第3章 暴かれる黒幕
第23話 新たに浮上した黒幕
ビジネス街のあるメルロアドリオ地区に
この組織の一員であるジュリアナが資料室に
高齢の資料室長――コラッド・モンデスバーグに疎ましそうに睨まれながら、これまで敵対した闇に潜む凶悪な犯罪組織に関するファイルをしらみ潰しに調べていた。
今回同時多発襲撃事件に及んだ《
「もう!」
苛立ちからワイヤレスのキーボードとマウスが置かれた机に両手を叩きつける。その行動を見かねたのだろう。コラッドは遠くから大きく咳払いをした。
「どうしよう。このまま手ぶらじゃ帰れない」
スマートフォンを手に取ると、つい先ほどパルマンからの送られてきた返信のメールを読み返した。そこには自分の行動を思い止まる旨の文面が書かれていた。だが、事ここに至っては手遅れとしか言いようがない。
「あいつらはAGIを〝神〟だと崇めている。神……そうよ! 神よ!」
抜群の閃きだと思った。調べる資料が間違っていたのだ。ジュリアナは検索欄に自分が思いついた言葉を入力した。カルト教団と。
WPCOではいかがわしいと思われるカルト教団に入信してしまった家族を救い出す活動も行っていた。特にジュリアナと同い年ぐらいの若者の入信は年々上昇傾向にあった。
一度洗脳された信者を脱退させるのは著しく困難を極めた。その有様をジュリアナも自分の目で見ていた。それ以降カルト教団に対して物凄い嫌悪感と憎悪を抱き続けている。
まずは破壊的なカルト教団だけに絞り込んだ。それにより、随分と調べる数を減らすことができた。残るは何を〝神〟として
「見つけた!」
秘密結社と同じ信仰対象のカルト教団が存在した。教団名は《
初めに教祖の顔と宗教思想が表示され、画面を下にスクロールすることで幹部たちの顔が次々と表示されていく。その中の一人にジュリアナは思わず声を上げてしまった。
年齢は幾らか若かったが、今朝自分を誘拐した連中のリーダーに間違いなかった。
「確か、こいつの名前はゴルティモアだったはず」
これだけでも有力な情報だが、肝心なのは秘密結社とこのカルト教団との繋がりについてだ。
「おい、もうここを閉める時間だ。出て行ってもらおうか」
唐突にコラッドが肩を叩いてきた。資料を調べるのに集中していたジュリアナは驚きで飛び上がりそうになった。
「え、もうそんな時間?」
「そうだ。分かったら、早く出て行ってもらおう」
「今とっても大事なところなんです! もう少しだけ時間をください!」
「わしは規則を順守する人間なんだよ。ほら、出口はあっちだぞ」
ただ単に早く帰りたいだけの窓際職の分際でありながら、偉そうに命令する口振りに段々と腹が立ってきた。ジュリアナは先ほどよりももっと強い力で机を叩いた。
「私は重大な調べ物をしている最中なの! 分かったら、向こうに引っ込んでてちょうだい!」
凄まじい剣幕で怒鳴りたてられたコラッドは「はい」と怯えながら尻もちを着いた。
「ったく!」
ディスプレイに向き直ったジュリアナはすぐに今目にした資料に視線を戻す。何としてでも価値ある情報を掴み取るために。
まずはストリートギャングの《ヴァイオレント・フィスト》についてだ。
ギャングのボスであるマルケスタは
また、監視カメラを調べた結果、バスタベリオス地区での戦闘で死んだ秘密結社の手下にもこのギャングに入っていた人間がいるようだ。それと、手下たちが使った謎の液体には精神と肉体に影響を及ぼす成分が混入されていたことも判明した。
幻覚剤、興奮剤、筋肉増強剤が入り混じった薬で、調べた範囲ではこの都市では販売された形跡は全くない未知の薬らしい。
次にヒュリエント社に関して、だ。
フレデリクス以外の元幹部でナタニエルが失踪する前後に何か怪しげな行動をしていた者はいないという報告が上がった。さらに数人の元幹部がここ数年の間に不可解な死を遂げていることも分かった。
交通事故や水難事故による事故死から自殺のような謎の不審死だ。もしかしたら、口封じのために殺された可能性もあると分析官は示唆した。
都市警察による聞き込みで得た情報は、フレデリクスはここ最近まであの焼失した一軒家に住んでいたようだ。それと、一部破損しているが、部屋にあったパソコンの本体を含めた周辺機器を本部の情報解析室に明朝までに送るという話だった。
フレデリクスに関しては友人や恋人などの交友関係も調査中であるようだ。
以上が現時点までに知り得た内容だった。
隊員たちの間では次にどこを調べるかという話し合いになった。
不審死したヒュリエント社の元幹部たちの再捜査が多数を占めた。ただ、仮にナタニエルが本当に黒幕だとしたら、今回も先に手を打たれている可能性は否定できない。もちろん、裏を返せば、自分が黒幕だと白状したようなものだ。その結果、明日からこの線で捜査することになった。まだ謎の部分はおいおい明らかにすればいい。
ここで今日は解散となった。
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