鎗で貫いた。


 凄まじい灼熱の炎に燃え上がった手下は一瞬で黒焦げに焼き尽くされ、塵となった。


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