第22話 同期入隊の絆

「パルマン」

 とても落ち着いた口調でミハエルが声をかけてきた。その声に振り向いた瞬間、強烈な拳がパルマンの頬を殴り飛ばした。


 想定外のミハエルの行動に、パルマンは地面に腰から落ちた。

「お前の行動がどれだけ仲間を危険に晒したのか、分かってるんだろうな! チームワークを乱し、自分勝手に戦ってどんな気分だ!」

 ミハエルも激昂していた。だが、アリシアはこの状況を止めにはいかなかった。パルマンの言葉を待っていた。


「俺、俺はただ……」

「いいか、よく聞くんだ! 連中に頭が来てるのはお前だけだと思ってるつもりか! 僕たちだって同じ気持ちなのがお前には分からないのか!」

 恥じ入るパルマンに対して、ミハエルは目を覚ますように気持ちをぶつけてきた。


(俺たちはずっと後手後手に回って……それに振り回されてる自分が許せなくて……)

 パルマンはその屈辱を言葉には出さなかった。出せるはずがなかった。

「ロマーディオとヴァネッサは俺たちが起こす。その間、お前はそこで頭でも冷やしてろ!」

 少しして、ロマーディオは目を開けた。それから、目の前の凄惨な光景に見入っていた。


「畜生! みんな、すまねぇ! 俺がサブマシンガンをぶっ放したから――」

「落ち着くんだ、ロマーディオ! こっちが撃ったとしても結果は同じだった! これは誰のせいでもない!」

「ミハエルの言葉を信じなよ」ヴァネッサが片足を引きずりながら歩み寄ってきた。

「もし責任を問うなら、秘密結社の連中を舐めてかかったあたしら全員だよ。違う?」

「そうは言ってもよ!」

 一生懸命励ましても、ロマーディオはまだ納得しきれないようだ。


「そうだ、誰のせいでもない。全部俺のせいだ」

 立ち上がったパルマンがゆっくりと歩み寄って来た。

 このときばかりはヴァネッサに心を読まれていないことを祈った。自分の取り越し苦労ではなかった。絶対に敵を侮ってはいけなかったのだ。


「おい、どうしたんだ?」

 ロマーディオは自暴自棄に陥ったパルマンを見て、驚いた顔をした。ここで秘密結社の手下たちと一戦交えたことをミハエルが話した。

「なんだよ、それくらいのことで内輪揉めするなよな。別に誰も死んでないんだし、たまには鬱憤を発散するのも良いんじゃねぇのか」

「あたしも暴走するパルマンを見たかったよ。普段はそういうタイプじゃないからね」

 ロマーディオもヴァネッサも今回の件をそれほど重大事項とは考えていないようだ。


「もう! 二人ときたら、これだもんね!」

 アリシアはパルマンの取った行動をまだ許していないようだ。

「まぁ、さっき説教はしたしな。この場は都市警察(シティーポリス)に任せて、僕たちは退散すべきだと思うな」

 ミハエルの言い分はもっともな意見だった。現状では周囲の聞き込みもままならないからだ。


「そうだな。とっとと本部に戻るとするか!」

 ここはパルマンではなく、年長者のロマーディオが決定を下した。

 痛烈な敗北感を味わいながら、隊員たち全員がエアヴィークルを停止させた場所まで戻っていった。

(いつまで俺たちは敵のやりたいように動き回るんだ? このままで本当に勝てるのか?)

 パルマンはやり場のない憤りから大声で叫びたい衝動を必死に堪えていた。


 帰りの車内は静寂に包まれていた。三人とも無言を貫いている。

 パルマンは窓際に座り、外の風景を眺めていた。

「お、俺はお前らを信用してないとは一言も言ってない。ただ、秘密結社の連中に好き勝手に掻き回されてる自分に腹が立っただけだ。今までこう何度も敵に裏をかかれたことはなかったから――」

「それってただの自惚(うぬぼ)れって言うんじゃない?」

 心の内を曝け出して弁解した。それに対して、アリシアはまだ喧嘩腰だ。パルマンは視線を二人に向けた。


「否定はしないさ。誤解されても仕方ない行動を取ったのは事実だからな。もちろん、それについては悪かったと思ってる」

 悪気はなかったとは言え、この先も絶滅特殊部隊の隊員としてやって行くためには謝るべきだと思った。


 一度失った信頼を取り戻すのは困難を極める。許してもらうまでに途方もない時間がかかるかもしれない。

 再び沈黙が訪れた。

「パルマン、お前がうちらの中で頭一つ抜きん出てるのは理解しているつもりだ。もう二度と同じ真似を繰り返さないなら、僕たちもわだかまりはなくしておきたい」

 どうやらミハエルは許すつもりのようだ。


「アリシア、お前も同じ気持ちじゃないのか?」

「わ、私!? まぁ、さっきはビックリしたけどね。素直に謝ったことだし、許してやってもいいわよ。私たちは同期の三人組(トリオ)だしね」

 その瞬間、車内の空気が和んでいくのを感じた。


 三人は約一年前に絶滅特殊部隊の入隊した同期だ。そう簡単に打ち砕かれるほどやわな絆では結ばれてなかった。

「二人とも、ありがとう」

 照れくさそうにパルマンは感謝した。壊れそうになりかけた関係が元通りに修復された瞬間だった。

(これで、奴らとの戦いにだけに専念できる!)


 再び外の風景に目を向けた。

(切札はまだ俺の手の中だ。取れるものなら取ってみろ!)

 パルマンは決意を新たにした。

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